第316話 しーらないっと
叔父さん大公の執務室に辿り着き、ミシアが扉を乱暴に開ける。この子、お姫様なのにー。そんなに乱暴な行動しちゃダメでしょ!
「ミシア?」
「お父様! お願い! ひいお爺さまをここに呼んで!」
「え?」
ミシア、すっ飛ばし過ぎ!
「すみません、殿下。実は――」
「お母様の病気が治ったの! それでここに戻ってきてほしいのだけど、ひいお爺さまを一人置いていくのが心苦しいのですって! お願い、お父様! ひいお爺さまをお母様と一緒に呼んでちょうだい!」
うん、そういう事です。いっぺんに色々聞いた叔父さん大公は、かなり混乱しているらしい。
「え? ちょ、ちょっと待ってくれ。君達、確かフィアの見舞いに行ったんだよね?」
「そうよ。そこで、サーリがお母様を治してくれたの!」
「フィアの、病気を? 彼女が?」
叔父さん大公、そんな、信じられないものを見るような目で見るの、辞めてもらえます? 傷つくんだからね。
しばらくして、ようやく叔父さん大公が復活した。
「……話を整理したいんだが、本当にフィアの病気が治ったんだね? 彼女は、健康になったと?」
「ええ、そうよお父様」
「まあ、健康になったかと言われると、まだ病み上がり状態ですとしか言えませんが」
「それでも、あの厄介な病気は治ったんだな……」
体中のがん細胞を消滅させて、今後がん細胞が発生しないように強化もかけたから、多分平気。
『強化の魔法は持続期間がありますので、二年後に一回、それを二回繰り返すべきです』
まあ、それまでに私がダガードにいれば、やるよ。その前に、ミシアが使えるようになればいいのか。
「それで、ミシアが言うひいお爺さまというのは、フィアの祖父であるドナー卿でいいんだね?」
おじいさん、ドナーさんっていうのか。ミシアが頷いている。
「そうか……確かに、ドナー卿は一人暮らしだと言っていたな……だが、あの国がドナー卿を簡単に手放すかな……」
「ひいお爺さま、何か秘密でもあるの?」
ミシアの疑問に、叔父さん大公が苦笑しつつ教えてくれた。ドナーおじいさん、あの国ではちょっとした英雄扱いの人らしい。
なんでも、ドナーさんって騎士爵出身の人間で初めて騎士団長に選出された人なんだって。実力だけで上り詰めた、珍しい人らしい。
ドナーさんが現役の頃って、ポートックがあるスアテーラ王国は、南の隣国と紛争状態だったらしく、そこでの戦闘でことごとく勝利を収め、スアテーラに有利な条約を結べるようにした立役者だそうな。
「その武功により、本当なら一気に伯爵位を賜るはずだったらしいけど、奥方があまり丈夫な人ではなかったようでね。奥方の故郷であるポートックから動きたくないという理由で、陞爵を断ったそうだ」
へー。そこまでして、あの村にとどまりつづけたって事か。でも、その奥さんはもう亡く、その血を引く孫娘とひ孫娘がいる場所ならって事で、今回の大公領行きを承諾したんだね。
「そんな経緯があるから、あの国がドナー卿の出国に首を縦に振るとも思えないんだが」
「大丈夫よ。空を飛んじゃえばわからないから」
ミシアー。それ、密出国を提案してるって事、わかってるー? でも、私達もやったんだよね、密出国に密入国。
だって、国境も空を飛んで越えたから。税関その他通っておりません。
ミシアの提案を聞いて、叔父さん大公は目を丸くしていたけど、ちらりとこちらを見た事に気づいていたよ。
別に、ミシアに悪い事吹き込んだのは、私じゃないよ? 自力でその案に辿り着いてるからね?
まあ、空を飛べる手段を教えたのは、私だけど。
叔父さん大公は深い溜息を吐いた後、覚悟を決めたようだ。
「わかった。いつ頃、二人を連れてこられる?」
「お父様さえ許してくださるなら、今すぐ行って帰ってくるわ」
「……本当に、とんでもない事になったものだよ」
心中、お察しいたします。
叔父さん大公からお許しが出たので、ミシアと共に再び空の旅へ。ええ、また密出国、密入国ですよ……
こう、自覚すると大変罪悪感がですね。
「どうかしたの?」
「うん、いや、今も罪を犯しているのかと思うと、ちょっとね」
「はあ?」
自覚がないミシアって、うらやましい。
「今もまた、密出国、密入国する訳なんだけど、それって犯罪でしょ?」
「そうかしら? 戦争の時なんか、国境線はあってなきがごとしって聞いたわよ?」
「今は戦争中じゃないでしょー」
「いつ戦争になるかなんて、わからないわよ。それに、悪い事をする為に国を行き来する訳じゃないもの。ちょっと手間を省いただけよ」
その考え方、うらやましー。でも、君の立場でそれは危険じゃないのかね? まあ、その辺りの再教育に関しては、叔父さん大公の仕事だからいいや。
「大丈夫よ。気づかれなければ罪にはならないわ」
いい笑顔で言う事じゃないと思うんだ。
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