第304話 疲れるね……

「……そういえば、磁器の報酬も結構な額になっていたな」


 そうですねー。おかげさまで懐あったかですよー。って、フォックさんにも言われたな……


 さすがに磁器とカエルじゃ、桁が違うけど。あ、トカゲのお金もあるっけ。でも、あれ現金を用意する必要があるから、後払いなんだけど。


「あれがそのまま国庫に入ると思えば、山の一つや二つ、安いものかもしれませんな」


 うーん、そう考えるとちょっと悔しい気もするなあ。でも、温泉には代えられない。きっと、検索先生もそう言ってくれる!


『もちろんです!』


 さすがです。


「この山、そんなに価値が高いの? いっそ、ザクセード伯の不正を暴いた報酬に、譲ってはどうかしら?」


 おお! ジジ様から意外な提案が。あ、でも伯爵の不正というよりは、教会の不正じゃね?


 一応、伯爵も加担してはいたけど、主導は教会の連中だった。だから重い神罰の強制改心が下ったんだし。


「太王太后陛下、価値がないものを報酬にするのはいかがなものかと」

「あら、国にとって価値はなくとも、サーリにとっては価値があるのでしょう? それでも不服なら、山は報酬のおまけにでもすればよろしい」


 何だか、話がどんどんでかくなってないかな? いや、タダでくれるっていうのなら、喜んでもらいますけど。


 でもなあ、タダより高いものはないとも、言うよね?




 結局あれこれ三人が話し合い、山は旧ザクセード領での不正を暴いた報酬の一部となる事に決定。


「まあ、こちらの山もあまり使い道がなかったようだからね。本当におまけ程度だな」

「あら、そうなの?」

「ええ。こちらも領境にありますが、魔獣が多くて道を切り開く事も出来なかったと聞いています。魔獣退治は金がかかりますからな。役に立たない山なら、放置するのも手ですよ」


 あー、アメデアン領との境にある山と一緒かー。でも魔獣が多いって事は、魔力豊富な山なんじゃないかな? 探せば、いい魔法植物とかありそう。


 のんきに考えていたら、ジジ様が難色を示した。


「そんな山を、サーリに渡すのはいけません。まずは軍隊を入れて、魔獣を一掃しなくては」

「あ、魔獣くらいなら、問題ないので、大丈夫です」


 いきなりドラゴンとか出てこないだろうし。出て来ても、下位種なら問題なく狩れる。


 上位種だったら、果実で釣って島ドラゴンのところにでも行ってもらおうかな。


「はっはっは。確かに、サーリなら魔獣だらけの山でも、問題あるまい」

「ジンド! 笑い事ではありませんよ!」

「いやいや太王太后陛下。私がサーリに初めて会った時の事は、お話ししましたでしょう? 砦に巣くった猪の群れをあっという間に退治したんですから、心配はいりませんよ」

「でも……本当に、大丈夫なの?」


 無言でこくこくと頷く。いや本当、心配いりませんって。何なら、一人で両方の山の魔獣、根絶やしにしてもいいくらい。


『魔獣を根絶やしにするのは、感心しません。素材として有用な魔獣が多いですから、適当に間引く程度にしましょう』


 え? それ、山を天然の魔獣牧場にするって事?


『オオツノヤギの毛は、いい素材です。ルリイロトカゲの皮は、国外でも高値で取引されます。他にも山頂付近にコビトヒツジの群れを確認。それらを捕食するオオカミ系の魔獣もいて、毛皮と牙、爪の素材が期待出来ます』


 あれ? もしかしてどっちの山も、お金になるんじゃね?


『国内に、あの山を狩り場に出来る程の腕を持った人間がいません』


 あー、魔獣を狩れなきゃ、素材には出来ないからか。うん、確かに、あの五メートル級のワニを物理攻撃だけで仕留められるとは思わないわ。


『ワニではなくトカゲです』


 いや、あのでかい口はワニですワニ。


『ワニは少なくとも体長十メートル以上になります』


 そんなデカいの!? ……それ、もうワニじゃなくて、恐竜って言うんじゃないかな。


 検索先生と脳内会話を交わしている間に、目の前ではさくさくと話が進んで、もう書類作成にまで行っている。


 専門部署の人が書類を整えてくるので、それまでここで待つんだって。


「温泉の建物は、これまでの同じ建築様式にするのかね?」

「いえ、今度は少し変えようかと」

「ほう」

「どんな建物にするの?」

「えっと、壁面をタイルで飾ろうかと。あ、タイルっていうのは、こう、これくらいの焼き物の板です」


 あ、やべ。みんなの目がぎらりと光った。


「まあ、焼き物の板?」

「それは、どうやって使うのかね?」

「そんな小さな板で、どうやって飾るんだ?」


 わー。どこから答えればいいのやら。




 あの後、根掘り葉掘り聞かれて疲れたわ……。作成してもらった書類には、しっかりサインをもらって、自分の分も書いたけど。


 ぐったりして砦に戻ったら、何故か満面の笑みのジデジルが。


「お帰りなさいませ、サーリ様」

「ただいまジデジル。どうかしたの?」

「つい先程、ダガード国内の教会における粛清が終わりました」


 ああ、手抜きで集めた証拠を使ったやつね。てか、粛清って何だか怖いイメージだなあ。


「そうだったんだ。お疲れ様」

「はい! つきましては、聖下がこちらにいらっしゃってます」

「へー、ユゼおばあちゃんが……って、ええ!?」


 何で、聖地にいるはずのユゼおばあちゃんが、砦にいるの!?

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