第298話 がっつり行っちゃえ

 翌日の早朝。朝のルーチンワークの後に、一人でくびれまで来た。高高度から下を見下ろすと大陸の形がはっきりと見える。


 このくびれ行き、ブランシュ達も同行したがったけど、今回は私一人でやらないとならないから、二匹はお留守番。


 子グリフォンの方は、まだ容態が不安定なので外には出していない。ミシアがかいがいしくお世話してるよ。


 さて、じゃあやろうか。


「検索先生、お願いします」

『了解しました。……地下八十メートル付近に、瘴気の反応あり。視界に映します』


 夜が明け始めたばかりのくびれの地域に、黒い川のような瘴気が現れた。これ、検索先生の力で見えるようにしてあるだけで、実際は地中深くに潜んでる。


 そこから、地上の人や動物、土地に影響を与えているみたい。邪神って、こんな事もやってたの?


『明確に邪神の仕業と判明はしていません』


 じゃあ、誰がやったんだろう? 人?


『証拠はありませんが、意図的に操作された痕跡がわずかに残っています』


 瘴気なんて、自然発生はしないもの。それは私も知ってる。それを操作出来るって、一体何者?


 瘴気そのものは、触れただけで人なら簡単に命を落としてしまうような猛毒だ。大気で薄れて漂っているだけで、土地は穢れ動物は異常をきたし、人の精神にも悪い影響を与える。


 それを、誰が、何の目的でここに沈めたんだろう。


 まあいい。今は浄化をする事が先決なんだから。神子である私にとって、浄化はとても馴染んだ力。


 特別な術式を使わずとも、私の意思一つで発動が可能なんだ。だから、今回も地中深くにある瘴気めがけて、最大出力で浄化を行う。


 多分、少なからず影響を受けているくびれの人々は、一時的に体調を崩したりすると思う。


 でも、すぐに回復するはずだし、浄化後は土地も人もいい方向に向かうはず。


 私の体から金色の光が吹き出して、地上へと降り注ぐ。いつもなら土地に触れるだけでいいんだけど、今日は地中深くまで潜らなきゃならないから、ちょっと上から圧をかける。


 光は大きなうねりになり、眼下に広がる黒い瘴気に向かった。端からちまちまやるなんて性に合わない。いっぺんにどかんとやっちゃおう。


 次から次へと力を込めて、浄化をくびれの地中深くへと押し込める。検索先生が見えるようにしてくれた瘴気は、徐々に光に浸食されて薄くなっていった。


 ひとかけらも瘴気を残したくないので、これでもかと浄化の力を上から叩き付ける。隅々まで綺麗になーれ。


 浄化を始めて大体十五分くらい。くびれの地下にあった瘴気は綺麗さっぱりなくなりました。


「よし! これで完了!」

『お疲れ様です』

「検索先生、一応、他の地域でも似たような瘴気がないかどうか、調べてもらえないかな?」

『お任せください。その代わり……』

「その代わり?」

『新しい温泉、期待しています』


 あ、そうですね……




 砦に戻って朝ご飯。自家製のパンにスクランブルエッグ、ベーコン、温野菜、スープ。結構朝から食べてるねえ。


 食事の席で、ミシアが何だかそわそわしている。どうしたんだろう。


「あの、あのね!」


 こっちから話しを向けようかと思ったら、本人から切り出してきた。


「何?」

「あの、子グリフォン、私がもらっちゃダメかな!?」


 そう来たか。思わずじいちゃんと顔を見合わせる。


「一応、子供とはいえグリフォンだから、取り扱いは要注意だよ? 幻獣契約をすれば大丈夫なんだけど……」


 幻獣契約って、双方の意思がないと出来ないんだよね。契約の介助の方は、検索先生がやってくれるし。ノワールの時もそうだったから。


 ミシアは期待のこもった目でこちらを見ている。ブランシュと契約しているの、私だからなあ。


「……子グリフォンの方は、何て言ってるんだろう?」

「ノワールが通訳出来るんじゃないかい?」


 おお、その手があったか。ブランシュは小さくなって、食堂で一緒に朝ご飯を食べているから、自分が呼ばれて顔を上げている。


「ノワール、子グリフォンがどうしたいか、聞いてもらってもいい?」

「イイヨ」

「ピイピイ」


 うん、ブランシュが自己主張しているけれど、君はまだ親グリフォンのように人間の言葉を使えないからね。


 ブランシュはまだまだ子供で、成体になるまではあと二年近くかかる。だから、それまでは幻獣の通訳はノワールにお任せする事になるね。


 こっちの考えが通じたのか、ブランシュががっくりうなだれている。可哀想だけど、こればっかりは仕方ない。

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