第262話 効能はどんなだろう?

 善は急げ……って、善ではないけど、どうせ王宮に来ているのだから、このまま奥宮に戻ってジジ様に許可をもらっちゃおう、という事になった。


「申し訳ありません、ヤーニ様」

「まあ、いいのよ。きっとジジ様も快諾してくださるわ」


 ほほほと笑うヤーニ様。うん、多分許可は下りるだろうね。そして、別荘建設の依頼が来そう。


 もしくは、作った私の別荘に招いてほしい、かな? 許可がもらえれば、こちらもどちらでも快諾しますが。




 奥宮に戻ったら、何だか皆さんに心配されました。領主様達のところへ行って、そのまま帰るって言っていたもんな。


 とりあえず、ヤーニ様が押さえてくれたので何とかなった。


「サーリは用事があってこちらに戻っただけです。そうですね、時間も時間ですから、昼食を頂きながらの話で、どうでしょう?」

「そうね。サーリもそれでいいわね?」


 これ、お構いなくとか言えないよね。それに、王宮のご飯はおいしいし。


「ご相伴にあずかります」


 さーて、食事の席で掘削許可をもらわないと。


 奥宮の昼食は、割とあっさり気味。ジジ様が高齢なので、それに会わせたメニューなんだとか。私の舌にも優しいよ。おいしいー。


「それで? 話というのは?」


 ジジ様に促されて、銀髪陛下達に話した内容をそのまま伝える。ジジ様の領地にも、二カ所ほど温泉が出る山があると伝えた。


「まあ、私の領地に温泉が?」

「そうなんです。それで、ぜひとも温泉を掘る許可がいただきたくて」

「そう。もちろん、許可は出しますよ。好きに掘りなさいな。あの山は、地元民でもなかなか入らない山だから、遠慮はいりません」


 地元民でも入らない山? そんな山、あるの? 大体木の実やキノコ類、ベリーなんかが豊富で、競って入りたがる山しか知らないんだけど。


『大型の魔獣が観測されています。蛇も、前回と同じ程度、それ以上の大物が潜んでいるようです。なので、入った者は二度と帰らない帰らずの山と恐れられているようですね』


 マジかー!? 蛇? また蛇なの?


『いい蛇酒が造れそうです』


 検索先生、その蛇酒、どうするつもり? 先生が呑むの? 実体あったっけ?


『……黙秘します』


 あ、また逃げられた。




 食事後も少しおしゃべりして、とうとうお暇の時間。ジジ様のところは居心地が良くて、つい長居しちゃう。


「またいつでもいらっしゃい」

「はい、失礼します」


 ジジ様達が、奥宮の中庭まで見送りに出てくれた。いつも優しい方々だから、こちらもそれに報いるようにしなきゃ。


 まずは、温泉を掘ったらご招待だね。別荘の話は少しも出なかったからさ。


 でも、あの温泉別荘での様子を考えると、嫌いじゃないと思うんだよね。なので、こっちにも趣の違う別荘を建てて、招待しようと思う。


 もちろん、ヤーニ様達侍女様も全員揃って。


「忙しくなるなあ」


 砦に戻ったら、そろそろお茶の時間。奥宮でお昼と一緒におしゃべりに夢中になってたから、こんな時間だよ。


 お茶請けは亜空間収納に作り置きしておいたやつを出す。ベリーのケーキ。スポンジに生クリームと三種のベリーを飾り付けたもの。


 これ、いつぞや生クリームの試食会をやった時、ついでに作っておいたやつだ。まだ残っていたんだね。


 ケーキはこれでいいとして、飲み物はお茶よりはコーヒーにしようかな。じいちゃんはミルク少し、私とジデジルはカフェオレで。


 準備が出来た辺りで、ジデジルが帰ってきた。


「ただいま戻りましたー」

「お帰りー。カフェオレ出来てるよー」

「ありがとうございます。今日のケーキはクリーム系なんですね」

「何故わかる?」

「ふふ、サーリ様がコーヒーを煎れる時は、クリーム系のケーキの時が多いですから」


 ぬぬぬ、何か読まれてる。


 じいちゃんも研究室から出て来たので、三人でおやつタイム。


「そういや、納品は無事済んだかの?」

「うん。代金はまた別で受け取りにいかないとだけど。あ、ジジ様の領地に、新しい温泉がある事がわかったから、近々堀に行くね」

「ほう、温泉とな? よし、掘る時はわしも行くぞ」


 じいちゃんも温泉好きだもんね。今度の温泉、効能はどんなかなあ?二人で盛り上がっていたら、ジデジルが拗ねた。


「ずるいです。私も一緒に――」

「いや、あんたは大聖堂建設があるでしょうが」


 ただでさえ放火騒動で遅れ気味なんだから、しっかり進めなさいってば。ユゼおばあちゃんからも、馬車馬のごとく使い潰せって言われてるし。


 ユゼおばあちゃん……ジデジルの事、嫌いじゃないけど困った人だって言ってたね。確かに困った人だけど、基本悪意のない人だからなあ。


 それが一番困るのか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る