第289話 子グリフォン

 運搬最中に、檻の中とは言え暴れられると困るから、子グリフォンは魔法で眠らせた。


「ガリガリだなあ……」


 檻の外から見てもわかるくらい。この子、ちゃんとご飯、もらえてなかったんだろうか。


「もし親がわかるなら、親元に帰すのが一番なんじゃがのう……」


 言葉を濁すじいちゃんに、同じ事を思う。子供だけ奪えるとは、思えない。多分、側にいた母親も狩られてると思う。


 そうなると、子供より先に売られている可能性が高いんだよね。


「落ち込んでる暇はないぞい」

「うん……」




 山に打っておいたポイントから、砦に戻る。どうしてわかったのか、砦のポイント位置である丸塔の裏に、ブランシュとノワール、ミシアがいた。


「ピイピイ!」

「オ帰リ」

「お帰りなさい。その、檻……」

「うん、ただいま。この子ね、教会で見つけたんだ。怖がってたから、眠らせて連れて来たんだけど……」


 魔法で浮かせた檻を覗き込む、ミシア達。ブランシュは檻の中にくちばしを突っ込んでる。心配なんだね。


 そうだよね、同じ種族の小さい子だもん。その子が、こんな檻に入れられてガリガリだったら、心配にもなるよね。


「角塔で、檻から出すよ。ブランシュ、クッションを借りていい?」

「ピイイ!」


 角塔の居間にもクッションはいくつか置いてあるんだけど、動物用じゃないからね。角塔にあるブランシュ用のクッションを借りる事にしたんだ。


 全員で角塔の居間に移動し、ブランシュが貸してくれたクッションに檻から出した子グリフォンをそっと乗せる。


 この子、生後どのくらいなんだろう?


「神馬を呼ぶかの?」

「うん……」


 魔大陸の果実を庭先に広げれば、神馬を呼ぶことは出来るんだけど、果実を取りに行く時間が惜しい。


 少しでも目を離したら、この子が死んじゃいそうで。


 迷っていたら、角塔の窓から何やら光が見えた。何?


「おお、呼んでおらんのに、神馬が来よったぞい。しかも、ブランシュの母御も一緒じゃ」


 何だってー!?




 外に出ると、本当に神馬と一緒に親グリフォンがいる!


『久しいな神子。吾子は健やかにしているか?』

「丁度いいところにー!! お願い!」

『は?』


 親グリフォンが驚いているけど、正直それどころじゃないんだよおお。


 角塔の居間から、クッションの上に寝かせたガリガリの子グリフォンを連れてくる。私の後ろにはブランシュとノワール。


『これは!』

「今日、教会の中に囚われているのを見つけたんだ……」


 もしかしたら、親グリフォンがこの子の心を和らげてくれるんじゃないかと期待したんだけど、ダメかな?


 親グリフォンがじっと子グリフォンを見ていると、クッションの上の子グリフォンが目を開けた。


「フイ……フイ……」

『良い。声を出さずとも、わかる』


 その後、お互いにじっと見つめ合っていたけど、やがて子グリフォンが力尽きたようにクッションの上でぐったりした。


「ええええ! だ、大丈夫!? しっかりして!!」

『大事ない。少し疲れただけのようだ。出来れば、この子に食べやすいものを食べさせてはくれぬか? 肉を細かく裂いたものか、柔らかく煮込んだものがいい。詳しくは吾子が知っていよう』

「ピイイ!」


 ブランシュが、「任せろ」と言わんばかりに胸を張る。そうだね、君はこの子のお兄ちゃん……あれ? お姉ちゃんだっけ?


 ともかく、弟か妹同然の子だから、かわいがってやってね。いつまで砦で預かるかは謎だけど。


 後はミシアが請け負うというので、彼女に任せてブランシュ達共々角塔の中へと戻す。残るはじいちゃんと私と神馬と親グリフォン。


「それで、あの子の事は何かわかりそう?」

『あの子が言うには、母と一緒にいるところを、人間に狩られたようだ。何やら強い魔法を使ったそうだが』

「魔法?」

『一瞬で、あの子の母親が氷付けになったらしい』


 ……幻獣って、魔法耐性が高いはず。しかも、成獣はかなり強い。


 そんなあの子の母親を、一瞬で氷付けにする程の、魔法の使い手が北ラウェニアにいるって事?


 思わずじいちゃんを見ると、渋い顔をしている。


「じいちゃん、心当たり、ある?」

「うーむ。氷雪系は不人気じゃからのう。わしの知っている者でも、腕のいい魔法士は皆火炎系の魔法を得意としておった」


 あー、手っ取り早く結果が出るのって、炎とかの方なんだよねえ。氷雪系は、相手を氷付けにしても、下手な人だと簡単に抜け出されちゃうからなあ。


 でも、あの子の母親はその氷雪系で狩られている。


「じいちゃんも知らない、凄腕の氷雪使いがいるって事?」

「かもしれんの。わしも教えの場から離れて、久しいからのう」


 何だか、嫌な感じ。

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