第272話 山盛り

「ぶふ! こ、これ、本当にやったのかね?」

「……何をですか?」


 私、手紙の内容は知らないんだけど。さっき、銀髪陛下はちゃんと封をされた封筒を開けたよね? 領主様、見ていたよね?


 私の言葉に、領主様は銀髪陛下と顔を見合わせた。領主様の笑いは、もう収まってる。


「サーリ、叔父上からは、手紙に関して何か言付かっていないか?」

「えーと、どのような形ででも、返事をもらってきてほしい、と言われてます」


 依頼料云々は、私だけの事だからね。銀髪陛下は領主様と何やら密談。魔法を使えば聞けるんだけど、こういうのは聞かない方がいい。うん、絶対。


「サーリ、叔父上には『望みのままに』とだけ、伝えてくれ」

「わかりました」


 ここで「何が?」とか聞いちゃいけない。私でも、そのくらいはわかるよ。


 ここはおとなしく、伝言を承って、とっとと叔父さん大公の元へ帰ろう。




 銀髪陛下達に引き留められたけど、早く謎伝言を持っていかないとね。帰りは表の中庭から飛ぶ。シーナ様が見送ってくれるみたい。


「サーリ、ナバル様のところへ行ったのなら、ミシア様がお元気かどうか、知っているかしら?」


 ミシア様というと、読心術を使うお姫様の事だよね。シーナ様が愛称で呼ぶって事は、ジジ様とお姫様の仲は良好なんだろうな。


「はい、お元気ですよ。今は砦に滞在しています」

「まあ? そうなの?」

「ええ、その……色々ありまして」


 お姫様の魔法修行は、王宮に報せていいものかどうか、わからないから誤魔化しておく。


 領主様辺りから、砦の防御力を聞いていれば、安全だという事はわかるでしょう。


 シーナ様からは、叔父さん大公とお姫様によろしく伝えてくれと言われ、ほうきで飛び立つ。さて、一度砦に……行くとまたお姫様に見つかりそうだから、このまま一番湯を経由して大公領に戻ろうか。


『一番湯は久しぶりです!』


 あ、いや、今回は温泉には入っていきませんよ?


『少しくらいなら……』


 いやいや、依頼主を待たせてるんですから、経由するだけです。


『……残念ですが。非常に残念ですが。致し方ありませんね』


 本当、検索先生はどんだけ温泉好きなんだろうね?




 無事一番湯を経由して、叔父さん大公の屋敷へ。屋敷の周辺が、なんか騒がしいね?


『あの場に放置していた兵士達を、回収してきたのでしょう』


 あ、そっか。護くんに捕獲させた後、ほったらかして来たもんね。兵士達の場所は、あのハゲ達から聞き出したんだろうなあ。


 お屋敷の中を一人で歩いていても、誰にも何も言われなかったなあ。使用人の人達なんか、廊下の端によってこっちに礼をしてくるよ……


 いや、こちとら一介の冒険者です。


『神子である事もお忘れなく』


 あ、はい。


 目指す叔父さん大公の部屋に辿り着いたので、ノックをして扉を開ける許可をもらってから開ける。


「まいどー、冒険者サーリでーす」

「おお、待っていたよ!」


 満面のイケメンに出迎えられちゃった。叔父さん大公、顔がいいよねえ。お姫様の未来も、期待大ですな。


 招かれるまま、いつもの場所に座る。


「それで? カイドからの返事は?」

「伝言を言付かってきました。『望みのままに』だそうです」

「そうか……それをカイドが言ったのか……ふふふ」


 叔父さん大公、笑いが黒くて怖いですよ。背後からもヤバい何かが吹き出していますって。


 しばらく笑っていた叔父さん大公は、お茶と茶菓子でもてなしてくれた。


「他に、カイドから何か言われたかい?」

「ぎ……陛下からは特に。ただ、領主様……コーキアン辺境伯閣下に笑われました」

「え? ジンドが笑った?」


 失礼しちゃうわよね、まったく。叔父さん大公もぽかんとしてるよ。


「手紙の内容を見た途端、吹き出したんですよ」

「あのジンドがねえ……」


 というか、領主様が吹き出すような何を書いたんですか? 叔父さん大公。


 聞きたいけど、聞けない。


「ともかく、依頼はこれで達成だね。色々と動いてくれて、感謝しているよ」

「これでも冒険者ですから」


 ……冒険者だよな? 最近、あまり組合で依頼を受けていないけど。温泉掘ったり別荘建てたり素材集めたりしてたからなあ。


 あ、服も仕立ててたっけ。磁器もか。これ、冒険者じゃなくて職人だよね? おかしいなあ。


「依頼料はすぐに用意させよう」

「はーい」


 そういえば、料金をいくらにするかって話、全然してなかったね。こういう時って、どれくらい請求すればいいんだろう?


『仕事内容でいけば、数百万ブールは固いかと』


 え? そんなに請求していいの? 磁器でも儲けたからなあ。でも、あんまり低い金額を言うのは、よくないし。


 叔父さん大公はやらないだろうけど、「前の冒険者はこのくらいの金で引き受けた」とか言って、他の冒険者に不当に低い金額で仕事を引き受けさせようとする困った依頼主もいるんだって。ローメニカさんが教えてくれた。


 だから、適性な値段でないといけないらしい。さて、値段交渉はどうしたものか。


 考えていたら、部屋にワゴンを押して入ってくる使用人さんが。待って、そのワゴンに積まれてる布袋、何?


「今回は長年の問題を一挙に解決してくれたからね。少し色を付けたよ」


 いやいやいや、色を付けたとかいう数ですか!? 布袋の中身、銀貨とか銅貨じゃなく金貨だよね? いったいいくらあるの!?


『ざっと二億ブールはあるかと』


 桁が違いすぎて、実感わかないー。

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