第307話 疲れに効く

 ユゼおばあちゃんが砦に来た! という事で、その夜は歓迎会を兼ねてちょっと豪華にした。


 といっても、手持ちのあちらこちらの料理を出して、好きに食べてもらう形にしたんだけどね。


 で、開けて翌日。朝っぱらから砦に客が来た。


「誰? ……って、領主様?」


 護くんから送信された映像には、砦の門の前にいる領主様とお付きの人複数人が映っている。


「ほ。手紙でユゼの事を書き送ったからじゃろ」

「えー? じゃあもしかして、ユゼおばあちゃんのご機嫌伺い?」

「まあ、私、もう教皇じゃないのだけど」


 朝食は済んでるし、朝のまったり時間だったから、まあいいか。護くんに許可を出して、領主様達を中に招き入れた。


「いらっしゃいませー」

「サーリ! 手紙にあった事は、本当なのかい!?」


 やっぱりそれかあ。領主様の顔が怖いです。


「いますよ、上に――」

「そうか!」


 あー、領主様が階段を駆け上がっていっちゃった。お付きの人も一緒に行っちゃったよ。


 しょーがないなあ。私も二階に上がると、ユゼおばあちゃんの前に跪く領主様達がいた。


 領主様ー。ユゼおばあちゃんが困ってますよー。


「顔をお上げください、領主殿」

「いえ、このような地で聖下のご尊顔を拝し、この上ない喜びにございます」


 このような、って、この砦はもう私のものなんですけどー?


「領主殿、私はもう、教皇の座を退いたもの。一介の修女に過ぎません」

「何を仰います。至尊の地位を退かれたとはいえ、あなた様の尊さは損なわれるものではありません」


 へへーっと平伏する勢いです。どうしようね? これ。


 結局、何とかユゼおばあちゃんが説き伏せて、ただいま領主様が角塔のダイニングにおります。


「という訳で、聖地の事は後継に託してまいりました」

「では、ジューゴルス枢機卿に」

「ええ、近く新教皇としてお披露目を行うでしょう」


 ジューゴルス枢機卿という人は、ユゼおばあちゃん曰く権力欲さえなければ、十分教皇の器な人らしい。


 で、神罰でその権力欲が削がれたので、いい人材になったという訳だね。


 ユゼおばあちゃんは、女の教皇って事でかなり周囲からうるさく言われてたらしい。


 でも、おばあちゃんが教皇位に就いた時って、他にその座に就ける人がいなかったんだってさ。権力闘争ばっかやってるからだよ。


 んで、後継さえ育てば、いつでも座を明け渡す用意は出来てたそうな。だから今回、譲位もそれに伴う退位もスムーズに行えたんだってさ。


 その辺りも、領主様にさらっと説明している。


「本当なら、引退したとはいえ、神に生涯仕えると誓った身。聖地にて果てる覚悟でいましたが、ジデジルの事を思い出しまして、最後に一目でもと思いこちらに参りました」

「左様でございましたか……」


 本当かな? ユゼおばあちゃん、砦にいさせてほしいって言ってたよね? 一目見にくるって感じじゃないんだけど……


 ユゼおばあちゃんを見ていたら、こっちを見てにっこりと笑った。あ、あれ嘘だったんだ。


 あのおばあちゃんの笑い方、嘘吐く時のものだもん。




 領主様は、ユゼおばあちゃんが砦に滞在する事、特に教会関連で動く事はない事、大聖堂建設その他にも関わらない事などを聞いて、ちょっとがっくりしていたみたい。


 でもまあ、ここにおばあちゃんが居続ける事には、何故か感謝していたなあ。


「でも、本当にいいの? ここにいて」


 なんとなくそう聞いたら、ユゼおばあちゃんは人の悪い笑みを浮かべた。


「あら、あなたは私がいては困るの?」


 う……そうくるか。


「私は困らないけど、他に困る人はいるんじゃないかなーと思って。主に聖地とか聖地とか聖地とか」

「ほっほっほ、困るなら困らせておけばいいのですよ。今まで散々人の事を馬鹿にしてきたのだもの。困ったところでどうという事はないでしょう」


 あー、これ相当鬱憤溜まってたね。ジデジルも隣で頷いてるから、彼女も似たような思いをしてるんだろう。


 教会組織って、男社会だもんなあ。女性もいるんだけど、高い地位にはなかなか就けないんだよね。


 そんな中で、ユゼおばあちゃんやジデジルが何故高い地位に就いたかといえば、教会改革を行おうとした人がいたかららしいよ。


 結局、その改革は中途半端で終わっちゃったみたいだけど。教会も色々とあるもんだ。


 そりゃそうか。堂々と詐欺を働いたり、違法に金品を巻き上げたりしていたもんね。その辺りは、ジデジルが一掃したって言ってたから、もう綺麗になったんだろうけど。


 ま、そんなお疲れなおばあちゃん達には、やはりこれでしょう!


「じゃあユゼおばあちゃん、温泉行こうか?」

「え?」


 きっと、疲れに効くよ。

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