第293話 見つけちゃった
コーキアン領の、領都にある宿屋に、檻の子グリフォンの母親を一撃で倒した魔法士がいる。
「じいちゃん、どうしよう……」
「何じゃ? どうしたんじゃ?」
「あの魔法士、コーキアン領都の宿屋にいるって……」
「何?」
思いっきり近い場所にいるよー。どうすればいいの? これ。
ブランシュが身近にいるせいか、グリフォンを倒したってだけで敵認定しているんだけど、幻獣って、出来るかどうかは置いておいて、討伐対象なんだよね……
ブランシュと出会ったのだって、石切場に居座った親グリフォンを討伐するって依頼を受けたからだし。
だから、討伐対象を倒したってだけじゃ、魔法士を捕まえる理由にならないし、子グリフォンの事も、多分処罰はされないと思う。
ザクセードの教会が罪に問われているのは、あくまで詐欺行為に対してだし。
「じいちゃん、どうしたらいいの?」
「何、コーキアン領都にいるなら、一度会ってみるかの?」
「へ?」
何? どうして?
「相手の魔法士がどんな人間か、まだわからんじゃろ? 討伐対象としてグリフォンを倒しただけなのか、教会の手先になって他の悪事も働いているのか。調べてみなければ、何もわからんではないか」
そっか。それもそうだね。あ、これにも検索先生の力って、使えるのかな?
『調査対象を神子が視認出来れば、全ての情報を調べる事が可能です』
そうなんだー……って、よく考えたら、ちょっと怖いね。私が見ただけで、相手の全てが丸わかりなんて。
これ、悪い事に利用しようとしたら、とんでもない事になるなあ。
と言うわけで、こっそり姿を隠してコーキアン領都ネレソールに潜入中。
「……ここまでこそこそとする必要が、あるのかのう?」
「ダメだよじいちゃん! 誰に聞かれてるか、わからないんだからね!」
「いや、お主の張った結界、音も漏れんし、外から見られないようになっておるじゃろうが」
そうなんだけどね。ほら、気分よ気分。さすがにこんな結界を張ったまま、人の多い通りを歩くと危険だから、じいちゃんの絨毯でホバリング中。
さて、検索先生が指し示す宿は、ネレソールでも一番という高級宿。あんなお高い宿に泊まるなんて、お金持ってるんだねえ。
さて、問題の魔法士は……っと。あれ? そういえば、相手がどんな姿かって、知らないや。
「ねえじいちゃん。相手の顔とか、知らないんだけど何とかなるかな?」
「それを考えずに来ておったのか……お主お得意の検索とやらで、どうにかならんのか?」
うーん、やっぱり検索先生頼りだなあ。今更か。検索先生! 相手の魔法士の外見って、どんな感じですか!?
『外見まではわかりません』
あれ?
『この場でわかるのは、相手の魔力の波動のみです。なので、宿から出てくれば、誰が目的の人物かは判別可能です』
そうなのか……うーん、宿屋を透視出来る魔法とか、出来ないかなあ。こう、壁をすり抜けて向こう側の人を見る……
温度差で映像を出す……ダメだ、あれは壁で遮られる。赤外線……あれも壁とかは無理だっけ。
うーんうーん……あ! 魔法の波動って、どんな形で見えるんだろう?
『現在は、ぼんやりと人型に感じています』
それ、もっと詳細な人の形にならないかな?
『……こちらから術式にならない魔力を当てて、その反射としてなら相手の波動をより細かく感知することが可能です』
それで、外見を知る事は出来る?
『当てる魔力の質と量によります。調整はこちらで行います』
ありがとう! じゃあ、後は魔力のみを出す術式を簡単に組めばいいか。
その場でちゃちゃっと作って、宿屋に向けてスキャンのように放出していく。
あ、当たった相手の事が、なんとなくこっちにもわかる。ってか、これ向こうにもバレてるよね!?
『ですが、該当人物の外見は取得出来ました』
どれどれ。ふーん、年の頃は二十代中盤から三十代前半くらいかな? 男性で、背は高くもないけど低くもない。
側にいるのは、服装からして聖職者かな? 位階があんまり高くない人が着るやつだ、この服。
というか、これで視認出来た事になるんだろうか?
『なります。現在、該当人物を調査中。……該当人物が行動を起こしました』
「へ?」
『宿屋の廊下を走り抜け、もうじき外に飛び出てきます。五、四、三』
「いやいやいや、カウントダウンはいらないから!」
「どうした?」
「いや、今――」
『二、一、該当人物、現出』
あ、あの人か。あれ? でも、何か様子が……
「神子おおおおおお!!」
げ! 吠えた。しかも、術式を放とうとしてる! こんな街中で!?
「検索先生!」
『該当人物を中心に、反射結界を構築。成功。該当人物を、結界内に封じる事が出来ました』
よ、良かったああああ。あ、でもまだ結界内部で暴れてる。周囲の人も、何事かと注目し始めちゃった。
『一旦、街の外に連れ出しますか?』
そうしましょう!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます