第303話 解せぬ

 まあ、話が早くていいんですが。というか、領主様はついこの間も顔を見たばっかりだね。


「いらっしゃい」

「お邪魔いたします、ジジ様」


 まずは奥宮の主であるジジ様にご挨拶。男性陣はここではおまけだから。


「やあ、サーリ」

「領主様、預けた彼はおとなしくしてますか?」


 マクリアの親を一瞬で氷付けにした人だけど、瘴気の影響で一時的に魔法の力が上がっていただけっぽいからなあ。


 一応、こっそりゼヘトさんが攻撃魔法を使おうとしたら、速攻気を失う術式を潜ませておいたんだけど。


「ああ、彼か。色々話を聞いているけれど、なかなか愉快な男だね」


 ……ゼヘトさん、領主様に何を話したんだろう?


「それで? 今日は何か、報告があるとかいう話しでしたけど」


 おっといけない。ジジ様に、ミシアとマクリアの事を伝えなきゃ。その為にここに来たんだから。


「えーと、この間ザクセードの教会で見つけた子グリフォンですが」

「ああ、そういえばそんな話があったな。あの後、どうなったんだ?」


 銀髪陛下、まさか子グリフォンの事、忘れてた訳じゃないですよね?


「あの子はミシアと契約して、マクリアという名になりました」

「はあ!?」


 あら、ジジ様も銀髪陛下も領主様も驚いてる。あ、剣持ちさんも目を剥いているわ。


「まあ、ミシアったら。いつの間にそんな事に?」


 ジジ様、何だか嬉しそうです。


「マクリアは、見つけた時に酷く虐待されていたらしく、衰弱が酷かったんです。幻獣だから、致し方ないとは思いますが。それを世話していたのがミシアでして」

「それで、契約を?」

「はい。そのことを、ジジ様にご報告しておこうと思いまして、お伺いしました」

「まあ、まあまあまあ! でかしたわ! ミシア!!」


 ジジ様、大はしゃぎです。可愛い孫娘が、凄い事をしたと喜んでる。確かに、南ラウェニアでも幻獣契約した人なんて、あんまり見なかったしなあ。


「これはなんとも……」

「何をやっているんだ、あいつは……」


 男性陣は、ちょっと否定的? と思ったら、ジジ様が二人を睨み付けた。


「何をグズグズと言っているんです? ミシアが、ダガード初の快挙を成し遂げたのですよ? もう少し、素直に祝えないのですか?」

「太王太后陛下、初と申しましても、既にサーリが二体の幻獣と契約を――」

「サーリはダガード出身ではありません。ああ、誤解しないでちょうだいね? あなたを悪く言う気はないのですよ」


 大丈夫ですよ、ジジ様。単純に、私の孫娘凄い! って言いたいだけなんですよね。


 領主様はわかっているようで、やれやれと言う感じ。銀髪陛下は、ちょっとむすっとしてる。


 もしかして、おばあちゃんの愛情が従姉妹にいっちゃったのが悔しいのかな?


「お前、ろくでもない事を考えているだろう?」

「え? 何の事でしょう?」


 とりあえず、すっとぼけておこう。




 その後も和やかに話は進む。あ、そういえば。


「あの、ザクセード伯領の事でご相談があるんですけど」

「何かな?」


 答えてくれたのは、領主様だ。あそこの管理って、今は領主様がやってるのかな?


「実は、温泉が湧く地域が他にもありまして。出来たら、その周辺の土地も購入したいんです」

「ああ、アメデアン領との境の連山だけではないという事か。どこなんだい?」

「北の方の山です」


 私の言葉を聞いて、側に控えていたヤーニ様がそっと部屋を後にする。少しして、大きめの巻物を持ってきた。


「ザクセード周辺の地図でございます」

「ありがとう。……ふむ、この辺りかね?」


 ヤーニ様が差し出した地図を広げ、領主様が指差さした先は、まさしく私が欲しい山々だ。


「そうです、そこです」

「こちらは、山の向こうにある川までが、旧ザクセード伯領か。で、どこを購入したいんだい?」

「この山全部です!」


 胸を張って言ったら、その場がしんと静まりかえりました。解せぬ。

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