第261話 何それ怖い
他領での温泉掘削の件を相談しようと王宮に来た時、群れが再び問題を起こしたので、そっちの対応で相談がすっぽ抜けた。
そしてそれ以降、王宮には来ていなかったんだ。一度領主様と銀髪陛下が砦に来たけど、あの時は放火犯の件で一杯だったから、すっかり忘れていた。
そして今、目の前には領主様と銀髪陛下がいる。相談するなら、今!
「あの! ちょっとご相談したい事が!」
「ほう? 何だね?」
不躾かなあ、とも思ったけど、今を逃すとまた忘れる。絶対。なので、勢いで聞いちゃったけど、領主様は笑顔で答えてくれた。
「実はですね……領主様の領地とは違う領で、温泉を掘ったらダメかなあと思いまして……」
相談するとは言っても、どう切り出せばいいのか思いつかなかったから、ストレートに聞くしかないよね。
あー、領主様も銀髪陛下も、お互いの顔を見合わせてるー。怒られるかな……
「他の領でも、温泉が出るというのかね?」
「はい。……多分」
「ふむ。どの辺りか、聞いてもいいかな?」
「えっと……」
領主様が棚から丸められたものを取り出し、大きな机の上に広げる。あ、地図だ。
ダガード国内だけでなく、周辺諸国ものってるね。ってかこれ、北ラウェニアの地図じゃないかな。凄い精巧。
検索先生が教えてくれた温泉のある場所を指先で示していく。
「こことここ、それからこっちにも。あとここに三つ」
地図の上で、七カ所を示す。どこも山の中にあるんだよねえ。そして、七カ所全部が一応国内でコーキアン領とは別の場所。
二カ所はコーキアン領から見て王都の東側、二カ所はコーキアン領よりさらに西、残りの三つは南にある。
「ほう……おや、ここは」
「お婆さまの領地だな」
「え? そうなんですか?」
領主様と銀髪陛下が示したのは、東にある二カ所。え、二カ所とも、ジジ様の領地なんですか?
銀髪陛下が、説明してくれた。
「お婆さまがこの国に嫁いでいらした理由が、この領地だ。どちらも父方母方から相続していてな。我が国にとっては重要な領地だから、余所に渡す訳にもいかず、結局王家に迎える事で、決着したんだ」
「何でそんな重要な領地が、他国に渡るような状況になるんですかねえ?」
「どちらの領地も、当主が早い内に病で亡くなったんだ。ごく狭い範囲で流行った病でな。一族の殆どが亡くなってる」
何だろう、この呪われた土地感。で、後を継げる人が国内にいなくなっちゃったんだけど、国外にはお嫁にいった娘さんの筋で相続人がいたそうな。
それが、ジジ様のご両親だったと。そういえば、この領地って隣り合ってるね。
「お婆さまが亡くなったら、俺と叔父が相続する事になっている。俺が相続すれば、王領だな」
相続云々なんて話は、あまりおおっぴらにはしたくないけど、人はいつか必ず亡くなるからね……
でも、ここがジジ様の領地という事は?
「ジジ様に直接お願いすれば、温泉掘っても大丈夫ですかね?」
私の問いに、領主様と銀髪陛下がお互い顔を見合わせる。どっちが答えるかで、押しつけあってるのかな?
結局、押しに負けたのは領主様でした。
「問題はないだろう。ただ……」
「ただ?」
「太王太后陛下に、あの山にあるような別荘を作ってくれと頼まれるかもしれないね」
あー、そういえば、大分気に入ってらしたからねー。別荘そのものなのか、イチゴミルクなのかはわからないけど。
とりあえず、ジジ様の領地以外の場所での温泉掘りは、領主と検討してみる、と返答をもらったので、うまくすれば全部掘れるかもね。
『期待しています!』
検索先生、めっちゃ嬉しそうです。東の二カ所は決定ですからねー。
「そういえば、お婆さまの磁器はどんな柄にしたんだ?」
新しく掘る温泉に思いをはせていたら、銀髪陛下にいきなり聞かれてしまいました。
「えーと、赤い果実を柄にしました……」
パクリです、ゴメンナサイ。でも、こっちにはあの商品はないから、訴えられたりはしないよね?
「赤い果実? いつぞや、砦で食べたあれか?」
「そうです」
銀髪陛下、勘がいいな。他にも赤い実なんて、一杯あるのに。一発でイチゴを当てるとは。
「とても愛らしい柄でしたよ」
ヤーニ様が微笑みながら付け加えてくれましたよー。あれなら、女性に気に入られそうですよねー。
「そうか、それはぜひ見てみたい」
領主様、その腹に一物ありげな笑顔、やめましょうよ。
「では、ジジ様のところで見せてもらってください」
「そうするとしよう。陛下はいかがなさいますか?」
「……別にいい」
一応王様、忙しいだろうからね。ただ、理由を作ってでも、自分のおばあちゃんに顔を見せに行くのはいいと思うよ?
じいちゃんばあちゃんにとって、孫は子供よりも可愛いって言うから。
同じ王宮に住んでるっていっても、表のこっちと奥宮とでは、大分距離があるし。
何もなくても、顔を見せればジジ様も喜ぶんじゃないかなー?
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