第317話 こっちみんな
最初に行った時よりも早く、ポートックに到着。道というか、位置を把握しているとやっぱり早いよね。
「ただいまー」
村の一番奥の、ドナーさんのお屋敷にミシアが駆け込んでいく。本当によく走るお姫様だよね。
遅れて入ると、ドナーさんとフィアさんがこちらを見ている。
「どうしたんだ? 二人とも。何か、忘れものかい?」
「え? 違うわよ。お父様のところに行って、ちゃんと許可をもらってきたの。だから、ここに戻ってきたんだから」
「え!?」
ドナーさんとフィアさんの目が丸くなってる。まあ、驚くよね。この世界、車も列車もないから、移動と言えば歩く、馬か馬車に乗る、くらいしかない。
「ミシア、本当にナバルのところへ行ってきたの?」
「大丈夫。心配しないで。お父様はお母様が治った事に驚いていたけど、とても喜んでいらっしゃったわ。それと、ひいお爺さまの事も問題なしよ」
そんな母娘のほのぼのやり取りの横で、ドナーさんが驚きで吹っ飛んでいた意識が戻ったらしい。
「いや、待て待て待て。おかしいだろう! ついさっきうちを出たばかりじゃないか!」
さっきと言っても、もう三時間は経ってるよ? 砦によってお昼食べてから、叔父さん大公のところに行ったんだし。
ミシアも同じような事を思ったらしく、首を傾げつつドナーさんに答える。
「でも、お父様のところにはちゃんと戻ったし、その前に砦でお昼食べたし」
「と、砦?」
ドナーさん、驚くのはそこ?
「今私がお世話になっているところ、このサーリの持ち物なの」
「砦を持っているとなると、どこかの貴族か何かですかな?」
「ただの冒険者です」
私の返答に、ドナーさんが混乱している。おかしいな、そんな術式は使っていないんだけど。もしかして、無意識で使ってる?
『そんな事実はありません』
あ、やっぱそうですよね。それだけ、今回の移動時間の短さが、ドナーさん達の常識を越えているって事か。
まあ、それはいいとして。
「お二人とも、すぐに引っ越しますから、必要なものは指示してください。指示がない場合、この家の中にあるもの、全部持っていきますよ。何なら、家丸ごと持っていきますが」
「はあ!?」
またしても、ドナーさんとフィアさんが目を丸くしている。驚き過ぎて、心臓止めないようにね。止まっても、すぐに動かすけど。
結局、すぐに仕度なんて、と言うので、家丸ごと亜空間収納に入れた。目の前でやったら、二人ともまたしても目を丸くしていたけど。
あ、家の周囲には幻影の結界を張ってから収納したので、周囲から騒がれる事はありません。
「サーリ、あの木も一緒に頼んでいい?」
「ああ、これね」
「その木ね。お婆さまが生まれた時の記念で植えられたんですって。お母様に聞いた事があるの」
そうなんだー。じゃあ、これも一緒に持っていこうね。と言うわけで、根っこごと亜空間収納へ。
この頃になると、やっとドナーさん達が復活した。復活するまでの時間が、段々短くなってるね。こうやって人は、慣れていくんだな。
「じゃあ、二人ともこの絨毯に乗ってください。あ、靴は脱いでね」
飛んでる間は結界で保護するので、どんだけスピードを出しても風圧で飛ばされる事はないし、上空を飛んでも寒さに悩まされる事もない。
とはいえ、フィアさんはまだ病み上がりの体なので、負担がかからないよう絨毯で横になってもらい、上から毛布を掛けている。
「まあ、とても軽くて暖かいわ」
ふふふ、コビトヒツジの毛で作った毛布だからね。安眠効果もあるので、飛んでる間はお休みください。
あ、ミシアも一緒に毛布に潜り込んで、フィアさんの横で寝始めちゃった。自由だなあ。
「ほ、本当にこれが飛ぶのか?」
「そうですよ。今も浮いてるでしょ?」
「それはそうだが……」
絨毯は、乗り降りしやすいように膝の高さで制止している。その上で、既にフィアさんとミシアはすうすうと寝息を立てていた。
「……考えるだけ、無駄か」
何かを諦めたようなドナーさんが靴を脱いで絨毯に上がる。靴はちゃんと亜空間収納へ。
では、大公領まで行きましょうか。あ、幻影の結界は明日には解除されるよう、タイマー仕込んでおこうっと。
大公領までの空の旅、ドナーさんも途中から毛布をかぶせて寝かせておいた。あのままじゃ、精神がもたなかったと思う。青い顔してブルブル震えてるんだもん。
良い仕事するねえ、コビトヒツジの毛。
地上一千メートルの高度をかなりの速さで飛んでいる。大丈夫、音速までは出ていないから。
私以外の三人とも寝かせたので、遠慮なくスピード出してます。
と言うわけで、あっという間に大公領へ。これ、馬車で移動したら何日かかったんだろうなあ。
結界を張っている最中は見えないようになっているので、裏庭に下りてから結界を解除すると屋敷から悲鳴が聞こえる。
毎度お騒がせしてすみません。
「サーリ! フィアとミシアは!?」
おお、今日は叔父さん大公自身が裏庭まで駆けてきましたよ。後ろからおろおろするメイドさんやら執事さんが付いてきてる。
「ここにいますよー。ぐっすり眠ってます」
「え? 眠って?」
「フィアさん、まだ病み上がりだから。移動で体力削られると思って、この通り眠っていてもらいました。あ、ミシアも一緒です」
「……こちらに、ドナー卿も寝ているようだが?」
「あ、ドナーさんは精神がもちそうになかったので、強制的に眠ってもらいました」
叔父さん大公が、凄く残念そうな顔でこちらを見てくるんですけど。
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