第290話 悪知恵

 神馬たちと別れて、今度は王都へ。ここの教会は、ちょっと前に大聖堂建設予定地に放火した連中を唆したところだ。


 きっと、山のような不正行為の証拠があるはず!


「思い込みは、目を曇らせるぞい」

「いーや! 既に悪い事している連中なんだから、思い込みなんかじゃないやい!」


 じいちゃんは「それを思い込みというんじゃがなあ」とかぶつくさ言ってるけど、気にしない。


 さあ! 検索先生! 連中の悪い証拠の場所を、教えてください!


『……残念ながら、古いものは焼却処分にあってます』


 何だってええええ!




 何でも、前回の放火の件で司祭だか司教だかが捕まった時に、これはヤバいと、それまでの悪事の証拠を全部焼いちゃったんだって。


「ええええええ、それじゃ、王都の教会に証拠は……」

『まだ、希望はあります』

「本当に!?」

『ここではありませんが、王都から南に少し行ったところの小さな村にある教会に、写しが置いてあるようです』


 何で悪事の証拠の写しを、そんなところに置いてるんだろう?


『今回の証拠は、貴族との繋がりを示すものが多いようですから、いざという時の保身用に取っておきたいのでしょう』


 あー、教会も権力が集まる場所だけど、貴族もそうだよね。相乗効果で悪い事を企んでたな。


『教会の隠し財宝も、その村の教会の地下に眠っています。結構年期が入ってますねえ』


 ほほう? そう聞いては、そっちの教会に行かなくてはねえ。まずは、じいちゃんと相談してからかな。


 王都の教会をあらかた探した後、じいちゃんと合流。こっちには前の教会のような危険ブツはなかった模様。


「検索先生が言うには、ここじゃなくて王都の南になる小さな村の教会に隠してあるんだって」

「悪知恵だけは働く奴らじゃ」


 まったくだ。




 王都の南の小さな教会の地下から、ごっそり証拠と財宝その他を亜空間収納に収め、砦に戻ろうかと思ったら、じいちゃんからストップがかかった。


「このまま、王宮に行くぞい」

「王宮?」

「子グリフォンの件を、領主殿と国王に報せておいた方がええ」


 あ、そっか。幻獣は、基本的に手を出しちゃいけない相手とされている。人間じゃ敵わない上に、群れなんかだと報復が怖いから。


 グリフォンの場合は幻獣だけど、討伐出来ればそれはそれでよしとされている。群れにはならない種族だからね。


 今となっては、討伐なんて冗談じゃないって言えるけどさー。


 で、今回の件の何がヤバいって、子グリフォンが檻に入れられていた事と、親グリフォンを一撃で倒せる魔法士がいる事。


 前者はまあ、親が生きていたら報復に来るので、基本的に子供を連れてる親は狙わないってところに違反してる。


 といっても、これは法律で決まってる訳じゃないので、そういうヤバい事する連中がいるよという注意喚起。


 で、後者もそれ。北ラウェニアには魔法士が少ないから、これから南から魔法士が流れ込んで来る事が多くなる可能性がある。


 魔法士って、基本社会的地位が高いのよ。頑張れば一代限りの貴族にもなれるくらい。


 でも、中には性格がよろしくない連中もいたりして、そういった連中は簡単に犯罪組織と手を組んでしまう。


 そうなると、魔法士が足りない北ラウェニアでは、何かと問題が起きると思うんだよね……


 その辺りの事を、領主様や銀髪陛下に伝えておいた方がいいって事だと思う。


 まずはジジ様にお手紙を。最近、領主様達に話を通すにも、ジジ様に仲介をお願いしてばっかりだなあ。


 王宮って、面倒なんだもん。


 手紙を送ってから、ほうきと絨毯で王宮へ。ここ、王都からすぐの村だからねー。本当に、あっという間に到着したわ。


 さすがに手紙を送ってすぐだったからか、お出迎えの侍女様の姿がない。どうしようと思っていたら、中庭の向こうからレナ様が。


「まあ、今日は早かったのねえ」 

「申し訳ありません、レナ様」

「いいのよ。今、ヤーニが表までお二人を呼びにいっていますからね」

「ありがとうございます」

「ほほほ、礼はジジ様におっしゃいな。さあ、バム殿もどうぞ」

「失礼しますぞ」


 じいちゃんと二人、レナ様の先導でジジ様の元へ。いつもの温室風の部屋にいらっしゃった。


「いらっしゃい、サーリ、バム殿。ここのところ、よく来るようになったわねえ」

「申し訳ございません……」

「いいのよ、奥宮が明るくなったわ。カイド達も、もうじき来るでしょう。座って待ってらっしゃい」

「はい」


 じいちゃんと一緒に座り心地のいいソファに座ると、すぐにお茶と茶菓子が出された。むむ、今日の茶菓子はクリームたっぷりのベリーのケーキですな。


 赤や紫や黒のベリーがたくさん使われたケーキは、甘酸っぱさと生地の甘さ、それにクリームの濃厚さと相まっておいしいいいいい。


「ジジ様、このケーキ、すっごくおいしいです!」

「そう、良かったわ。私の料理人も、なかなかいい腕をしているでしょう?」

「はい!」


 いやあ、今日ここに来て、本当に良かったわー。

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