第318話 多分気のせい
三人はそのまま絨毯に寝かせて屋敷の中へ。叔父さん大公がもの凄く何かを言いたげな目をしてこっちを見てくるけど、知らない知らない。
叔父さん大公の執務室に入って、ようやく三人を起こす。どうやるかと言えば、簡単な話で毛布を引っ剥がすだけ。
「ううん……」
「ふあああ。あー、おうちに着いてるー。……お父様!」
「え……あら……?」
ドナーさんは寝起き悪いのかな? ミシアはすっきり起きて、叔父さん大公に飛びついている。フィアさんは、まだ寝ぼけてる感じ?
でも、徐々に覚醒して、その大きな目に涙が浮かんだ。
「フィア」
「ナバル……これ、夢じゃないのよね?」
「ああ、そうだとも」
叔父さん大公がフィアさんをそっと抱き上げて絨毯から降ろした。病気で大分細くなっちゃってるから、軽かっただろうなあ。
そのまま二人はがばっとばかりに抱き合った。隣でミシアがによによしてるよ。
「……まあ、フィアが幸せならいい」
いつの間にか起きて絨毯から下りていたドナーさんが、渋い顔でそう呟いた。男親じゃないけど、祖父の立場でも、やっぱり「娘」が取られたみたいに思うのかね?
叔父さん大公もそのうち体験しそうだけど。ミシアがいるから。
やっと落ち着いたところで、ドナーさんの家をどこに置くかを決めてもらった。
「家をそのまま運ぶとは……君、本当に常識外れな事をするよね」
「失礼ですよ!」
全く、さすがあの銀髪陛下の身内だね!
「だがまあ、今回は本当に助かった。ありがとう」
「ありがとうございます」
「お願い聞いてくれて、ありがとうサーリ」
叔父さん大公一家にお礼言われちゃったよ。叔父さん大公なんか、嬉しそうな顔でフィアさんと見つめ合ってるし。手なんかも握り合っちゃって。
リア充爆発しろ。こちとら旦那に浮気されてからのバツイチだぞ。
あれ? こっちでは戸籍そのものがないから、バツは付かないのか。
「嬢ちゃん、わしからも礼を言わせてくれ。本当に感謝してる」
「いいですよー。今回の事に関しては、大公殿下からたっぷり謝礼いただくので」
なーんちゃって。温泉に関する便宜を図ってもらったから、チャラのつもりでーす。ちょっとした冗談だよ。
って思ってたのに。
「ああ、期待していたまえ」
あれ? なんか、普通に話が進んじゃったよ? フィアさんもミシアも頷いてるし。
どうしよう。今更「冗談でしたー」って言える雰囲気じゃない。ドナーさんは目頭押さえてるし。
ここは一つ、話題逸らしを!
「あ、ああああの、家! ほら、ドナーさんの家! 置き場所、どこにします?」
「ああ、そうだったね。我が家の敷地内に移設出来そうかい?」
ここの敷地内? 屋敷だけでなく土地自体が広いから、あの家くらいなら簡単に置けるかなあ。
いや、ドナーさんの家も十分大きいんだけど、叔父さん大公のお屋敷はそれの十倍以上の広さだからね。もう宮殿だもん。
「出来ますよ。どこにしますか?」
「そうだなあ」
「裏! 裏庭の端っこにしてくれ!」
ドナーさんからの希望が入りましたー。裏庭っていうと、いつも絨毯やほうきで下りる時に使っているあそこかな?
「裏庭って、絨毯で下りてきたあそこ?」
「いや、あそこは庭とは言えない、ただの空き地だね」
あれ、空き地だったんだ……ていうか、自宅の敷地内に空き地って……
「裏庭……というか、庭園は向こうに広がっている部分だよ」
そう言って、執務室の窓から指し示したのは、どーんとどこまでも広がる広大な土地だった。これ、自然公園とか言いませんかね?
「これ、裏庭?」
「まあ、確かに表ではないので、裏は裏なんだが……」
ですよねー。裏庭って、もっとこう、じめっとして日当たりの良くない場所ってイメージだよ。
でも、窓の外に広がっているのは、日当たりのいい、綺麗に手入れされた公園。いや、庭園か。
この端っこって、一体どこよ? あの遙か彼方に見える辺り? お屋敷からかなり遠くなるんだけど、いいのかな?
ドナーさんを見ると、うんうんと頷いている。
「これだけ綺麗な庭園なら、端でも十分な場所だ」
叔父さん大公はそう思っていないみたいだよ。眉がハの字になっちゃってる。
「それではフィアが気楽に遊びに行けないじゃないですか」
「いや、だが」
「毎回の食事にこちらに来るのも、離れていたら大変でしょう?」
「いやいや、食事くらいは一人で――」
「お爺さま! お一人で食事だなんて、そんな!」
おお、ここでドナーさんにとっての可愛い孫娘であるフィアさんからの、涙の訴えが! ドナーさん、ぐらぐら揺れている!
「そうよ、ひいお爺さま。ちゃんと見えるところにいてくださらないと」
ミシアのアシストが入って、ドナーさん撃沈ー。結局、いつも下りる時に使っている空き地に家を出す事に決まった。
ドナーさんが疲れてみえるのは、きっと気のせいだね。
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