第308話 ギク!!

 新しいところはまだ手を付けていないので、ユゼおばあちゃんを招待したのは、ここのところご無沙汰だった一番湯。


「……」


 温泉に入ったユゼおばあちゃん、もはや言葉もないようです。きっと疲れが溜まりに溜まっていただろうから、ゆっくり癒やしてね。


「ああ……疲れが消えていきます……」


 ジデジルも、最近教会一掃で疲れてるだろうから、連れてきた。言葉が出る分、ユゼおばあちゃんよりはましな状態なのかな。


 そして湯上がりにはしっかりイチゴミルクも用意してある。


「腰に手を当ててこうぐいっとね」

「こう?」

「こうですか?」


 瓶に入ったイチゴミルクをぐいっと飲んで、二人とも驚いている。そういえば、ジデジルには今まで出さなかったっけ……


「まあ……甘くて冷たくておいしいわ」

「本当ですね! サーリ様、これはなんていう飲み物なんでしょうか?」

「イチゴミルク。多分、余所にはないものだと思うから、ここ限定って事で」


 ジジ様達には出しちゃったけどねー。まあ、銀髪陛下にも、イチゴは向こうの大陸で手に入れたって言っちゃったしね。多分平気でしょ。


 温泉入ってイチゴミルク飲んで、三人で一息吐く。ミシアはじいちゃんとお留守番。魔法修行がちょっと遅れ気味だっていうからね。


「それにしても、温泉ってこんなに気持ちのいいものだったのねえ……」


 おばあちゃんがしみじみと呟く。ジデジルと一緒にうんうんと頷いちゃった。疲れが取れるよねえ。


「それもこれも、教皇という面倒な地位を退いたからこそだわ」

「聖下……」

「ジデジル、もうその呼び方もやめてちょうだい。私は一介の修女なのだから」

「はい、ユゼ様……」


 ジデジル、泣いちゃいそう。そしてやっぱり様付けは消えないんだなあ。ユゼおばあちゃんも苦笑してるよ。これはもう、しょうがないよね。




 持っていったお弁当を食べて、少し休んでから砦に戻る。ユゼおばあちゃん達に、ポイント間移動を初披露。驚かれたけどね。


「これ、他の人には見せてはいけませんよ!?」


 二人して、凄い勢いで言われました。はい、じいちゃんにも言われてます。


 三人でダイニングでちょっとお茶を。風呂上がりにイチゴミルクは飲んだけど、甘いものって後で喉渇くよね。


 朝一番に領主様が突撃してきて、昼前には温泉に行き、今ちょうどおやつくらいの時間。


 そろそろじいちゃん達もこっちに来るだろうから、彼等の分もお茶と茶菓子を用意しておこう。


 今日のお茶はカフェオレ。厳密には「お茶」じゃないね。んで、茶菓子はシュークリーム。思い立って作ってみた。亜空間収納内で、だけど。


 基本的なシュークリームにしたかったんだけど、バニラがないからカスタードクリームが味気なくなる気がして、生クリームのシュークリーム。


 香りって、大事よね。


「あー、みんな帰ってきてるー」

「おお、温泉はどうじゃった?」

「とても素晴らしいわ。毎日でも通いたいくらい」


 ユゼおばあちゃんの感想に、じいちゃんも頷いている。はっはっは、温泉は偉大なり。


「そういえば、お婆さまと一緒に行くって話、どうなったのかしら」


 ギク。そういえば、二番湯三番湯までの道を作るの、すっかり忘れてた。もういっそ、ジジ様も一緒に絨毯で行っちゃおうか。


「ミシア様は、お婆さまと一緒に温泉に行かれるのね」

「はい。……本当は、体にいいって言うから、お母様も一緒に行ければいいんだけど」


 あ、ミシアの顔が曇っちゃった。そういえば、身分が低いっていうミシアのお母さんって、今どこにいるんだろう? お屋敷にはいなかったっぽいよね?


 しかも、今のミシアの言葉からすると、どうやら体調が思わしくないような……


「お母様は、お加減がよくないのかしら?」

「もうずっと、他国に療養に出てるんです」


 療養はまだしも、何で国外?


「まあ。他国だと、簡単に行き来は出来ないわねえ」

「はい……もう三年、お顔を見ていないんです……」


 あ、ミシアが泣きそう。まだ十二。子供じゃないけど、まだ大人って年齢でもない。母親と長く離れているのは、寂しいよね。


 よし、やっぱり絨毯でジジ様と一緒に、二番か三番湯に行こう!


「良かったら、今度彼女に運んでもらって、私とも一緒に温泉に行きましょう」

「いいんですか!?」


 あれ? 何か変な方に話が進んでるぞ? ユゼおばあちゃん、こっちを見てにっこり笑ってますが。


 これ、口は挟めない感じだよね。




 とりあえず、南の二カ所の温泉を掘るのはもうちょっと先に延ばして、二番湯三番湯までの道を作ろうか。


『仕方ありませんね。妥協しましょう』


 すいませんすいません。先にやっとかないと、なんとなくこのままにしちゃいそうで。


 道を作るくらいなら、そんなに時間かからないしね。二番湯も三番湯も、周囲には人がいない山だからなー。


 ここは魔獣が出ないので、そういう意味ではジジ様やミシアが来ても安心。動物はいるけど、熊は出ないらしいので、多分平気。


 オオカミとか猪程度なら、結界を張らなくても罠とか堀とかで対応出来るし。てか、現在もそれで対応してるし。


 さて、じゃあ山の入り口から温泉別荘まで、道を作りますか。

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