第306話 住人が増えたー

 現役退いたとはいえ、教皇の地位にいた人が、こんなへんぴな砦にいていいの?


「聖下、いえユゼ様。またお側でお仕え出来るなんて、望外の喜びです」

「ジデジル、あなたがなすべき事は、大聖堂建設ですよ。そこは間違えてはいけません」


 さすがユゼおばあちゃん。ジデジルの軌道修正はお手の物だね。


「しかし、元とはいえ教皇がここにいていいものかのう?」

「まあ、あなたがそれを言うんですか?」


 さすがのじいちゃんも、言葉がないようだ。


「ダメかしら?」


 ユゼおばあちゃんにそんな風に言われたら、断れないよね。それに、考えたらここって、総大主教はいるわ、賢者はいるわ、王族はいるわ、グリフォンの王候補が二匹もいるわ、黒い天馬はいるわ、元神子はいるわ。


 かなりカオスなメンバーだったんだなあ。




 結局、ユゼおばあちゃんに敵う人なんて誰もいないので、おばあちゃんも砦の住人になる事が決まりました。


「じいちゃん、これ、王宮に言っておかなくていいのかな?」

「領主殿くらいには、伝えておいた方がいいかもしれんぞい」

「だよねえ」


 自分の領地に、元教皇がいるのを知らなかった、なんてなったら、領主様のメンツが潰れるかもしれない。


 じいちゃんと相談して、手紙という形で報せておく事にした。いい加減、双方向で連絡取れる手段、作った方がいいのかなあ?


「やめておいた方が無難じゃ。いらぬもめ事に巻き込まれかねんぞ」


 うーん、そっちの方がありそうかー。


「サーリって、一体何者なのかしら?」


 ミシア、そんなじと目で見るのはやめていただきたい。君が抱えているマクリアだって、十分とんでもない存在なんだからね。


「ジデジル様はもちろん、今度は教皇聖下……ああ、前教皇聖下だったわ。その方とまで、繋がりがあるなんて」

「えーと、二人とはじいちゃん繋がりだから……」

「だとしても、お二方ともサーリには凄く気安いわよね。ジデジル様なんて、あがめ奉らんばかりだし」


 ジデジルー。あれ程普段の態度に表さないでって言ったのにー。


「それもほら、じいちゃんの孫だから」


 困った時の他大陸とじいちゃん。今度はじいちゃんがじと目でこっちを見ているけど、見なかった事にする。


 ミシアは納得出来ないでいるけど、これ以上突っ込むところが見つけられないんだろう。渋々引き下がった。




 ユゼおばあちゃんの部屋は、女性陣の部屋が集中している丸塔に作った。というか、空いてる部屋があったから、そこに基本的な家具を入れて、整えた感じ。


「ユゼおばあちゃん、これでいい?」

「ありがとう、十分よ」


 ベッドにドレッサー、本棚に書き物机、クローゼット。全部他の部屋にも入れたもの。


 これ、飛行船の船室に備え付けたものと一緒でもある。素材は毎度おなじみ妖霊樹、コビトヒツジ、ヌメリゴマその他。


「そういえば、おばあちゃんの荷物は?」

「聖職者は、個人のものはほとんど持っていないのよ」

「着替えも?」

「それは、少し持ってきてるけれど」


 そう言って、腰のベルトに通されたポーチを見せる。あ、これ。


「使ってくれてるんだ」

「もちろんですよ。あなたにもらったものだもの」


 前に作った色々入る容量を増やしたポーチ、いわゆるマジックバッグってやつ。


 私の亜空間収納ほど使い勝手は良くないけど、この部屋三つ分くらいの荷物なら詰め込める。


 あれがあるなら、問題ないか。あ、でもここで着るものは、揃えないとダメかも。


『以前、太王太后達に作った服を、作ってはどうでしょう?』


 あ、そうか。ジジ様達に作ったのって、割と気楽に着られるデザインだからね。ユゼおばあちゃんにもいいかも。


「ねえ、おばあちゃん。よければ、ここで着る服、作ろうか?」

「まあ、あなたが作ってくれるの?」

「うん。……まあ、作るといっても魔法頼りなんだけど」

「ありがとう。楽しみに待ってるわ」

「うん」


 じゃあ、基本は同じ型で、細部を少し変えたものを、布の柄違いで三着ほど作ろうか。


『ルリイロトカゲの染料が使えます』


 トカゲかあ……あ、でも綺麗な青が出るんだよね? 他にはないかな。


『手持ちですと、随分前に採取していた植物で、赤味の強い色が染められます』


 うーん、じゃあ白地に赤でストライプ、青でグラデーションと、白地に花模様はどうだろう。


『了解しました。では、その方向で作成します』


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