第270話 天罰覿面

 叔父さん大公に確認したところ、襲撃者はまだ見つかっていないし、いつ襲撃してくるかもわからないんだって。


「じゃあ、こっちから探して捕まえましょうか」

「え? そんな事、出来るのかい?」

「出来ますよ? やっていいなら」


 出来る出来ないより、やっていいのか悪いのかが問題。そう言ったら、叔父さん大公が何か考え込んでる。


「魔法士だけを選んで、捕縛する事は可能かな?」

「大丈夫です!」


 むしろ、得意な方! 周囲にいる連中も、ついでに巻き込んじゃっても、いいよね!


「ナシアンめ……クビを洗って待ってろよ」


 つい本音がだだ漏れたら、叔父さん大公が不思議そうに聞いてきた。


「……何か、ナシアンに恨みでもあるのかい?」

「ハニトラの恨みです!」

「は、はにとら?」


 意味はわかんなくていいですよ。とにかく、ナシアンに恨みがあるとわかってくれれば。


 とはいえ、ナシアンがハニトラかましてくれたから、ローデンから逃げだそうと思えたってのもあるんだよなあ。


 いや、多分時期が少しだけ早まっただけだわ。やっぱりナシアン許すまじ!


『神子の願いが聞き届けられました』


 はい? 検索先生、今なんと?


『ナシアンの王族を中心に、神罰が執行されます。強制改心まで、あと二十秒』


 え!? ここでナシアンに神罰決定!? しかも二十秒って……ああああ、カウントダウンが始まってるー!


「えらいこっちゃ!」


 叔父さん大公をそのまま放っておいて、お屋敷を飛び出した。


『あと十秒。九、八、七……』

「えー! 待って! 何か待って! ここで神罰って……あれ?」


 神罰って、強制改心だって言っていたよね? なら、国にとってはいい事なのでは? 善人はより善人に、悪人は善人になるはずだから。


 犯罪とかも、減ったりして。うん、そう考えると、神罰下った方がいいよ、あの国は。


 ちなみに、その神罰の適用範囲って、どこまでなんだろう?


『一、ゼロ。強制改心発動。ちなみに、適用範囲はナシアン国民の全てです。他国に移動していても、ナシアンで生まれ育ち家族がいる場合は国民と見なされます』


 なるほどー。あれ? もしかして、今回の大公領襲撃、私が出るまでもなかったんじゃない?


『ナシアン出身の魔法士には強制改心が発動しますが、ダガード国民には発動しません。よって、大公領襲撃はダガード国内の反国王派貴族が中心となって行われる模様』


 おのれ反国王派。領主様の仕事増やしたり、叔父さん大公の頭を悩ませたりするなよな。




 ただいま、襲撃犯と思しき一団を偵察中です。どうやって探したかは、毎度おなじみ検索先生のお力で。


『温泉の邪魔をするものは、万死に値します』


 検索先生の温泉に対する熱い思いは以上です。


 こっそり覗いている一団では、騒動が起きてるらしいよ。あれだ、神罰で強制改心したナシアン側の人間が、皆その場で跪いて懺悔し始めたらしい。


「俺は親友が入れ込んでいた娼婦を、金にあかせて横から攫いました!」

「俺は同僚に俺の罪をかぶせて、失脚させました!」

「俺は上司の目を盗んで、軍の金を横領しました」

「「「神よ! お許しを!!」」」


 そんな俗な罪、神様は気にしないんじゃないかね? まあ、格好から見て、あの懺悔している連中がナシアンからの協力者であり、魔法士集団なんだろうけど。


 魔法士は全員で二十人ちょっと。それと指揮官なのかダガードの貴族との折衝役なのか、魔法士以外のナシアン人が六人。


 それが全員、その場で跪いておいおい泣きながら懺悔してる。なかなかカオスな絵面です。


「これは、一体どうした事だ!?」


 一団の奥から、偉そうな格好のおっちゃんが来た。渋いのとハンプティダンプティとハゲ。中でもハゲが一番偉そう。


「それが……先程ナシアンからの客人に雷のような光が突き刺さりまして。その後すぐから、あのように跪いて懺悔を続けるばかりなんです……」

「何だと!? ええい! 役立たず共が! 口程にもない! あれだけ大言壮語を吐いておったのを、もう忘れたのか!!!」


 ナシアンの連中から、「俺らならあんな屋敷、チョロいっすよ」とかって売り込んだのかー。ナシアンめ!


『既に神罰は執行されました』


 ですよねー。今回ばかりはいい気味だと思っておこうっと。


 さてさて、怒れるハゲとハンプティと渋いのは、三人で何やら顔を見合わせている。


「こうなったら、わしらだけで強行するのみ!」

「この数で勝てるのですか? 勝算は?」

「問題ない! いざとなったら、あの娘を人質に取ればいい」

「あまり気が進みませんねえ」


 渋いのとハンプティはちょっと腰が引けてる感じ。ハゲは血気盛んにやるぜやるぜってところか。


 んー、いっそ全員とっ捕まえて、叔父さん大公の元へ突き出しちゃおうか。


『その場合、ハゲが懐に持っている襲撃の証拠を押さえておきましょう』


 証拠? そんなのあるの?


『あります。肌身離さず持ち歩いている連判状です。今回の襲撃に際し、襲撃の内容と裏切らない事、裏切った場合は死を持って償う事などが記載されています』


 なんと! そんないいものを持っているのなら、ますますとっ捕まえなくちゃね。


 という訳で、物陰からその場にいる全員に電撃を浴びせ、無事全員失神。亜空間収納から予備の護くんを出して、兵士は全員捕縛。渋いのとハンプティとハゲは別口で、私が網で捕まえた。


 三人だけはポイント間移動で叔父さん大公の元へ。あ、懐の連判状は取り上げておく。


「ちわー。襲撃の首謀者とその証拠の連判状、お持ちしましたー」

「えええええ!?」


 叔父さん大公、驚いている驚いてる。残りの兵士もまだいるんだけど、あれどうしようね?

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