第319話 リア充爆発しろ

 叔父さん大公の家の問題は、これで解決! したのはいいんだけど、私的にちっちゃな問題が発生。


 うん、今まで離発着に使っていた裏庭……もとい空き地にドナーさんの家が建ってしまったので、今後どこに下りるかなーってのがね。


「なんだ、そんな事? 今度からは前庭におりればいいじゃない」


 ミシア、そんな「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」みたいに言わないで。


 前庭だと人目も多いし、いきなり出現して今以上の騒動になるのは勘弁してほしいんですが。


「すまんな、嬢ちゃん。わしの家の為に……」

「いやいや、ドナーさんが悪い訳じゃないですよ」


 いや本当。今まで勝手にあそこ使ってただけだからね。でも、本当にどうしようかな。


 あの空き地、ポイントも打ってあるから、ポイント間移動でも使ってたんだよねー。


 悩んでいたら、叔父さん大公から素敵な提案が。


「じゃあ、庭園の一部を明け渡すから、そこを使えばいいんじゃないかな?」

「え? いいんですか?」


 でも、あの綺麗な庭園の一部とはいえ、潰すのは気が引ける……


 と思っていたら。


「何、近々庭を作り替える予定だからね。その前段階として、あの辺りに空き地と同じくらいの小さな広場を作ればいいだけだから」


 お貴族様ってば、やる事が違うねー。庭の作り替えですってよ。こんなに広い庭なのになー。


 何でも、この庭園は叔父さん大公の前の前の大公妃が造らせた庭らしい。なので、叔父さん大公の趣味じゃなかったんだって。


「その先々代公妃は、選民意識が服を着ているような人だったそうでね。母上も、若い頃は大分やられたそうだ」


 なんと! あのジジ様をいじめていたとな!? よく聞いたら、ジジ様が嫁いできて間もない頃で、その時先々代公妃は七十過ぎのお婆さんだったそうな。


 宮廷の女怪と陰で呼ばれていた人らしいよ。何でも、ジジ様の夫であった二代前の国王のお爺さまの愛人でもあったんだって。


 選民意識が服を着ている、国王の愛人って何それ。まあ、選民意識が高いなら、国王は至高の存在だろうから、愛人という立場も喜んでいたのかもね。


 叔父さん大公としては、母親をいじめていた老女の残した庭なぞ、早い内に潰したかったそうだけど、色々とやらなきゃいけない事が山積みで後回しになってたんだって。


「このところのあれこれで、山積みしていた案件が綺麗に片付いたからねえ。やっとあの忌々しい庭にも手を入れられるよ」


 叔父さん大公、庭を見る目が怖いです。庭に罪はない。花にもね。


 家庭問題も安全問題も片付いたので、ミシアは大公領に戻るかなー? と思ったんだけど。


「え? 私? 戻るわけないじゃない。ここならマクリアの遊び相手にブランシュもノワールもいるし。何より私、まだ先生に魔法を習っている最中よ?」


 だそうな。当面、砦のメンツは変わらないようです。叔父さん大公やフィアさんが寂しがるのでは? と思ったら、向こうは向こうで第二の新婚を楽しむみたい。


「いやあ、フィアが元気になって良かったよ」

「ふふ、私も嬉しいわ」


 そんな事を言い合いながら、ドナーさんでさえ遠い目になりそうな程いちゃこらしてるんですよこの夫婦。


 リア充爆発しろ。




 叔父さん大公からは、大枚を報酬としていただいたので、懐だけはほっくほくです。心は寒風吹きすさんでるけどな。


「もう、お父様達ったら!」


 娘ですらげんなりしていますよ。


 そんな私達は、砦に帰るべく空の上。ミシアは最初から、絨毯での移動を楽しんでいたねえ。


 そういえば、あの男性魔法士、どうしてるかなー?


『ゼヘトならば、コーキアン辺境伯の元で元気に働いています』


 え? マジで? てか、領主様、あの人信用して働かせてるんだ?


『見張りはつけているようです』


 ははは。まあ、そうなるよね。でも、魔法士なら、見張りを巻いて逃げられるんじゃね?


『ゼヘトの腕前では、無理でしょう。攻撃魔法も、一段階目がやっとのようです』


 マジでー? そりゃ確かに。攻撃魔法って、六段階に分けられてるんだけど、その一段階目って……


 ちなみに、一段階目だと、火なら松明程度の火を出せるし、水ならバケツ十杯分程度の水を出せる。風だと多分、扇風機の強風程度の風を起こせるかなあ。


 六段階目は、今のところじいちゃん以外に見つかっていないらしい。あ、私もそのくらいだね。


 一応、六段階目は上限なしって事になってるから。


「あ! 砦が見えてきたわ!」


 お、本当だ。やっぱり、砦は我が家って感じがするねえ。


「あの砦を見ると、帰ってきたって思うわ」


 ミシアもそう思うんだー。


 って、待て。君、砦で暮らし初めて、まだ一月も経っていないんじゃなかったっけ!?




 砦に帰ると、じいちゃんが出迎えてくれた。時間はそろそろ夕飯の仕度の時間。お茶の時間、逃しちゃったなあ。


『明日はタルトを焼きましょう。土台の生地は、今夜中に仕込んでおく事をお薦めします』


 ……と言うわけで、明日はタルトを焼く事になりそうです。何のタルトにしようかなー?

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