第296話 男女の差?
そういえば、通信機を作ったのも、冬にダガードを出る時だったっけ。あれ、「道具を使って声を届ける」ってものだったから、じいちゃんも許してくれたのかな。
「そうだったっけ。憶えていなかったか、忘れてたわ」
「まったく、お主というやつは……まあよい。これであの魔法士……ゼヘトとか言ったな。あやつが教会の悪事に荷担していた事はわかったの」
「でも、その時の記憶がないんじゃねえ」
「その辺りは、領主殿がうまく片付けるじゃろうよ。一旦、領主殿に預けに行くか」
「だね」
テントに戻ると、ゼヘトさんはぼんやりとしていた。声をかけたら返事の前に、盛大にお腹が鳴って空腹を主張されたよ。
「す、すまん……」
「いえいえ、お腹空いただろうと思って、少しですが用意しておいたんです」
私の亜空間収納には、調理済みのものもたくさん入ってるからねー。そのなかから野菜のスープとパンを出した。
あと、この辺りで普通に飲まれている野草茶。癖があるけど、疲労回復の効果がわずかだけどあるやつだから。
出した軽食をバクバク食べるのを見つつ、じいちゃんがこれからの事を伝えた。
「お主、名はゼヘトで間違いないかの?」
「ああ。……俺、あんた達に名乗ったか?」
不審そうに聞いてくるゼヘトさんに構わないじいちゃん。相変わらずスルースキルが高いなあ。
「それは置いておくがええ。お主は記憶にないじゃろうが、ちょっとした事件に巻き込まれていての。それが解決するまで、とある人物に身柄を預ける事になったんじゃ」
「……何でそんな事を、勝手に決められなきゃならねえんだ?」
「嫌なら仕方あるまい。このままわしらがお主を放置すれば、確実に事件の犯人の一人として、捕まるじゃろうよ」
「おい爺さん、どういう事だよ?」
「今は詳しく言えん。お主に選べるのは、わしらに従って行動するか、好きに動いて犯人として捕まるかのどちらかじゃ」
いきなりこんな事を言われれば、そりゃ怒るよなー。今にも掴みかかりそうなゼヘトさん相手でも、じいちゃんは怯まない。
いざとなったら、魔法で吹っ飛ばせるもんね。そりゃ安心だわ。
「……嬢ちゃん、おっかねえ事言うんだな」
「へ?」
「サーリよ、また口から全て出ておったぞ」
あちゃー。もう癖になってるのかな。
結局、ゼヘトさんは何が何だかわからない状態でも、じいちゃんに逆らうのは得策じゃないって判断したらしい。
それでも、悔し紛れに毒を吐いた。
「爺さん、全ての事がわかって、俺に何も落ち度がなかった時は憶えておけよ」
「はて、老体故憶えていられるかのう?」
「ちっ。食えない爺さんだぜ」
そうだね、じいちゃんは煮ても焼いても食えないよ。何だか冷たい視線が突き刺さった気がするけど、今度は口には出していない。
だって、ちゃんと手で口を押さえたから。
検索先生に確認したところ、領主様はまだ王都の屋敷にいらっしゃるらしい。じゃあ、手紙の送り先は屋敷の方だな。
手紙はじいちゃんに書いてもらった。ゼヘトさんを保護した理由とかも説明してもらうから。こういうの、じいちゃんの方がうまいし。
「これでよし。じゃあ、行こうか」
「そうじゃな」
じいちゃんと確認していたら、ゼヘトさんが口を挟んできた。
「行くって、どこへ?」
「お主を預ける御仁の元へじゃよ」
「ちなみに王都だよ」
「王都!? まさか、ここから歩いて行くのか!?」
それこそまさか。思わずじいちゃんと顔を見合わせた。これ、空を行くって言わない方が面白……良さそうだね。
「大丈夫。あっという間に王都に着くから」
王宮ならポイント打ってあるけど、お屋敷の方は打ってなかったはず。なので、いつも通り空からだ。
テントなどをしまい、代わりにほうきと絨毯を取り出す。ゼヘトさんは困った顔でこちらを見ているだけだ。
丸めてある絨毯を広げると、膝くらいの高さでとどまる。それを見て、ゼヘトさんは目と口を丸くしていた。
「ほれ、乗ってくれい。あ、靴は脱ぐんじゃぞ」
「え、これ、絨毯……え?」
「早う乗らんか」
「あ、はい」
混乱したまま、ゼヘトさんは靴を脱いで絨毯に乗り上げる。おっかなびっくりなその様子に、ちょっと笑っちゃった。
私のほうきと一緒に高度を上げていくと、ゼヘトさんが叫びながらじいちゃんにしがみついている。じいちゃん、迷惑そうだなあ。
ミシアは初めての空の旅も、快適に過ごしていたのに。そういえば、前に子爵家にお嫁に行った伯爵の姪っこさんも、楽しんでいたね。
女性の方が肝が据わっている人が多いのかも。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます