第295話 浄化
とりあえず、結界内で今も暴れている魔法士をどうにかしないとなー。
「検索先生、これ、結界ごと浄化すれば、瘴気の影響は抜けるかな?」
『抜けますが、相当な苦痛を伴うと思われます』
そっかー。でも、このままって訳にもいかないだろうし。
『ちなみに、放置しておいたら、おそらく三年以内に死亡します』
「浄化で!」
三年の余命より一時の苦痛だ! 結界内に向けて浄化を使ったら、結界ごともの凄い輝いてる。
あれ? 浄化って、こんな効果あったっけ?
『神子の力が上昇していると、以前にもお伝えしましたが』
あ、そっか。そして、結界内では魔法士がのたうち回ってる。相当きついみたい。あー、涙とか鼻水とかよだれとかで、顔が凄い事になってるよ……
いや、そうさせてるのは私なんだけど。幸い、浄化は体の汚れも取り除いてくれる。汚れる側から綺麗になっているのは、一応救いかなあ。
それはそれで、なんとも言えない絵面なんだけど。
「相当瘴気に飲まれておったようじゃな……」
じいちゃんも、げんなりしてる。人が苦しんでもがいてるのを見続けるのって、精神削られるよね。
「かなり苦しそう」
「まあ、ここでしっかり瘴気を抜いておいた方がええ。本人の為じゃ」
「うん……」
いや、それにしても本当に凄い。毒でも飲ませたんじゃないかってくらいだよ。
そしてそれを結界越しとはいえ、見つめ続ける私達、何だかなー。
『現在、瘴気の浄化は全体の六割です』
これで六割!? じゃあ、まだこれ続くの?
「……じいちゃん、これ、そろそろ見るのが辛くなってきた」
「そうじゃなあ」
という訳で、側にテントを出して休む事に。お茶はつい最近温室で育て始めたカモミールのハーブティー。
なんとなく、気持ちが落ち着くんじゃないかと思って。あれ? でもこれ、安眠用だっけ? まあいいや。
浄化完了は検索先生が教えてくれるって。
「それにしても、あそこまでとはのう」
「これ、くびれの浄化をした方がいいよね?」
「出来れば、そうじゃな。その辺りは、ジデジルに相談するとええ」
一応、土地その他の普通の浄化は教会の仕事だからねえ。聖地の方が大分腐っていたから、下の各地方の教会にも、汚職が蔓延しているみたいだけど。
ジデジルは幼い内に教会に入り、ユゼおばあちゃんの側で教育を受けたからか、そうした汚職とは無縁なんだよね。というか、大嫌いみたい。
だからこそ、私もじいちゃんも安心して付き合えるんだけど。
魔法士の浄化が完了したのは、それから小一時間後の事。
「やっと終わったかー」
「おお、安らかな顔をしておる」
「いや、じいちゃん、それじゃあ死んだように聞こえるから」
でも、確かに凄く安らいだ顔をしてるね。あれだけ苦しんでいたのに。
『精神の奥底では、瘴気に苦しんでいたようです。それからの解放を受けて、身も心も軽くなっているのでしょう』
なるほどー。散々苦しんだせいか、体力をかなり消耗しているようなので、魔法でテントに運び入れ、簡易ベッドを出して寝かせておく。
起きたら何か食べさせてあげよう。
そのまま放置して約三十分。
「う……ん……」
「あ、起きたかな?」
「どれ」
じいちゃんと二人で簡易ベッドを覗き込んだら、ちょうど魔法士が目を覚ましたところだった。
「うわあああ! あ、あんた達誰だ!? ……って、どこだ、ここは。それより、俺は一体何して……う! 頭痛ええ」
一人で混乱する魔法士。どういう事?
『瘴気を浄化する過程で、改ざんされた記憶が元に戻る動きがあったようです。その結果、改ざん後の記憶が曖昧になったと思われます』
ありゃ。魔法士を再び放置して、ちょっと離れた場所でじいちゃんに検索先生からの言葉を伝える。
「むう。という事は、いつから改ざんされておったか知らんが、教会に助力した事やグリフォンの事は憶えておらんかもしれんのう」
『それに関しては、こちらで把握しているので問題ありません』
あ、そうなんだ。これもじいちゃんに伝える。何かまだるっこしいなあ。検索先生の言葉を、じいちゃんにも直接伝える方法、他にない?
『では、神子の許可を得て意思を伝える相手を選択する、でどうでしょう?』
あ、出来るんだ。じゃあそれでお願いします。
『この男の名はゼヘト。南ラウェニア大陸ローデンのさらに南の小国出身です。魔法は使えますが、いわゆる三流魔法士止まりの才能。故国にいても芽が出ないと踏んで、一念発起して北ラウェニアを目指したところ、くびれの街で瘴気に汚染されたようです。その後、魔法の腕が上がった為に、ザクセードの教会にいた聖職者と契約を結び、悪事に手を貸していました』
はー。やっぱり、くびれが鍵かー。じいちゃんの顔を見たら、目が丸くなってる。どうしたの?
「これが、検索とやらの声なのかのう?」
「うん、そうだよ。……そんなに驚く事?」
「お主……声を届ける魔法がまだ確立されていないのを、知らんのか?」
あれ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます