第297話 手を抜くところは抜く
今日は少し飛ばしたから、いつもより早く王都上空に到着。さて、領主様の屋敷はどこだったっけ?
「あ、みーっけ」
一回行ったきりだからね。あの後は、直接王宮に行くようになっちゃったし。
お屋敷の裏手には公園くらい大きな庭が広がっている。前庭より、こっちに下りた方がいいかな。
ゼヘトさんは騒ぎすぎて疲れたらしく、今はおとなしくしてる。下りるところを建物の中から見ていたようで、すぐに中から人が出てきた。
「冒険者のサーリ殿とバム殿ですね。主より承っております。どうぞ、こちらへ」
四十前後くらいの男性使用人が、私達を案内してくれた。
「来たね」
案内された先は、広くて窓がたくさんの明るい部屋。ちょっと、奥宮の部屋を思い出す。
「急にすまんの、領主殿」
「何、手紙を読んだら、断る訳にもいかんさ」
うん、領内で悪い奴が動きそうなんだもんね。そりゃ領主様も放っておけないわ。
とりあえず、ゼヘトさんは別室に案内されて、じいちゃんから事の次第を説明。
「なるほど。では、彼は教会に関する記憶がほぼない訳か」
「そうなりますな。じゃが、悪さをしておる教会関係者に対しては使えるのではないかと」
「ふうむ……その程度で怯む相手ならいいのだが」
「致命傷にならずとも、かすり傷が後々大怪我になる事もありますぞ」
二人が話している内容が、よくわからない……
『ゼヘトを使って、領都にいる司祭に揺さぶりをかける計画のようです。ゼヘトの記憶がなくなっている事を、司祭は知りません。彼が知っている全てを、こちらは把握しているのだぞと脅せば、いい揺さぶりになるかと』
うおう。じいちゃん汚い。それに乗る領主様もさすがだ。二人して真っ黒い笑顔でうふふと言い合う姿は、ちょっと近寄りたくない。
結局、ゼヘトさんを使う計画は採用されたらしく、彼の身柄はこのまま領主様預かりとなった。
縁あって拾っちゃった人を押しつけるので、領主様にはちゃんとお礼と一緒によろしくお願いしますと頼んでおく。
「安心したまえ。地下牢になど入れたりしないから」
あるんだ、地下牢。いや、知らない方がいい事って、あるよね。聞かなかった。私は何にも聞かなかった。
「君らはこれからどうするんだい?」
「まだまだ裏付けを取らないといけない教会は多いのでのう。しばらくはジデジルの下働きですな」
じいちゃん、ジデジルが聞いたら卒倒しそうな事を言っちゃ駄目だって。まあ、教会の汚職の証拠固めをやるのは、本当だけど。
まだザクセード領内と王都だけだもんね。コーキアン領と他にも色々、回らなきゃいけない教会は多いらしいよ。
ダガード国内にも、多くの教会がある。その一つ一つを回っていたらきりがない、って事で、検索先生に調べてもらった。
『国内の教会の数は大小合わせて百四十二。うち汚職、詐欺行為などをしている教会は百余』
そんなにやってるんだ……どうなってるの? ダガードの教会って。
『どの教会も紙で証拠を残しているので、回収は楽です。ついでに、被害者から巻き上げた宝物も回収しておきます』
よろしくです。後で被害者にちゃんと返せるよう、分類もお願いします。
『了解しました』
という訳で、検索先生をフル活用して手抜きしました。いやだって、どの教会に行ってもやることは同じなんだもん。
それに、百の教会を一カ所ずつ回るって非合理的じゃない? 検索先生なら、私の魔法を使うけれどいっぺんに百の教会全てから証拠を回収出来るし。
今回の事、時間かけてちゃダメだと思うんだよねー。
だから検索先生フル活用の方がよくない? ってなった訳。じいちゃんには呆れられたけど。
「あの子グリフォンのような存在があったら、どうするつもりじゃ?」
「そういう時は、検索先生が教えてくれるから」
イレギュラーの対応までは、お任せしません。
で、回収された証拠は私の亜空間収納に入っているんだけど、リスト見ただけでその数の多さに目が回りそう。
まあ、これは全部ジデジルに回して彼女が決着付けるんだけどね。ほら、ユゼおばあちゃんも言っていたじゃない。使い潰せって。
証拠を渡した三日後、ジデジルは明日、国内の教会に一斉に鉄槌を下すと宣言した。夕飯も終わって、今は大人だけのお茶の時間。
……私も大人だよ? 元人妻だし、ラウェニア各国の成人年齢に達してるし。
「サーリ様、賢者様。この度の事、心より感謝いたします」
「何、ついでのようなもんじゃ」
「悪い連中が近くにいるのは、嫌だからね」
じいちゃんと私の言葉を聞いて、ジデジルはちょっと泣きそうな顔をしている。
次いで、彼女は私の前で跪いた。
「今だけは、神子様とお呼びすることをお許しください。このような事を、神子様に願うのは不遜と思いますが、どうか我が願いをお聞き届けください」
「……何?」
なんとなく、何を言うのかはわかってるけど、聞いておく。私の言葉に顔を上げたジデジルは、とても綺麗な笑顔を見せた。
「くびれの瘴気を、浄化願います。我々神に仕えるものでは、とても浄化しきる事は出来ません。我が身の不出来を神子様に押しつけるのは心が痛みますが、どうか」
そう言うと、深く頭を垂れた。
「……いいよ」
「ああ! 心より感謝いたします!」
「元々、そうするつもりだったしね。ほら、浄化って神子の仕事の一つでもあるし」
「神子様……」
感激した様子のジデジルは、もう半べそ状態だ。泣かないでよ。いつも笑ってる印象のジデジルが泣くと、調子狂う。
「くびれの浄化は私に任せて。ジデジルはダガードの教会の事、しっかり締め上げてね」
「はい! 全力で締め上げますとも!」
大層いい笑顔で言ったジデジルの背後で、じいちゃんがちょっとだけ怯えていたのは内緒だ。
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