第313話 街……村?

 ミシアのお母さん、フィアさんがいるのは、フィアさんのお母さんの実家である隣国スアテーラ王国。


 そこの、地方都市であるポートックという街にいるんだって。ポートックはフィアさんのお母さんの出身地というだけでなく、フィアさんが子供の頃を過ごした場所でもあるらしいよ。


 温泉別荘でミシアに「お母さんに会いに行こう」と言って、翌日にはもうここに来ました。


「山だねえ」

「山ねえ」


 結構大きな山の裾に広がるのが、ポートックという街……村? だ。


「えーと、ポートックの一番奥、庭に大きな木のある家、だって」

「そこに、お母様が……」


 ミシアはここ、来た事がないらしい。まあ、大公殿下のお姫様だから、そう簡単に国外には出られなかったみたいだし、何より生まれてからずっと命を狙われている立場だったからね……


 フィアさんも、相当危ない目に遭ってきたんだって。だから、療養する時にここを選んだそうだよ。


 本当、貴族共はろくな事をしない。あ、領主様みたいにいい人もいるので、十把一絡げで考えちゃだめか。


 ここまではじいちゃんの絨毯……ではなく、自前で空飛ぶ絨毯を作った。ほうきは一人乗り用で、絨毯は複数人用だね。


 じいちゃんが持っているやつより、大きめの絨毯にしたし。そして絨毯も亜空間収納で作ったので、ちょと色味……というか柄が……


『何か問題でも?』


 いえ、何でもないです。柄が、全面ハートっていうのは、ちょっと恥ずかしいかなあって思ったりしただけです。柄のチョイスは検索先生だ。


 村の側の林で絨毯を下りて、二人で村に入る。特に壁も門もないから、入り放題だね。


 まばらに建つ家、村の中を流れる小川、のどかな風景だなあ。


「あ、あそこ?」


 ミシアが指差す方向には、大きな木のある家。まだちょっと距離があるけれど、木が大きいから一目でわかる。確かに村の奥だわ。


「行きましょう!」


 ミシアが私の手を引っ張って走り出す。これ、前にもあったああああああ!


 村の中を緩く蛇行しながら奥へと伸びる一本道、そこをミシアに手を引かれて走る。ミ、ミシア、もうちょっと、ゆっくり……


 結局、家の前に到着する頃には、肩でぜーぜー息をする羽目になった。


「サーリはダメねえ」

「ちょ……ま、待ってって……言った……」


 息が整わなくて、言葉が切れる。いや、マジでどうしてそんなに体力あるのよ。あれか、十二歳だからか。


 こちとら鍛えてもいない二十歳目前の女なんだぞ。確かに、この年齢でぜーぜーいうのもみっともないけどさ……


 ミシアに何とか待ってもらって、息を整える。初めて訪問する家の人の前でまで、ぜーぜーやりたくないよ。


 そんなこんなしていたら、家の中から誰か出てきた。


「あ!」

「はい?」


 出てきたのは、腰の曲がったおじいさん。もしかして、ミシアのおじいさん? じゃないか。ここはフィアさんのお母さんの実家だよ。


「はて、旅の人かのう? こんな辺鄙な田舎に、何の用やら」

「あ、あの! お母様のお加減はいかがですか!?」


 ミシアが叫んだー。その前に、色々あるでしょー。


 でも、その一言で、おじいさんにはミシアが誰だかわかったらしい。


「あんた、フィアの娘か?」

「そうです! ミシアです!」


 いや、君の正式名称はミザロルナでしょうが。おじいさんはミシアを見て、何だか痛ましいものでも見るような顔をした。


 フィアさん、そんなに悪いんだろうか。


「……立ち話もなんだ。お入り」


 おじいさんに言われて、家の中に入る。ちょっと古いけど、よく手入れされた居心地の良さそうな家だ。


 おじいさんは、家の奥へと足を向ける。


「こっちだよ……フィア、びっくりするお客さんが来たぞ」

「誰?」


 扉の向こうから聞こえてきたのは、女の人の声。おじいさんが扉を開けるのを待っていられない様子で、ミシアが仲に飛び込んだ。


「お母様!」

「ミシア?」


 大きな窓のある、明るい大きな部屋。そこに置かれたベッドにいたのは、痩せこけた女性だった。


「お母様……お母様……」

「ミシア……ああ、本当にミシアなの? よく、顔を見せて。あなた、よく無事にここまで……」


 感動の親子の再会……といきたいところだけど、今のフィアさんを見ると、一刻の猶予もない感じ。検索先生!


『やはり、ガンですね。大分転移しています。一挙にがん細胞を死滅させるのがいいかと。その後、肉体と内臓の治癒を行いましょう』


 任せて!


「ミシア。それと……えーと、初めまして、娘さんとおじ……大公殿下には、お世話になっています。サーリといいます」

「まあ、もしかして、あなたがミシアをここまで?」

「はい」


 勘が良いな、フィアさん。ミシアも嬉しそうに「空を飛んできたのよ!」

と言っている。


 おじいさん、そんな胡散臭いものを見るような目で見ないでください。本当に空を飛んで来たんですよ。


「それでですね。いきなりなんですが、病気、治しましょう!」


 私のいきなりの言葉に、フィアさんやおじいさんだけでなく、さすがのミシアも驚いている。ふっふっふ、驚くのはまだ早いぞ。


「体を治して、一緒に大公領に帰りましょう! 皆さん、待ってますよ」


 大丈夫。ちゃんときっちり治すから。

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