第299話 マクリア

 子グリフォンは、丸塔のミシアの部屋で生活している。即席で作った腰くらいの高さの台に乗せた籠の上、敷いた布に埋もれるようにして寝ていた。


 ここに来たのは、私とミシア、あとノワールだけ。ブランシュは興味ないらしいし、じいちゃんは研究室に籠もっちゃった。ジデジルは仕事。


 籠を覗き込んで、ミシアと小声でやり取りする。


「寝てるねえ」

「起こすの可哀想」

「起きるまで待つ?」


 ミシアが頷く前に、子グリフォンが目を覚ましちゃった。うるさかったかな?


「フイフイ!」

「何シニキタ! ダッテ」


 いや、何しに来たも何も、ここ、うちの砦ですから。君は保護された子供グリフォンだって自覚、ある?


 幻獣は基本、知識があるので人間の言葉は理解出来るんだって。


 生まれたばかりでも言葉がわかるのは何で? って思ったけど、親から引き継ぐらしい。


 グリフォンは卵で生まれるんだけど、母親の胎内で卵のまま数ヶ月過ごす時期があるらしく、その時に代々の知識を譲り受けるんだとさ。


 なので、この子グリフォンも親譲りの知識を持っている訳だ。


 子グリフォンは、あり合わせの材料で作ったベビーベッドもどきの上で、ふんぞり返っている。


 でも、姿が小さいので子供が必死に頑張ってるみたいに見えてさ、可愛いんだなこれが。思わず笑いがこみ上げるくらい。


 こらえていたら、ミシアに脇腹をつつかれた。やべ、笑ってる場合じゃなかったんだった。


「えーとね、この子、ミシアと幻獣契約を結ぶ気は、ある?」

「フイ!?」

「何ダッテー? ダッテ」

「君は幻獣で、人の住む場所にはそのままだと住めないの。もちろん、この砦にもだよ。でも、このこと契約すると、住めるようになるんだ。どうする?」


 まあ、ざっくり言えばこういう事だからね。子グリフォンは少し固まったと思ったら、何だか俯いちゃった。


 いきなり親と引き離され、親は目の前で氷付け。その後檻に入れられて虐待されたと思ったら、いきなり見知らぬ場所に連れてこられて契約を迫られる。


 うん、私だったら暴れ出してるね。


「ミシア、これ――」


 契約は無理なんじゃ、と言おうと思ったら、先に子グリフォンが顔を上げた。


「フイイ!」

「イイダロウ、ダッテ」

「フイフイフイイイ!」

「コノ偉大ナルグリフォン族ノ自分トドウシテモ契約シタイトイウノナラ、ソノ願イ、叶エテヤロウ……ナンカ、凄ク偉ソウ。僕、コノ子嫌イ」


 あ、ノワールに嫌いって言われたら、子グリフォンがガーンって顔をしてる。メンタル弱いなあ。態度は偉そうなのに。


「ノワール、この子はまだ赤ちゃんなんだよ。何にも知らない子だから、一生懸命なんだよ」

「ア、ワカッタ! 虚勢ヲ張ルッテ言ウンダヨネ?」


 うん、そうなんだけど、そんな大きな声で言うとね。ほら、子グリフォンが、ぷるぷるしてる。図星だったんだね。


 ミシアはといえば、さっきのを聞いても、まだ契約する意思はなくしていないらしい。


「ノワール、そんな事を言っちゃいけないわ。この子は、私と契約する子なんだから、仲良くしてね?」


 大変いい笑顔なんだけど、あれ? おかしいなあ。あんな笑顔、どこかで見た事あるよ? 領主様とか叔父さん大公とか。


 何だか黒いものを感じる笑顔に、子グリフォンもちょっとビビってる。でも君はもう、逃げられないぞ? 自分から「叶えてやる」なんて言ったんだからね。




 お互いの意思確認は出来たので、後は契約だけ。検索先生、お願いします。


『了解しました。……では、名付けをどうぞ』


 早! 検索先生も、実はバージョンアップしてるんじゃなかろうか。まあそれは置いておいて。


「ミシア、この子に名前をつけてあげて」

「ええ。……その前に、この子は男の子? 女の子?」

「うん、どっちだろうね?」


 ノワールは一人称が「僕」なので、男の子なんだとわかるけど。この子はどっちだろう?


「ドッチデモナイヨー」

「ええ!?」


 ノワールの衝撃の一言に、ミシアと一緒に声を上げてしまった。どっちでもないって、どういう事?


「ブランシュガネ、グリフォンハ大人ニナルマデドッチデモナイッテ言ッテイタヨ」


 という事は、大人になるまで無性で、大人になるとどちらかの性別に固まるって事かな?


 さすが幻獣。不思議生物なんだなあ。


「それだと、名前をどうしようかしら……」


 悩むミシア。そうだよねえ。これは悩むよなあ。そこで、自分が名付けた時の事を思い出す。


「この子、体が白いから、白って意味の言葉とかはどう?」

「白? ブランシュの名前って、白って意味なの?」

「そうよ。あの子も、体が白いでしょ? だから、遠い国の言葉だけど、白を意味する言葉を使ったんだ」


 フランス語だけどねー。でも、これがミシアに刺さったらしく、少し考えて付けた名前がこちら。


「では、あなたの名前はマクリア。古い言葉で『白き峰』って意味よ」


 名付けた途端、ミシアと子グリフォンが光った。


「グリフォンは、高い山でもひとっ飛びするんですって」


 確かに、うちのブランシュも結構なスピードと高度で飛ぶようになったもんなあ。あれなら山くらい、軽く超えられると思う。


 子グリフォン改めマクリアは、ミシアの腕の中でおとなしくしてる。これで無事、契約完了だね。


 あ、この事、叔父さん大公やジジ様にも報せておいた方がいいかな。



*****


前の話の一部を変更しています。(幻獣契約に関する辺り)

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