第287話 準備は整った

 王宮奥宮のさらに奥、秘密の花園めいた小さな庭の東屋の空気が、緊迫してる! お、重苦しい……


「許可を出したとして、それが教会側に知られた場合、国と聖地との関係が悪くなるのは困るのだが?」

「そうはならぬよう、ジデジルに頼んでおきましょう。何、あれも自分の忙しさからわしらに頼まざるを得ぬ状況、嫌だとはいいますまい」

「ほほう……」


 何だろう、タヌキとキツネの化かし合い? 見てるだけで、何だか胃の辺りが痛くなるんですけど。


 まあ、簡単に許可を出せない理由も、なんとなくわかる。教会って、王権とは違う権力機構だからね。


 今のところ、王家も教会もお互いを利用し合ってる国が殆どで、だからこそ相手の罪にはある程度目を瞑ってる状態。


 ここに来て、ダガードだけ教会の罪を暴くのに国王の許可を出した、となれば、他の国の教会やら王家やらからの突き上げも食らうだろうし、何より教会組織のトップである聖地が黙っちゃいないってところか。


 ただなあ。今回の件に関しては、既にユゼおばあちゃんの許可をもらってるし。


 って、じいちゃん、そこまで読んで先にユゼおばあちゃんに許可をもらえって言ってたの?


「さて、ここに一通の手紙がありましての」

「ほう。誰が、誰に宛てた手紙かな?」

「聖地の教皇聖下より、当砦に滞在中のジデジル総大主教猊下宛てのものですじゃよ。今回のザクセード領の教会の不始末に関しての」


 さすがに、これには領主様も銀髪陛下も驚きを隠せない。ここから聖地って、凄く遠いからね。


 本来なら、行って帰ってするだけで一月以上かかる距離。なのに、ついこの間発覚したばかりのザクセード領の教会の不始末を、何故聖地が把握しているのか。


 そこで、また二人して私を見るの、やめてくださる!? 確かに私が運びましたけど!


「ここでそれを出したという事は、今回の件で我が国が許可を出しても、聖地は不問に付すという事かね?」

「簡潔に申せば、そうなりますの。加えて、教皇聖下より、総大主教猊下には『徹底的にやるように』という伝言まであったそうじゃて」


 領主様と銀髪陛下がお互いに顔を見合わせ、三度私を見る。だから、こっち見んな!


 二人はしばらく考え込んだ後、何やらアイコンタクトした後で、領主様が口を開いた。


「いいだろう。聖地からそのような伝言を託されている以上、我が国としても許可を出さぬ訳にはいくまいて」

「おお、さすがは領主殿、話がわかる」

「ところで、バム殿。その許可とやら、本当は必要ないのではないかね?」


 ん? 何で?


『今回二人がやろうとしている事は、教会内部の問題ですので、最悪国はノータッチで行けます』


 なるほど。そっちの問題だから、そっちで勝手にやってねって事か。一応、ザクセードがこれから王領になるからって言うんで、許可をもらいに来たはずだけど。


『王領であろうとなかろうと、教会組織は国の意向を受ける必要がありません。国の組織とは別枠ですから』


 教会はあくまで聖地所属だから、国の意向は配慮するけど、聖地の命令があれば従わないよって事だね。


 で、今回の場合は教会内部の問題に、国は口出ししないで高見の見物でも良かった訳か。


『ただ、教会が詐欺を働いた結果、国民に不利益を被った者がいれば、国としては口を出す口実になります』


 えええ……何か、段々わからなくなってきたんだけど。つまりは、どういう事?


『国としては、国民に被害が出ている以上教会に対し犯人の引き渡しと再発防止を申し渡す事が出来ます。ですが、どちらも教会は拒否が出来る立場です。今回、この二つを聖地がジデジル総大主教に一任した形になります。そして、彼女から委託された形で賢者と神子が動く事になった訳です。ここでもらう許可とは、最高権力者に話を通したという建前が必要だったからですね』


 面倒くさ! 本当、権力回りはこういうのが面倒臭くてな!




 結局、書面での許可を取り付けられたので、明日から教会回りになりそうです。


 うん? ザクセードだけじゃないの?


「お主、話を聞いておらんかったのか?」

「えーと、途中で何か難しくなったから……」

「まずはザクセード、次に王都、そこから怪しい噂のある教会を全て回るぞい」

「うわー……あ、ミシアの修業は?」

「午後に時間を変更じゃ。朝一番で砦を出るから、仕度しておくんじゃぞ」


 そういえば、教会の朝は早いんだっけね……証拠隠滅される前に動けって事か。


 そういう意味では、機動力が高い私とじいちゃんが動くのは、正しいかもね。


 何せ、空を行くから。山だろうが川だろうが沼だろうがひとっ飛びだ。普通は、そういう場所を避けて道を作るからねー。

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