第266話 手強い……
それにしても、何の術式も使わずに読心術が使えるのかー。確かに、かなり強い魔法要素を持ってるお姫様だね。
そのお姫様が、不意にこっちを見た。
「あのね、心を読めるっていっても、そんなに細かいところまでわからないのよ?」
「え? そうなの?」
「うん!」
そうなのかー……って、しまったああ。お姫様相手に、普通のやり取りしちゃったよ!
怒られるかな? 叔父さん大公の方を見ても、ニコニコしてこちらを見てるだけで、特に怒ったような素振りは見えない。
見逃された?
「サーリはは心の中が大きなお風呂でいっぱいだったから、きっと悪い人じゃないって思ったの!」
……温泉で頭がいっぱいなのは確かです、はい。ってか、私、名乗ったっけ? ああ、これも読心術か。
お姫様の言葉に、叔父さん大公が吹き出した。何!?
「そうか、だからこの手紙ね」
あ、そっか。ジジ様と銀髪陛下の手紙には、反国王派の貴族に温泉掘る口添えを、って書いてあるんだ。
その通りなんだけど、ちょっと恥ずかしいな。
「ミシアの言葉もあるし、何より母上とカイドの手紙もある。アメデアン伯爵とザクセード伯爵には、私から手紙を書こう。きっと許可がもらえるよ」
「ありがとうございます!」
いやー、大公領まで来た甲斐があったよー。これで新しい温泉を掘れる。今回のアメデアン伯爵領とザクセード伯爵領は南の三カ所がある領地。
ここが一番の難関だったから、西は領主様がどうにかするって仰ってたし。よーし、許可もらって掘るぞー。
とうきうきしていたら、叔父さん大公が口を開いた。
「ただ、このまま何もせずに手紙を書く、というのは、ちょっとねえ?」
……これはあれか? 見返りをよこせという奴か? それは別に構わないんだけど。
相手をただ働きさせるって、よろしくないよね? 借りをつくるのも、この大公相手だと何だか怖いし。
対価を指定してくれるなら、温泉の為にも頑張っちゃうよ!
「私に出来る事でしたら、何でもします!」
「本当だね? 嘘偽りはないね?」
「はい!」
ただし、出来る事ならね。さて、どんな無理難題をふっかけられるのやら。身構えていたら、予想の斜め上な要求がきた。
「うちのミシアに、魔法教育を行ってほしいんだ」
「はへ?」
お姫様に、魔法を教えろとな?
さて困った。何せ私の魔法、独特すぎてどれもじいちゃんから封印を受けている。今も許可を得ないと、人前で披露するのはダメなんだよなあ。
「ええと、私が……ですか?」
「他に出来る人を紹介してくれるのでも、構わないよ。何せダガードには、魔法を使える人間がほとんどいない。教えられる者なんて、皆無だろう。それでは、ミシアが困る」
確かになあ。教えられた訳じゃないのに読心術を使うような子は、早めに魔法教育を行った方がいいとは、私も思う。
でも、だったら魔法の学校に入れるのが一番じゃないのかな。
「魔法学院に通うのは、ダメなんですか?」
「うん」
あっさり却下されたー。
「ミシアは私の一人娘で、立場的にも暗殺を恐れなくてはならない。だから、ダガードから出したくないんだよ」
そっか。あんまり考えたくないけど、銀髪陛下に何かあったら、王位を継ぐのは目の前の叔父さん大公だ。
そして、大公にはお姫様しか子供がいないらしい。ダガードが女王容認の国かは知らないけど、お姫様が女王様になる可能性も、なくはないんだ。
でもそうなるとなあ。あ。
「魔法を教えるのは、教会関係者でも構いませんか?」
ジデジルは、教会特有の魔法だけでなく、一般的な魔法もよく知っている。それに、人にものを教えるのに向いているし。
何故か術式の起動が出来ないから、実践が出来ないのが玉に瑕だね。あとはあの困った性格だけど、あれは「神子」限定で出るものだから、多分平気。
でも、叔父さん大公は渋い顔だ。
「んー、出来れば普通の魔法を教えてほしいんだよねえ。それに、教会関連は今聖地がごたごたしているっていうから、ちょっと距離を置きたいかな」
聖地のごたごた? 何それ知らない。えー? ユゼおばあちゃんは大丈夫なのかな。
『教皇は問題ありません。聖地の複数人に、同時に神罰が下ったので騒動が起こっているのでしょう』
それ大事でしょ!? しれっと教えないで検索先生!
『以前神罰が下ったネトインの他にも、彼の上役と同僚、部下などに同時に神罰が下った模様。その結果、聖地で行われていた悪事が本人達の手により暴露され、聖地が混乱しているそうです』
あああああああ、ユゼおばあちゃん大変そう。そしてやっぱり神罰下ったんだあの聖地。
検索先生によると、今回も強制改心の神罰だそうなので、悪人が真人間になった為、己の犯した罪を悔いてあちこちで懺悔大会をしているそうな。
神罰が下ろうとそうでなかろうと、はた迷惑な連中だな全く。
いや、それよりも今は目の前の問題。ジデジルがダメとなると、もう残るはただ一人。
「で、では、私の祖父ではいかがでしょう? 魔法の腕は確かですし、人に教えるのも得意です」
「ほう? 確か、総大主教猊下が『賢者様』と呼んでおられる人物だね? それならば、安心して娘を任せられそうだ」
……叔父さん大公、あれこれよくご存じで。これ、もしかしなくてもはめられてる?
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