第284話 ジデジルこわ
銀髪陛下達にザクセード伯爵の事をチクり……もとい、相談するのは終わったので、これで砦に帰って少しゆっくり出来るー。
「サーリ、そろそろ昼食の時間だから、一緒にいかが?」
「はい喜んで!」
ジジ様からのお誘いじゃあ、断る訳にいかないよねー。砦の方は、作り置きが食料棚に入れてあるから、三人で先に食べてるはず。
私が食事時間に戻らない事、最近多いからね……じいちゃんとジデジルはもちろん、ミシアもそろそろ慣れてきたらしい。
昼食は、ジジ様だけでなく銀髪陛下や領主様も一緒だった。
「サーリ、後で手紙を書くから、それをザクセード伯の元まで届けてくれないか? 依頼だから、ちゃんと報酬は払うし、はずむぞ?」
「わかりました。渡すだけでいいんですよね?」
「陛下の勅使を送る前段階の手紙だから、渡すだけでいいよ。ただ、本人にきちんと渡してくれ。まあ、届いていないと嘘を言ったところで、もう覆らないところまで進めておくがな」
領主様、明るい食卓が黒く染まりそうな笑みはやめていただきたい。
あ、ザクセード伯領が王領になるなら、一応確認しておきたい事が。
「領主様、ザクセードとアメデアンの領境の山って、私が買ったんですが、そのまま私の所有物でいいんですよね? 国に取り上げられたりしませんよね?」
「無論だ。誰もサーリの山に手出ししないようにするから、安心おし」
良かったー。これで「山も伯爵領だから、売買契約は無効」とか言われたらどうしようかと思ったよ。
「大体、あの契約書には無償で山を譲渡するとも記載されているじゃないか。教会契約の書類の背くなど、国として出来るか」
銀髪陛下が眉間に皺を寄せてる。まあ、そうなんだけどさー。目の前で貴族が詐欺を働く現場を見た身としてはねー。
あれ? 何か、みんなの視線がこっちに向いているんですが……
「お前、今思った事を口に出していたぞ?」
マジでー!? 銀髪陛下、溜息吐くと幸せ逃げますよ! ジジ様、そんな哀れみの籠もった目で見ないで! 領主様! 笑いこらえなくていいですよもう!!
昼食の後、手紙が出来上がるのを待って空へ。このままザクセード伯領へひとっ飛び。
ザクセード伯のお屋敷まで来たら、何だか混乱が続いているみたい。
「いい加減離してくれ……」
「いいえ! あなたが悔い改めるまで、我々はやめません!」
「さあ! 神に祈るのです!」
「尊き神よ! この哀れなる愚か者達にお慈悲を!」
あれ、まだやってたんだ……ザクセード伯、涙目だよ。周囲の使用人さん達も、もう遠巻きにしてるし。
やー、近寄りたくない気持ち、よくわかります。引きずり込まれたら嫌だもんね。
でも、私の手には本人に渡さなきゃいけない手紙が一通。
よし。
「伯爵様、お手紙預かってきましたー。お渡ししますねー」
「おお、いいところに! こいつらをどうにかしてくれ!」
「無理でーす。では、お渡ししましたので! あ、それ王宮からのお手紙ですから、早めに目を通すことをお薦めします」
「何だと!? おい! いい加減に離れろおおおお!」
伯爵の叫びを背に、とっととずらかるぜ!
やー、これでやっと南の三カ所の温泉を掘れるってもんですよ。今度建てる別荘は目指せイスラム建築! ハマムを参考にするのだ。
イスラム建築って、凄く綺麗なんだよね。おばあちゃんと一緒に、テレビの旅番組に見とれたっけ。
色とりどりのタイル、幾何学模様、ドーム型の屋根もイスラム建築が元じゃなかったかな。
山の中に忽然と現れるイスラム建築。その実体は温泉別荘でハマムなのだ。怪しさ爆発だね。
そんな事を妄想しながら砦に戻ったら、怒れる総大主教猊下が仁王立ちしていました。
「どこです! 神の名を汚す不届き者達がいるのは!!」
「お、落ち着いてジデジル。連中はもう神罰食らって強制改心してるから」
「神罰は神の下される罰です。ですが、現世に生きる我等には、我等が下す罰があります!!」
こわ。ジデジルこわ。
「これ、少しは落ち着かんか。そんなじゃから、ユゼにも怒られるんじゃろうに」
「賢者様……」
「お帰りサーリ。王宮の方は、話はついたのかの?」
「うん、まあなんとか」
その後、角塔の居間に場所を移して今回の顛末を話した。
「じゃあ、お父様が責められる事はないのね? 良かったあああ」
ミシアも心配してたもんね。本当、貴族の派閥ってのは厄介だわあ。
「手紙を、ザクセード伯本人にのう……」
「うん、いつ中身を見るかはわからないけど。神罰食らった聖職者に、取り憑かれてたから」
あれはなかなか凄い光景だったなあ。門番さんや衛兵の人達も動けなかったもんね。
「その場にいた三人は神罰を食らっても、その地区の教会そのものが腐っている場合があります。やはり早々に駆除しに行かなくては」
待って。駆除って何駆除って。害虫か何かなの!? ジデジルがヤル気満々なんだけど、これ放っておいていいのかな?
迷っていたら、じいちゃんが溜息を吐いて提案した。
「とりあえず、ユゼに手紙で今回の事を報せてはどうか?」
「ですが、聖下のお心を騒がせるだけではありませんか?」
そういや、聖地でも神罰祭りがあったばっかりだっけ。向こうもまだ混乱しているかもね。
「ザクセード領は、この先王領となるのであろう? そうなれば、貴族の領地の教会と違い、お主の直下に入る教会となる。今のうちに、ユゼから許可を取り付けておくがいい」
待ってじいちゃん。許可って何の許可? ジデジルも「なるほど!」とか言ってるし。
二人の黒い気にビビってたら、話がこっちに向いた。
「サーリよ、ジデジルが手紙を書き上げたら、ちょいとユゼのところまで届に行ってはくれんか?」
「いいけど。……いいのかな?」
勝手に動いたりして。言葉にしなかった疑問を、じいちゃんはしっかり読み取ってた。さすが、付き合いが長いだけはある。
「教会に関する事なら、国王よりも教皇の権力が上じゃ」
つまり、ユゼおばあちゃんの許可が出れば、現ザクセード領の教会の「掃除」を、ジデジルが出来るという訳かー。
まあ、教会の後始末はジデジルがやるんだろうと思ってたから、これでいいのかな? 詐欺にあって苦労してる人も、救われるといいね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます