第312話 重い話だった

 ミシアと叔父さん大公が話し合った後、叔父さん大公がこちらにやってきた。一応、笑顔。


「サーリ、ミシアのお願いについて、少し話したい事があるのだが」

「じゃあ、こちらに」


 広く作ってある温泉別荘には、部屋はたくさんある。中でも、板張りで椅子に座るタイプの部屋を選んだ。


 部屋に入ってすぐ、音が漏れない結界を張る。


「……ありがとう」

「どういたしまして」


 結界に気づくんだ。叔父さん大公も、案外魔法の素質があるかもね。素質がない人って、側で魔法が使われても全く気づかないっていうから。


 六人掛けの大きなテーブルに、二人で座る。少人数用のテーブルは、用意してないんだよ……今度、作っておこうっと。


「さて、何から話したらいいか……」

「差し支えなければ、どうしてミシアのお母さんが国外で療養しているのか、聞いていいですか?」

「そうだね……そこからの方がいいか。妻は、フィアは病でもう長くないんだ」


 いきなり重い話キター。病で長くないって……相当なんじゃないかな。


 この世界、神様がいるし魔法があるので、実は病気で亡くなる人って少ないらしい。


 大抵は魔物や魔獣に襲われたり事故にあったり暗殺されたりして死ぬんだって。あ、暗殺は王侯貴族が主な被害者だけど。加害者もか。


 なので、病気で死ぬのは余程の貧乏人くらいだそうだ。それだって、教会に行けば結構助かるらしいけど。


 叔父さん大公なら、ミシアのお母さん、フィアさんの為ならいくらでもお金をかけただろう。


 それこそ、南ラウェニアから腕利きの治癒魔法特化の魔法士を呼び寄せる事だって出来たはず。


 でも、そうはしなかった。もしくは、やっても効果がなかったって事?


「先が長くない事、それに王位に関するゴタゴタが絶えない事などから、フィアは幼い頃を過ごした、彼女の母の実家で最期を迎える事を希望したんだ。もちろん、悩んだよ。ミシアはしっかりしているといっても、まだ十二歳。成人年齢に達していない。そんなあの子から、母親を取り上げるような事をしてもいいのかとね。フィア自身、随分苦しんでいた。でも、自分の存在がミシアの為にならないと判断したらしくてね……いくら、そんな事はないと言っても、聞き入れなかった……」


 叔父さん大公、話しているうちに泣きそうな顔になってる。大公自身、フィアさんを亡くすのが怖いんだろうな。


 にしても、病気かあ……検索先生、何かわかりますか?


『一度、当人を見てみない事にはなんとも。おそらくは、という病名はありますが』


 え? 何?


『この世界で、一番治りにくくかつ生還が難しい病気はガンです』


 ガン!? 日本でも、死因の上位に入る病気じゃない。


『ガンはこの世界の薬では治りません。また、通常の治癒の魔法でも治りません』


 何でだろう……魔法なら、いくらでもがん細胞を死滅させられそうだけど。


『それは出来ます』


 え!? どういう事?


『この世界に、がん細胞という認識そのものがありません。病気は体の生命力が低下しているものと判断され、治癒魔法はその改善の為に発展しました。その為、ガンやそれに類する病気にはそもそも向きません。薬も同じです』


 ……つまり、体の中に悪い部分が潜んでいて、それを切除すれば治るという考え方そのものがないから、ガン治療にならない、って事?


『概ねあっています』


 って事は、もしフィアさんがガンなら、私なら治せる?


『がん細胞を死滅させる事は、たやすい事でしょう』


 なら、やるしかないでしょう!


「おじ……大公殿下、奥さんのいる場所って、どこですか?」

「え?」

「一度、ミシアを連れて会いに行ってきます」

「……そうか、そうだな。彼女も、最期に娘の顔を見たいだろう」


 あーもー、すっかり諦めちゃってるよー。でも、ここで変に期待を持たせる事も言えないし。


 全ては、フィアさんを診てからだしね!




 話は終わったとばかりに、みんなのところへ戻る。あれ? ジジ様達女性陣がいないよ?


「ん? おお、婆さん連中なら、あっちの……たたみ、とか言ったか? 向こうの部屋に集まっておるよ」

「ありがと、じいちゃん」


 みんなが集まってる広めの部屋の、廊下を挟んだ向かい側には畳の部屋が作ってある。一人で来た時には、そこでごろごろしてたんだ。


 大きく取った窓から、庭園も見渡せるようになってるし。東南に向いているから、日差しもたっぷりで昼寝には最高。


 とと、そんな場合じゃなかった。


「失礼しまーす」


 襖を開けると、確かにみんないる。ジジ様や侍女様方、ユゼおばあちゃんにジデジル。そしてミシア。


「ミシア、ちょっと」

「何?」


 私に呼ばれて廊下に出てきたミシア。顔は期待に輝いている。そうだよねえ。このタイミングで私が呼び出すって事は、フィアさん関連だもんねえ。


「あのね、大公殿下と話したんだけど」

「お父様の事、説得してくれた?」

「その前に、一緒にフィアさんのところにお見舞いに行かない?」


 あ、ミシアが驚いて目も口も丸くなった。

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