第269話 とんぼ返り
という訳で、早速叔父さん大公に売り込んでみる事にした。
「あのー、ちょっとご相談が」
「何かね? ああ、報酬が足りないかな?」
「いえ、そうじゃなくて。その襲撃、すぐに来そうですか?」
あ、叔父さん大公の笑顔が固まっちゃった。比べて、お姫様の顔がキラキラ輝いている。
「サーリ! お父様を助けてくれるの!?」
「何だって?」
あ、先に言われちゃった。でも、いっか。
「お姫様が言った通りです。相手は魔法士を連れてくるんでしょ? 私、こう見えても魔法士として、結構腕はいいんです」
ただし、じいちゃんに「使うな! 見せるな!」って言われた術式ばっかり持ってるけど。
でも、襲撃者を撃退するんなら、少しくらい使って、見せてもいいよね? 後で誤魔化せばいいし。
「魔法士相手なら、こっちにも魔法士がいた方がいいと思います」
「お父様!」
「いや、しかし……」
おりょ? 叔父さん大公が悩んでる。悩む必要ないでしょうに。どうしたんだろうね?
『おそらく、太王太后陛下や国王陛下に遠慮しているのだと思います』
ジジ様に遠慮は、なんとなくわかる。かわいがってもらってるから。でも、ここで叔父さん大公を見捨てたりしたら、二度とジジ様の顔をまともに見られないよ。
たとえ叔父さん大公が生き残っても、だ。
『冒険者として、依頼してもらえばいいのです』
あ、そっか。その手がある。
「私、冒険者ですから! ぜひとも、依頼してください!」
「そうよ、お父様! きっと、サーリは神様が遣わしてくださったんだわ! 神様は、お父様がここで果てる事をお望みではないのよ!」
ギク! お、おおおおお姫様、どこまでわかって言ってるの?
冷や汗だらだら流してると、お姫様がこちらを見てにっこり笑った。
「ね? サーリもそう思うでしょ?」
ダメだ、その笑顔がもう「ここでうんと言わなきゃ、わかってるわよね?」って言ってるようにしか見えない。
お姫様、不思議そうに首を傾げるけど、まだ私の心を読んでますね!
「そ、そうですとも! きっと、総大主教の祈りが神に届き、私を神の使者としてここにお遣わしになったのです!」
く、苦しい言い方だなあ……。あー、叔父さん大公もぽかんとしているよ。お姫様だけが、嬉しそうにニコニコしてる。
叔父さん大公はしばらく私とお姫様の顔を交互に見て、やがて大きな溜息を吐いた。
「……母上とカイドに怒られそうだ」
大丈夫ですよ。叔父さん大公を見捨てる方が、ジジ様も銀髪陛下も怒りますって。
結局、そのままお姫様を連れて砦に戻り、じいちゃん達に説明してから、私だけ叔父さん大公の元へ戻ってくる事になった。
「落ちないようにはなってますが、あまり身を乗り出さないようにしてくださいね」
「はーい」
籠を出して、お姫様に乗ってもらう。流れで、空を移動するって言ったら、叔父さん大公もお姫様も驚いていたけど、お姫様はすぐ期待に目をキラキラさせてた。
うん、今度はポイントをちゃんと打っておいたので、戻ってくる時はポイント間移動出来そう。
お屋敷の目立たない場所に打っておいたので、多分気づかれまい。空を飛んでる時は周囲から見えないようにしてるって、話しておいたし。
そして叔父さん大公のお屋敷の庭から飛び立つ。飛んで下を見たら、叔父さん大公が驚いて辺りを見回していたから、見えなくなるってわかっただろうな。
「凄いわ! 本当に空を飛んでる! 見て! おうちがもうあんなに小さく」
お姫様は空の旅も怖がらず、逆に楽しんでるみたい。恐怖で固まられたり、叫ばれたりするよりはいいか。
今回は行って帰ってするので、ちょっとスピードアップ。下の景色が飛んでいくー。
「凄いわ、凄いわ!」
あっという間に街や森が過ぎ去っていくのが楽しいらしいお姫様は、ちょっと身を乗り出しすぎ。
でも、注意してる暇も惜しいのでこのまま!
今までで、最速の記録を更新したと思う。
「おお、お帰り。まだ昼食前じゃぞ?」
「ただいまじいちゃん。あ、こっち、大公のお姫様。お姫様、こっちはあなたの魔法の先生になるじいちゃん。でね、大公が魔法士に狙われているから、ちょっと行ってくる」
「はあ? ちょ、そんな雑な話……こりゃああ!! もうちっと丁寧に説明せんかあああああ!!」
ごめんじいちゃん。急いでるから。その場でほうきで浮かんだと見せかけて、ポイント間移動。あっという間に叔父さん大公のお屋敷です。
詳しい事は、きっとお姫様が説明してくれるはず。そうすれば、もしかしたら領主様やジジ様の耳にも入るかもしれないじゃない?
銀髪陛下は……まあ、いいや。
さて、では叔父さん大公の元へ行って、今後の相談といきましょうか。
*****
「あのね、サーリが私のお父様を助けてくれるんですって」
「どういう事かのう?」
「何でも、ナシアンとかいう南の国が、お父様の邪魔をする貴族を手助けして、魔法士をたくさん送り込んだらしいの。それで、お父様は私だけでも逃がしたいってサーリに頼んでくれたんだけど、サーリはお父様も助けてくれるって言ってくれたのよ」
「ナシアン……なるほどの。あれにとっては、ある意味因縁か」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます