第274話 ハブは許しません
一番湯で温泉三昧を楽しんでから、砦に戻る。お昼は別荘で食べたから、ただいまちょうどお茶の時間。
「サーリ!」
おおっと、お姫様のお出迎えだ。その後ろには、じいちゃんもいる。
「ただいまー」
「お帰りなさい! お父様のお仕事は、うまくいったのね?」
「うん。じいちゃん、ただいまー」
「お帰り。お茶の時間じゃから、そろそろジデジルも帰ってくる頃じゃろ。話は、中での」
「はーい」
お姫様とハモっちゃった。
角塔の居間に移動して、お茶の仕度。今日は何にしようかなー?
「お茶は花の香茶がいいわ」
香草の中でも、特に花の香りが強いものは、花丸ごと乾燥させてから、他の香草とブレンドしてお茶にする。花の香茶とはそれの事。
花が付かない香茶の場合は、いわゆるハーブティーになる。
「花ねー。どの花がいい?」
「ハクレンソウ!」
ハクレンソウかあ。ちっちゃい蓮の花みたいで、可愛い花なんだよね。あれは香も甘いし、味もほのかに甘いんだよなあ。砂糖いらず。
なら、お茶菓子はショートブレッドにしよう。甘みよりも、ちょっと塩気のあるお菓子って事で。
「今日のお菓子は何?」
「んー、ショートブレッド……あれ?」
「どうかした?」
思わず、お姫様の顔をまじまじと見る。うーんと、魔力の流れが規則正しくなっている感じ。前までは、外に向かってダダ漏れって感じだったのに。
これには、覚えがある。
「もしかして、じいちゃんに何かもらった?」
「うん、これ。自分の力をちゃんと使えるようになるまで、はめてなさいって」
そう言ってお姫様が差し出した右手首には、細いブレスレットが光っている。やっぱりー。これ、私も昔お世話になったわー。
このブレスレット、無意識に力を使うタイプの子には凄く効くんだよね。これで強制的に魔力を体内に廻らせる感覚を覚えるんだ。
外に無意識に漏れていた魔力が、読心術って形で現れていたから、それを押さえ込んだ今、お姫様はこっちの心を読めない状態になってる。
そうか、もうお姫様の修業は始まってるんだね。
仕度が調った頃、ジデジルが帰ってきた。
「ただいま戻りましたー。まあ、サーリ様もお戻りだったんですね」
「うん。あ、私、ジデジルには聞きたい事がたくさんあるんだった」
「え? ……何でしょう?」
「後でね」
聖地でのあれこれ、よくも黙っていたなあ? そんなに怒ってはいないけど、のけ者扱いは酷いと思うんだ。
だから、ちくちくつついておこうっと。
お茶とお菓子でほっと一息。それから、大公領でのあれこれを語った。といっても、私がやった事って些細な事なんだけど。
「では、ナシアンの魔法士とその仲間には、神罰が下ったと」
「うん、そうらしいよ」
本当はナシアン国民全員に、なんだけど、お姫様がいる以上、言えないんだよねえ。
「で、その隙をついて、敵を一掃したんじゃな?」
「うん、簡単なお仕事でした」
それであの金額をもらうのは、やっぱりちょっと気が引けるなあ。
『あの金額は結果に対するものなので、正当です』
うーん、あのまま大公領が襲撃されていたら、当然叔父さん大公も抵抗しただろうし、そうなると領都も被害を受けただろうな。
で、人的損失もあるだろうし、何より戦争からの復興って大変だよね。お金も人手もかかる。
それらがなくなったんだから、そりゃあの金額にもなるかー。ちょっと重いけど、そう思っておこう。
「さて、ジデジル。神罰関連で聖地が大変だそうだねえ?」
「え?」
今ここでこの話題が出るとは思っていなかったジデジルは、すっかり不意を突かれた形だ。凄く驚いてる。
「どうして私に『だけ!』黙っていたのかなあ?」
「あの……それは……」
しどろもどろなジデジルを、さらに追い詰める!
「その辺り、きっちり『おはなし』しましょうか」
「ええええ!?」
二度と私をハブにしないよう、きっちり言っておかないとね!
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