第310話 勢揃い

 道作りは予定通りに進み、三日かけて二番湯三番湯までの道が出来上がった。温泉別荘の周囲には堀を巡らせて、山の入り口から別荘の周辺までを見回るように、護くんを配置する。


 これで防犯は完璧。この辺りには、護くんに勝てるような存在はいないからねー。


「という訳で、いつでも馬車で二番湯三番湯に行けるようになりましたー」


 道が出来上がった日の夕飯が終わった後に、発表する。ちなみにジジ様達には手紙でさっき報せておいた。


「これでお婆さまと一緒に温泉に行けるのね」

「そうだね」


 いやあ、お待たせしました。


「温泉は疲れに効くものねえ」

「ユゼおばあちゃんも、また一番湯に一緒に行こうね」

「ええ、ぜひ」


 聖地で長い事大変な思いをしてきたからね。地位を退いた今、少しはのんびりして疲れを癒やしてもらいたい。


 ユゼおばあちゃんと笑い合っていたら、ミシアから意外な一言が。


「私も、そっちに行きたい」


 およ? 君は自分のお婆さまと一緒に行くんじゃなかったのかね? まあいっか。


「じゃあ、ジジ様達も招いて、みんなで一緒に行く? ユゼおばあちゃんには、しばらく一番湯を楽しんでもらいたいから、そこになっちゃうけど」


 ユゼおばあちゃんも、いいよね? と目で訴えたら、優しく笑って頷いてくれた。おばあちゃん、大好き。


 ミシアもこの提案に乗ってきた。


「本当に!? 嬉しい!」


 大喜びである。じゃあ、明日にでもジジ様に手紙を送ろうっと。




 朝食の後に返信用の手紙を同封してジジ様に一番湯へのお誘いの手紙を送ったら、早速返事が来た。


『全員で行きます』


 ……全員? 侍女様方勢揃いって事? 詳しい日時を決めるようにともあったから、三日後とかどうですかと、また返信用の手紙同封で送ってみる。


 返事は『了解。現地にて待つ』。……果たし合いか何かの返事かな? 違うよね? ただ、温泉に誘っただけなんだけど。


「どうしたの? 難しい顔して」

「ミシア……いやね、ジジ様からの返事が届いたんだけど」

「ああ、温泉のお誘いね。……随分早いわね。今朝送るって言っていなかった?」

「うん、だからさっき送ったんだけど、全員で行きますって返事がまず来て、いつがいいかってあったから、三日後とかどうですかってまた送ったら、了解、現地にて待つって返事がきた」

「……決闘状の返事?」


 だよねー。やっぱそう思うよねー。とりあえず、届いた返事をミシアに見せたら、彼女も首を傾げちゃったよ。


「でも、とりあえずお婆さまもいらっしゃるのよね。聞くの忘れていたけど、温泉って、そんなに広いの?」

「温泉用の別荘は、結構広く作ってあるから、五十人くらいいっぺんに来ても平気。ただ、人がいないので、おもてなしまでは出来ないけど」

「それはお婆さまが人員を連れてくるでしょう。全員でってあるし」


 まあ、侍女様方が一緒なら、こっちが特に何かする必要はないかー。あ、お弁当くらいは用意しておこうかな。


 あと、イチゴミルクを大量に。




 一番湯に関しては、石切場や鉱山もあるので別荘までの道は既に作られている。こっちは私が作ったんじゃないけど、領主様が命じて作らせたらしいよ。ありがたやー。


 という訳で、三日後、仕度をしてじいちゃん、ミシア、ジデジル、ユゼおばあちゃん、そして私という砦組全員でじいちゃんの絨毯に乗ってゴー。


 本当はポイント間移動が出来るんだけど、ミシアやジジ様には見せない方がいいって言われたから。じいちゃんとユゼおばあちゃんの両方に。


 亜空間収納の中には、お重に詰めたお弁当とイチゴミルク、それと香草茶と麦茶を冷やして入れてある。


 麦茶、作れました。そのうち茶の木も栽培して緑茶やウーロン茶、紅茶作りにも挑戦! 私じゃなくて、検索先生が、ですが。


『最高のものを仕上げてみせましょう!』


 何故か、温泉同様凄くやる気です。


 こっちのお茶って、紅茶じゃないんだよね。どっちかっていうと、ハーブティーみたいな感じ。


 貴族が飲むのは、専用に栽培された香草をブレンドしたもので、庶民は自分達で栽培したり森で採取してきた香草でお茶を作る。


 作り方はいたって簡単、乾燥させるだけ。生のままお湯で煮出すタイプのもあるそうだけど、私は乾燥させたものを使う。


 コーヒーはあるのに、茶の木がないというのも不思議な話。そしてカカオ。ぜひ、向こうの大陸で見つけたいものです。


 空を飛んで一番湯に到着すると、既に入り口前には馬車がたくさん。……たくさん!? 一体、何人が来たの!?


「おお、ようやく到着かね?」


 まず領主様。それと、お付きの人らしき男性と、にこやかな女性。


「そういえば、顔を合わせるのは初めてだったね。こちらは私の妻でシルリーユ、シル、彼女がサーリだよ」

「まあ、夫が世話になっているのですってね。これから、よろしく」


 うおお、領主様の奥様って、こんな美人だったの!? 美人っていうか、かわいい系の美人さん。笑顔が素敵です。


「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」

「何だ、声がうわずっているぞ。シルリーユの前で、緊張しているのか?」


 うるさいですよ、銀髪陛下。何であなたまでここにいるんですかねえ? 仕事はどうした仕事は。


 睨んだら、後ろに控える剣持ちさんににらみ返された。


「カイド、あなたはどうしてそう……もう少し、女性の扱いというものを憶えなさい」


 呆れたように仰るのはジジ様。後ろには、ヤーニ様、シーナ様、レナ様の侍女様方。


 そして……


「やあ、来てしまったよ」


 何でここにいるんですか、叔父さん大公。

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