第320話 大変だのう

 朝のルーティンワークを終え、ただいま台所で一人唸ってます。じいちゃんとミシアは魔法修行に、ジデジルは大聖堂建設地へ。ユゼおばあちゃんはジデジルと一緒。


「うーん……何にしよう……」


 唸って悩んでいる理由は、本日のおやつに出すタルトの事。何のタルトを焼くかで、作り方が少し違ってくるから。


 イチゴはやったし、季節的にもちょっとずれてるかなあ。そろそろ初夏になるから、柑橘系とかどうだろう。


『桃はどうですか?』


 桃かあ……そういえば、再封印の旅の途中で、シロップ漬けを大量に作ったっけ。


 近場の村で豊作になったはいいけど、量が多くなったから買いたたかれそうになっていたのを、適正価格で引き取ったんだよねえ。


 で、生でも食べたけど、一部はシロップ漬けにして亜空間収納へ放り込んでおいたはず。


 あ、あった。よし、じゃあ今日はこれを使って桃のシロップ漬けタルト! じゃあ、アーモンドクリームはなしで、カスタード多めだね。


 まずは昨日作っておいた土台の生地を取り出し、型に敷いて焼く。タルトストーン代わりに豆を入れて、底が浮き上がらないようにしないと。


 焼いてる間に、カスタードクリーム作り。卵黄、ミルク、砂糖……あ!


「バニラがない……」

『天然物ではありませんが、以前作った偽物オイルがあります』

「あれかー」


 そう、魔法でバニラの香りを再現して、オイルにしたものがあるっちゃある。


 でもなあ。やっぱり、天然物が欲しい。だから早く向こうの大陸に行きたいのにー。


 いっそ、ポイント間移動で行って、バニラとカカオを探すかな……


『お薦めしかねます』


 だよねー。一人で勝手に動いたら、じいちゃんに怒られそう。仕方ない、ここは偽物の香りで誤魔化すか。


 卵黄をボウルに入れて泡立て器でぐるぐる。そこに砂糖を入れてさらにぐるぐる。白っぽくなるまで混ぜる。


 ミルクを弱火にかけて、ボウルの方には少量の薄力粉をふるって入れる。そしてまたぐるぐる。粉気がなくなるまでぐるぐる混ぜる。


 ミルクが温まったら、ボウルに少しずつ入れて、ぐるぐる。いっぺんに入れると、卵黄が固まっちゃうから、少しずつ混ぜながら入れる。


 全部入れ終わったら、濾し器で濾しながら鍋に戻し、火を入れる。ここでもぐるぐる。鍋の端から焦げていくので、焦げないようぐるぐる。


 もったりして艶が出て来たら完成。鍋から器に移す。表面が乾燥しないようラップをぴったりかぶせたいところだけど、ないからそのまま亜空間収納へ。


 乾燥させずに温度を下げられるので、大変便利。おっと、生地が焼けたぞー。


 本当は自然に冷ますんだけど、ここでも魔法を使って時短。重石代わりの豆を取り除き、型から外す。


 ここまで来れば、あとは素材を組み立てるだけ。生地にカスタードクリームを詰めて、上に汁気を切った桃のシロップ漬けを綺麗に並べる。


 うん、いい出来。じゃあ、これは食料棚に入れておこう。




 おやつ作りは終わったので、今後の事を考える。とりあえず、南の二カ所の温泉地は押さえた。


 後は温泉を掘って、建物を作っていつでも入浴出来るようにしておく。そうしたら……


「西の三カ所……やっぱり手に入れた方がいいかなあ……」

『ぜひ、入手するべきです!』


 うん、検索先生ならそう言うよね。南と違い、西は比較的領主様の顔が利く領地が多いらしい。


 今度は領主様に紹介状、書いてもらおうかな。見返りに何を要求されるか、怖いけど。


 とりあえず、南の二カ所の建物デザインだけでもやっておこうか。


 南はハマム風にするので、見た目はイスラム建築風。あくまで「風」であって、そのものではないのがみそ。


 見た目は中央にドーム屋根。それと、塔を四方に置こうか。あれ? これイスラム風というより、モスク?


『参考画像は、確かに有名モスクですね』


 宗教施設じゃなくて、温浴施設なのにー。まあいっか。それっぽく見えるってだけにするから。


 外観はタイルで装飾。汚れたりカビが生えないようにしたいんだけど、護くんにその辺りを組み込んでおこうかな。


 建物そのものは、石材とドラゴンコンクリートで作る。タイルは大量に作ってあるから、二つ建てるのに間に合いそう。


 ふっふっふ、このタイルを作る為の素材狩りも、面倒だったなあ。特にトカゲ。


『ルリイロトカゲは、つるっとしていませんよ?』


 つるっとしていなくても、ぬるっとはしてたでしょ! それに、デカい口のあれをとかげとは言いたくない。ワニですワニ!


 まあ、皮はいい値段で売れたからいいけど。


「一応、二つの建物までの道も、作っておいた方がいいかな」

『フィア夫人の湯治を考えるなら、その方がいいかと。ちなみに、アメデアン領都の境にある温泉は、疲労回復の他に内臓疾患に効能があるようです』

「じゃあ、そっちメインで湯治に行ってもらってもいいね」


 アメデアン伯爵は大公の派閥だし、旧ザクセードは王領だから王族の大公が通過するのに問題なし。


 これで、敵対してる領主の領地を通るとなると、色々問題が発生するんだってさ。


 だから友好的な領地のみを選んで通るか、身元を隠して通るかの二つに一つなんだとか。


 貴族も大変だねえ。

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