第281話 ぐっじょぶ!

 門番もいなくなっちゃったから、屋敷に入り放題なんですが、いいのかな? 周囲の人は、怖がって近寄ろうともしていないけど。


「お邪魔しまーす」


 ざわめきが聞こえるのは、屋敷の奥の方だねえ。この方角、前に通された部屋がある場所じゃない?


 人の気配がする方へと進んだら、部屋の前に人だかり。使用人の人達、そんなに固まっちゃってていいのかな?


『部屋の中で、神罰が執行されたようです』


 あちゃー。じゃあ、伯爵が懺悔でもしてるとか?


「一体どうなっているんだ!?」


 あれ? 今の、ザクセード伯爵の声だよね? 元気そうだし、何だか困ってるみたい。


 部屋の中を見ようにも、入り口に人垣が出来ちゃってて中が見られないよ。かき分けていくのもなあ……


 と思っていたら、使用人の一人が私を憶えていたらしく、道を空けてくれた。周囲の仲間にも「ちょっと」とか言って、部屋に通してくれる。


 部屋の中には、立ち尽くしてパニック状態のザクセード伯爵と、三人の跪いて祈りを捧げる聖職者。


 もしや、神罰が下ったのって、あの聖職者達の方?


『そのようです。ザクセード伯爵と手を組んで、契約書に細工をしたようですね』


 ああ、それが原因で神罰が下ったのか……


「神よ! お許しを!!」

「私はなんという事を……このお詫びは、死ぬまで祈りと労働で償います……」

「神の名において交わす契約書に細工をするなど、決してしてはならない事なのに! ああ! 我が教会は腐りきっています! 早く教皇庁にお知らせせねば!」

「何をバカな事を!」


 あ、ザクセード伯爵がヤバそうな事を口にしています。それ以上言うと、多分伯爵にも神罰が。


「バカな事とは何ですか! 確かに私達から持ちかけた罪ですが、あなたも嬉々として受け入れたではありませんか!! 恥を知りなさい!」

「持ちかけてきたお前達が言う事か!」


 ああ、うん、確かに。どっちもどっちだよね。聖職者達だって、わかっていて契約書に細工していた訳だし。


 てか、細工って何をしようとしたんだろう?


『山を売る売買契約書と見せかけて、磁器の販売を伯爵に独占させる契約書だったようです』


 え……それ、見れば一発でわかるんじゃないの?


『契約書を二重にして、後で上の書面を剥ぎ取る仕様だったようです』


 セコ! それでも、契約として通用するのかな……


『人の世界では一応通じますが、神には通じません。細工を施した契約書で交わした契約に関しては、違反したところで神罰の対象にはなりません』


 それでも、教会からは文句が来るし、神罰が下るぞ! と言って脅せる訳か。もしかしたら、裏で手を引いて実際相手に怪我とかさせていたのかも。


『そのようです。つい先程、彼等がこの場で懺悔しました』


 ろくでもないな! この聖職者ども。いや、似非聖職者? ジデジルが聞いたら怒りそうだね。


『既に神罰が下っているので、総大主教も怒りを収めるでしょう』


 そっか。ジデジルは変態だけど、神様に対する信仰心は強いから、神様が先に罰を下した相手に対して、それ以上何かする事はないでしょ。


 それはいいとして、契約、どうしようね?


「あのー、伯爵閣下?」

「うわあああああ!!」


 パニックを起こしているザクセード伯爵は、私の存在に気づいていなかったらしい。声をかけたら、もの凄く驚かれた。


「あ? ああ、何だ、お前か……」

「本日は、山の売買契約の日だと思いましたが……何か、ございましたか?」


 神罰が下ったのは、知ってるけどね。一応ここは、知らない振りを。


 私の言葉に、ザクセード伯爵はやっといつもの調子を取り戻した。


「おお、そうだったな。いや何、教会の方々が、少し疲れが出たようでね」


 へー。疲れると、神罰が下るんですねー。未だに懺悔し続けている聖職者達は、こっちに気づく様子すらない。


「契約書はもう用意してある。ささ」


 細工された契約書でしょ? 何だかなあ。


『大丈夫です、問題ありません。さっさとサインして契約してしまいましょう』


 へ? いいの?


『保証します』


 検索先生が言うのなら、大丈夫でしょ。表向きは、領境の山を全て私に売却する、金額は三百万ブールでってなってる。


 おかしな条件等もない。よし。伯爵が用意してくれたペンで、サインをする。


 サインしたその場で、伯爵に契約書を取り上げられてしまった。


「よし! これで磁器は全て私の……何いいい!?」


 何だ?


『細工してあった部分を剥ぎ取った下にあるのは、山とその周辺の土地全てを無償で譲るという内容です。しかも、ザクセード伯爵の爵位返上まで記載されています』


 へ? 何でそんな事になってるの?


『おそらく、神罰の効果ではないでしょうか?』


 って事は、神様が細工された契約書の中身を書き換えたって事? 神様グッジョブ!


 とはいえ、私のサインだけでは伯爵の爵位返上までは、出来ないんじゃないかなあ?


『返上しなければ、神罰が下るだけです。契約書には、伯爵領全体に下るとされています』


 うへえ、神様も容赦がないね。それでザクセード伯爵が真っ白になっているんだ。


 これ、領主様や銀髪陛下に報せておいた方がいいかな?

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