第286話 一応ね
聖地からポイント間移動で戻って、今砦。
「あれ? サーリ、聖地に行くんじゃなかったの?」
「うん、行って帰ってきたよ」
「え!?」
ミシアが驚いている。まあ、今回はポイント間移動を使ったから、ほうきより早く移動出来たしね。
ぽかんとしているミシアを連れて、角塔の居間へ。じいちゃんとジデジルがいましたよー。
「行ってきたよー」
「お疲れさん」
「教皇聖下は、なんと?」
とりあえず、ユゼおばあちゃんから預かってきた手紙を渡して、伝言を伝える。
「ユゼおばあちゃんからは、『徹底的におやりなさい』だってさ」
「そうですか……わかりました! ええ、徹底的にやりますとも! 聖下のお許しも下りた事ですし、ダガードの教会改革に乗り出しますよ!」
ジデジルがヤル気満々ー。そういや、ダガードの王都にある教会も、汚職が蔓延ってるって話だったね。
大聖堂建設地に放火したのは、そこから依頼を受けた連中だったわ。
そして今回はザクセード伯爵領内の教会で詐欺。確かに、国内全部の教会の改革をしないと、ダメかもね。
表だって問題になっていない教会でも、何かしら汚職なりなんなりがあるかもしれないし。腐敗、進んでそうだ。
「……うちの国、色々と酷いのね」
ミシアが悲しそうに呟く。そういえば、叔父さん大公の領にも、教会はあるはずだもんね。そっちはどうなんだろう?
「ミシアさん、ツエズディーロ大公領では、今のところ教会の腐敗は聞こえてきません。ミシアさんのお父様が、頑張ってらっしゃるからですよ」
「ジデジル様……」
「それに、ダガードの教会に汚職が蔓延しているのは、この国が魔大陸に一番近い国だからでもあるんです」
そうなの?
『瘴気は土地や水だけでなく、生物にも悪影響を及ぼします。神の力が及びにくい場所になってしまっていたのも、教会の腐敗を招いた要因です』
あー。邪神の影響で、神様の力が正しく下界に及ばなかったんだっけね。ナシアンへの神罰が遅れたのも、邪神の影響が消えるまでに時間がかかったからなんだっけ。
南ラウェニアでそれだもん。北ラウェニアはもっと時間がかかるでしょうよ。
『そうでもありません。神が本来の力を取り戻したのと同時に、神子の力も増幅していますので、かつてない速度で瘴気の浄化が行われています』
何だってー!?
ジデジルがダガードの教会組織の立て直しという名の一斉処罰をするにも、大聖堂建設の合間を縫わなくちゃならないので、大変らしいよ。
「という訳で、わしらで少し、ジデジルを手伝ってやらんか?」
「そうだね。このまま一人でやらせたら、過労で倒れそうだし」
ヤル気満々の間は疲労に気づかないだろうけど、そっちの方が逆に危ないし。
「でも、手伝いって何やるの?」
「そこはちょっと考えがある。まずは、領主殿と国王を巻き込もうかの」
あ、じいちゃんが悪い顔して笑ってる。どうして私の周りの人は、こうも悪い顔が出来るのだろうか。
『類は友を――』
絶対違うから!
午前中の今の時間帯、ジデジルは大聖堂建設予定地に出向いているから、砦にはいない。
その隙に、じいちゃんとミシアの三人で王宮に行く事になった。ミシアを連れていくのは、ジジ様への配慮。
王宮にはポイントを打っていないので、ほうきと絨毯で飛んでいく。ミシアには好評だから、いっか。
王宮にポイントを打たない理由は、そう頻繁にあそこに行く予定がないから。ないったらない。
奥宮の中庭には、お出迎えの侍女様の姿がある。今日はレナ様だ。
「いらっしゃい、サーリ。奥でジジ様と陛下方がお待ちですよ」
今日は領主様と銀髪陛下に話があるって手紙に書いて送ったから、最初から奥宮で二人に会えるらしい。さすがジジ様。
「ミシア、あなたはあちらで私とおしゃべりしていましょうね」
「はーい」
ミシアの事は手紙にも書いておいたし、何よりジジ様は本当に孫娘が遊びに来るのが楽しみみたい。
そして、残った私達でちょいとご相談を。ここは奥宮でもさらに奥まった場所にある、小さな庭園の東屋。
ここから見えるガラス張りの温室みたいな部屋に、ジジ様とミシアが見える。こっちの声は、向こうには聞こえないようになってるんだね。
「さて。手紙には、何やら私達に相談したい事があるとあったが?」
「えーと、それについてはじいちゃんから」
いやだって。私が説明するより、じいちゃんが説明する方がそれらしく聞こえるじゃない? 年の功よ年の功。決して面倒だから押しつけたわけではないよ?
「現在、国内の教会で多くの汚職がなされている事は、ご存じかな?」
「ザクセード伯領の一件かな?」
「それだけではありませんな。つい先頃、王都の教会所属の司教に誑かされた者達が、大聖堂建設予定地で放火をした件を、お忘れではありますまい?」
じいちゃんの言葉に、領主様と銀髪陛下が言葉に詰まる。
「確かに……だが、それらはその教会独自の問題だろう?」
銀髪陛下の言葉が、ちょっと言い訳じみて聞こえるのは、気のせいかなー。
「本当に、そうお考えで?」
「……違うのか?」
銀髪陛下だけじゃなく、領主様もちょっと驚いてる。って事は、やっぱり瘴気云々は知らないんだね。
「うちにおる、総大主教の話では、この国は魔大陸に近すぎたが故に、その影響を強く深く受けておるらしい」
「魔大陸……」
「まあ、そちらの影響はこれから先、薄れていくじゃろうて。大聖堂が建設されれば、浄化の速度も上がるはずじゃ」
じいちゃん、意味ありげな視線をこちらに向けております。まあ、神子の私がいるせいで、ダガードの浄化速度はかなり上がってるからねー。
それでも、瘴気の影響を受けた人間は、そう簡単に悔い改めたりしないらしいよ。
「それはまあ置いておいて、今回わしらがここに来たのは、総大主教の手伝いを、わしらがする事を認めてほしいという事なのじゃよ」
「手伝い?」
領主様と銀髪陛下の声が重なった。そりゃ、「何だそれ」って思うよね。
じいちゃんは、にやりと笑って続ける。
「ジデジルは忙しいからのう。わしとサーリで教会の悪い奴らをひっ捕まえようと思うんじゃ。一応、国の王であるカイド陛下に、許可をもらっておきたくてのう」
領主様と銀髪陛下、そこで私を見るの、やめてくださる? 別に悪い事した訳じゃないし、これからもしないんだけど。
ただ、悪い連中は懲らしめるよ?
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