第273話 目的達成

 山盛りの金貨が詰まった袋を前にしてあわあわしていたら、叔父さん大公がとんでもない事を言い出した。


「不服かい? ならもう少し上乗せ――」

「いえ! これで結構ですありがとうございましたー」


 危なーい。これが元で大公領の経済が破綻したとか言われたら、寝覚め悪すぎるー。


『大公領は商業で潤っているので、この程度では破綻しないかと』


 それも何だか凄ーい。やっぱり叔父さん大公は、やり手なんだな。あ、最大の目的だった温泉の件も、ちゃんと口添えの手紙を書いてもらえました!


「そうそう、ミシアの事なんだが」

「あ、はい」


 大公領の危機は去ったから、お姫様も戻した方がいいのかな?


「本人が望んだら、一度王宮の母の元へ連れて行ってやってほしいんだ」


 あれ? こっちに戻すって話じゃなかったの? いや、ジジ様のところへ連れて行くくらい、どうって事ないですけど。


「ミシアは祖母である母の事が好きなんだが、なかなか王宮に連れて行ってやる事が出来なかったからね……」


 あー、叔父さん大公自身の立場もあるし、お姫様のお母さんの事もあるしねえ。


「そのくらいはお安いご用ですよ。お姫様に会えれば、きっとジジ様も喜びますし」


 シーナ様の様子からも、ジジ様はきっとお姫様の事を心配しているはず。離れていて滅多に会えない孫娘に会えたら、嬉しいよね。


 と、それはいいけど、お姫様は砦に滞在続行でいいのかな?


「あのう、基本的な事なんですが」

「何だね?」

「お姫様、このまま砦に滞在でいいんですか?」

「うん? 最初からその約束だっただろう? あの子が魔法を憶えるまでという契約だ」

「それはそうなんですが……そもそも、砦でお預かりするってのも、大公領が襲撃される危険性があるから、ではなかったですか?」


 前提条件が消えちゃったからねえ。てか、消した。神罰食らうような連中が関わっている襲撃なんて、絶対によくない代物だもん。


 なのに、叔父さん大公は笑ってる。


「変わらないよ。あの子がここにいる限り、命を狙われる。もっと言ってしまうと、私の娘という立場が消えない限り……だね」


 それは、一生変わらないと思うんだけど。そんな事言っていたら、お姫様はもうずっとここに帰ってこられないって事になっちゃうよ?


 考えが顔に出たのか、叔父さん大公が静かに笑った。


「あの子の命を守る為なら、私は何だってするよ。離れて寂しいけれど、我慢だってする。そうだ、そのうちこちらからそちらに出かけようと思うんだが、構わないかな?」

「私はいいですけど、領主様とかは大丈夫なんでしょうか?」

「うーん……なら、そのことを手紙に書くから、またジンドまで届けてもらえないかな? 報酬ははずむよ」

「手紙くらい、今回の依頼のおまけで受けますよ」


 叔父さん大公、気前よすぎだし。お金はほしいけど、もらいすぎるとちょっと怖い。


 ってか、最近あんまりお金使ってないよね? 全部自分で揃えるか、砦で栽培してるし。


『そのうち、大聖堂建設への寄付を出したらいいんじゃないでしょうか』


 ですよねー。おかしいなあ、もっとこう、一生懸命働かないと生活していけないってイメージがあったのに。




 叔父さん大公から領主様への手紙を受け取り、ポイント間移動でまず一番湯へ。検索先生からの熱いラブコールで、一風呂浴びていく事になった。


「あー、気持ちいいー」

『溶けていきます~』


 どこの温泉も、一定の時間が経つと浄化の術式が起動するよう仕掛けてあるので、いつ来てもお風呂場も室内その他も綺麗な状態なのだ。


 砦にも広いお風呂を作ってあるけど、それとはまた別なんだよねー。しかも露天風呂から見える景色も、また最高っていうね。


 山の緑と湖の色、空。特に今は夏に入ったばかりだから、山の緑が綺麗な事。目に優しいなあ。


「あー、はやいとこ他のところの温泉も、掘らないと」


 叔父さん大公からの口添えの手紙があれば、さすがに領主も嫌とはいえないでしょ。


 しかも、一緒にくれた紹介状がまた凄い。これがあれば、面倒な手続きをすっ飛ばして向こうの領主に会えるんだって。助かるー。


 ついでに、温泉のある山の辺りの土地を買えればなあ。あ、一番湯から三番湯までは、一応温泉と別荘のある土地は名義が私になってる。


 ちゃんとお金出すって言ったんだけど、まあまあとか言われてあっさり。いや、一番湯に関しては、報酬だったんだけどね。


 でも、さすがに南とか西の温泉ではそういう訳にもいかないでしょ。検索先生曰く、魔物が多い山で人が入れない場所ばかりだから、二束三文で買えるはず、だそうだけど。


 欲しい人がいると、足下見て値段ふっかけてくるのがいるからねえ。南の領主二人は、そういうタイプじゃないといいけど。


 まずは、砦に戻ってお姫様をジジ様のところに送ってこないとね。


『時間が時間ですから、明日の朝一番で行ってはどうですか?』

「それもそっかー」


 朝一で行って、夜に迎えに行けばいいか。その間に、南の温泉を掘る許可を取り付けて、出来れば山とか周辺の土地も購入。


 そこまでやっておけば、いつでも温泉掘れるもんねー。あー、楽しみー。

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