第288話 強制アップデート

 ザクセード領は、温泉と山の関係で来ているから、行き来は楽。実はこっそり、山の方にポイント打っておいたんだよね。


「ここからじゃと、砦から来るより早いのう」

「体感で二時間くらい短縮出来てるから」


 二時間、大きいよね。


 現在、私達は姿を消してザクセード領都にある教会の前にいる。このまま中に入って、証拠を探そうって訳だ。


 じいちゃんとは、既に手分けして担当箇所を決めてある。外側から中を透視出来るスキャンの術式は楽だよねえ。


 しかも、こっちには検索先生という強ーい味方がいるのだ。


『入ってまっすぐ前進、突き当たりの部屋に隠し扉あり。そこから入った地下室に、証拠の書類が隠されています』


 よっしゃ! まずは証拠をガンガン押さえて、とっ捕まえるのはいっぺんにやる予定。


 でないと、こっちで捕まった情報が他の教会に流れないとも限らないから。押さえるべきところは押さえておいて、叩き潰すのは一斉に全力で。


 ちなみに、この方針を決めたのはジデジルです。薄ら笑いを浮かべながら話す彼女は怖かった……ジデジルこわ。


 地下室に到着すると、棚という棚に丸めた書類が乱雑に積み上げられている。


「これ全部?」

『詐欺だけでなく、長年の不正の証拠もありますね。持っていきましょう』

「了解」


 ろくでもないな、本当に。いっそ教会全部に神罰が下ればいいのに。


『神罰の申請と見なしますが、よろしいですか?』

「え!?」


 神罰の申請!? 何それ知らないよ!?


『神子の新しい能力の一つです。神子による申請の後、神が妥当と判断した場合、神罰が最速で下ります』


 なんてこった。そんな新機能が、知らないうちに搭載されていたなんて。


 ていうか、アップデートが為されたのなら、その前に「しますか?」ってお伺いくらいは欲しいんですけど!?


『神子の能力は自動アップデートで強制です』


 マジかー。


『話を戻しますが、神罰の申請をしますか?』

「しません」

『残念です……』


 え? 何で検索先生が残念がるの?


『温泉掘削の邪魔をするものは、全て神罰対象でも構わないと思っています』


 検索先生ー! 正気に戻ってえええええ!




 その後も先生に導かれるまま、証拠を亜空間収納にぽいぽい入れていった。何だかごつい宝石とか、彫像とか絵画とか金細工銀細工とかあるんですけど。


『詐欺や不正で巻き上げた宝物ですね』


 本当、ろくな事してないな! ここの教会。


『やはり申請――』

「ノーで!」


 検索先生、隙あらば邪魔者排除しようとしないでくださいよ……こっちの精神がもたない。


 私の方は終わったけど、じいちゃんの方はどうだろう? 集合場所に来てみたけど、まだ姿が見えない。


「検索先生、じいちゃんの方がどうなってるか、わかりますか?」

『応援に行った方が良さそうです』


 マジで? 何があったのじいちゃん!


 慌てて先生主導の下じいちゃんの元へ駆けつけると、気を失った教会関係者が三人、床に転がっている。


「じいちゃん!」

「おお、サーリか。すまんのお、ちょいと手を貸してくれ」

「いいけど、どうしたの?」

「この奥に、とんでもないもんが隠されておる」

「この奥……って、ええ!?」


 転がっている教会関係者をどかしたその先にあったのは、小さな檻。その中には、ブランシュと似た白いグリフォンがいた。


「こっちの棚は売買契約書じゃな。サーリよ、これらはお主の収納に入れておいてくれ」

「わかった。じいちゃん、この子……」

「連れて帰ってから、親元に帰すがええ。親がいなければ、ブランシュと一緒に面倒見ればいいじゃろう」


 じいちゃん。檻の中のグリフォンは、大分衰弱しているらしい。毛並みも大分悪いし、酷い環境に置かれていたのがわかる。


 檻に近寄ったら、奥に逃げてこちらを威嚇した。きっと、酷い目に遭わされたんだね。


 おのれ教会関係者、許さんぞ!


「これだけ警戒されていてはのう。檻ごと持ち運ぶしか手がなさそうじゃ」

「そうだね……」

「そうじゃ、ちょっと待っておれ」


 そう言うと、じいちゃんは近場にある紙や、薪、燭台なんかを持ってきて何やらやり始めた。


「あ」


 魔法一発で、檻の中にいる子グリフォンが出来上がる。体を丸めて眠っているみたい。


 もちろん、檻から何からこの場で作った偽物だ。じいちゃん、こういうの得意なんだよねえ。


「これでしばらくこいつらの目を欺けるじゃろ」

「じいちゃん、さすがー」

「さて、もう必要なものは全部集めたな?」

「任せて!」


 子グリフォンが入った檻は、魔法で浮かせて運ぶ事にする。


「では、この子を連れてずらかるとするか」


 お茶目なウインクをして言うじいちゃんに、ちょっと笑っちゃった。

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