第314話 大丈夫!

 その場にいる、私以外の全員が驚いている。多分、フィアさんの病気が治療不可っていうのは、散々聞かされてきた事なんだろうなあ。


 だからか、驚きから復活したおじいさんが、最初に口を開いた。


「お嬢ちゃん、そんな与太話をするもんじゃない。まして、病人の前で――」

「与太話じゃないですよ。ちゃんと、治せます」

「嘘を吐くな!」


 いきなりの怒鳴り声に、私だけでなくミシアもびくっとしてる。


「今まで何人の医者に診せたと思っているんだ! その誰もが治療は無理だと言ったんだぞ! それを!」

「お爺さま、落ち着いて」

「これが落ち着いていられるか!」


 フィアさんが宥めようとしても、おじいさんは止まらない。もう、しょうがないなあ。


「ちょっと、静かにしていてね」


 おじいさんの回りに、淡い色を付けた音も遮断する結界を張って、閉じ込めておく。


 結界の中で暴れてるけど、もうちょっとそこでおとなしく待っててね。


「さて、静かになったところでやりますか!」

「サーリ、あなたって……」

「ん? 何?」

「はあ……いいわ。お母様の病気、本当に治るのね?」

「任せて!」


 何かミシアが複雑そうな顔をしているけれど、構ってる暇はない。本当に急がないと。


 検索先生、まずは何からしたらいいですか?


『患者を眠らせてください。痛みがくる可能性がわずかですがあります』


 了解です。


「フィアさん、少しの間、眠っていてください」

「え? あの……」


 言葉の途中で、催眠の魔法が効いてくる。こうして見ると、本当にガリガリだ。


 そういえば、がん細胞って脂肪細胞を溶かすとかなんとか、テレビでやってたっけ。あれ、本当なのかな。


『次に、体全体のがん細胞を死滅させます』


 おっと、今はそんな事を考えてる場合じゃなかった。えーと、がん細胞ね。まずは全体をスキャンして、がん細胞だけ探し出す。


 うわあ、本当に体中に転移してるよ……で、これを全部死滅させる、と。あれ? 本当にあっという間に体中のがん細胞が消えちゃったよ。


 いいの? こんな簡単で。


『次に、内臓の回復を行います』


 ああ、うん。大分衰えちゃってるもんね。魔法でゆっくりと回復させていく。そして、最後に体力回復をさせて、終了。


 後は滋養のつくものを食べて、自然に回復させた方がいいんだって。魔法で一挙に治す事も出来るんだけど、それやると患者の負担が半端ないらしい。


 緊急事態でどうしても、の時以外は使わない方がいいんだってさー。さて、じゃあ全部終わったのでフィアさんを起こしましょう。


「う……ん……」

「お母様! 大丈夫? どこか痛いところや苦しいところはない?」

「……ないわ。ずっと続いていた痛みも、どこにもない」


 信じられないという顔で、フィアさんは自分の手や体を眺め回している。よし、これで治療完了。


『最後に、強化魔法を少し使っておきましょう。がん細胞が再発すると厄介です』


 あ、そうか。ガンは再発が怖いんだっけね。よし、強化っと。


「サーリ、今使ったのは?」

「強化の魔法だよ。病気が再発しないようにね」


 ミシアからの質問に答える。ミシアは魔法修行をしているから、魔法を使った事に気づいたんだろうなあ。


 普通は、わからないからねー。だからおじいさんを閉じ込めた結界には、薄くだけど色を付けたんだよ。


 でないと、何をされたのかわからないから。見えない壁に激突して怪我したりしたら、大変。


 ……って、そういえば、閉じ込めたままだった。


「……っと、やっと出られた! 貴様! 一体何を――」

「お爺さま! 彼女が、私を治してくれたのよ!」


 フィアさんの涙ながらの訴えに、おじいさんは気勢を削がれてる。困ったような顔で、振り上げた拳をそのままに、フィアさんと私を交互に見てるよ。


 ミシアがそっと、おじいさんに近づいて振り上げた拳を下ろさせた。うん、ナイスアシスト。




 おじいさんがお茶を入れてくれたので、みんなで飲む。どうやら、おじいさんはフィアさんのおじいさんで、ミシアの曾祖父になるらしい。


「ひ孫がこんなに大きくなっとるとはなあ……」


 孫娘が大変なところに、ひ孫娘がよくわからない魔法士を連れてきたんだから、そりゃ混乱もするよねー。


 しかも、その魔法士が誰も治療出来ないと言われていた孫娘の病気を治しちゃうしさー。


 和気藹々としている祖父と孫娘とひ孫娘を眺めながら、そんな事を考える。まー、これでフィアさんは助かったのだから、一緒に大公領に戻っても大丈夫でしょ。


 これまでの事、フィアさんの事、亡くなったらしいおじいさんの奥さん、ミシアの曾祖母の事。


 色々話して、少し間が空いた。


「お母様、病気も治ったし、一緒にお父様のところに帰りましょう」

「そうね……ナバルは、まだ私を待っていてくれているのかしら……」

「当たり前じゃない! お父様は、お母様からの手紙が届くのを、毎日のように待っていたのよ」


 どうやら、お互い手紙のやり取りだけはしていたらしい。といっても、フィアさんはついさっきまで、いつ死ぬかわからない身だったしなー。


 叔父さん大公も、どこか覚悟をしながら手紙を送っていたんだろうね。考えると、ちょっと辛い。


 でも! もう病気は治ったし、あとは体力つけるだけ! おいしいもの食べて、温泉入って、完全復活しましょう!

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