第260話 忘れてたー

 さて、ジジ様への納品が終わったので、おいしいお茶とお菓子を頂いた後は、銀髪陛下への納品です。


 ちゃちゃっと誰かに預ければいいか。


「私が同行しましょう。愚かな娘達は一掃されましたが、第二第三の群れが出来ないとも限りません」


 ヤーニ様、怖い事言わないでください……




 奥宮を出て、ヤーニ様の後ろをついて王宮を歩く。造り自体はシンプルなんだけど、とにかく広いから、余裕で迷子になれそう。


 ところでヤーニ様、どこへ向かってるんだろうね? 銀髪陛下の侍女さんか、領主様の部下の人か。どっちかのところかな?


「失礼します。サーリを連れて参りました」

「通せ」


 あれ? 何か重厚な扉の前だし、中から聞こえてきたのは聞き覚えのある声なんだけど……


 扉の奥には、銀髪陛下と領主様が揃ってました。あ、剣持ちさんもいる。


「よく来たね、サーリ」

「今度は何があったんだ?」


 領主様がにこやかに出迎えてくれたのに対し、銀髪陛下のこのいいよう。持ってきた磁器、余所に売り飛ばしちゃうぞ。


「陛下、サーリは磁器の納品に来たのですよ」

「何? 本当か?」


 ヤーニ様が助け船を出してくれたから、銀髪陛下の磁器は余所に流れずに済みました。銀髪陛下、ヤーニ様に感謝しなさいよ。


 まあ、口には出さないけど。


「陛下、あまりサーリをからかうと、嫌われてしまいますぞ」

「え? いや、俺は別に……」


 何か銀髪陛下がもごもご言ってる。大丈夫、あの程度で嫌ったりしないから。私はそんな子供じみた事はしません。


 うん、大人の女なんだから、あの程度軽く聞き流すのだ。


「で、磁器はどこに出しましょう?」

「ああ、少し待ちなさい」


 領主様に確認すると、すぐにテーブルの脇に置いてあったベルを鳴らす。すると、壁の一部が扉のように開いて、そこからエプロンを着けた女性使用人が出てきた。


 あそこ、扉だったんだ……


「ワゴンを二台……いや、三台持ってくるように」

「かしこまりました」


 領主様の言葉に、小さな声で応えた女性は、来た時同様壁の一部を開けて向こう側に消えていった。


「サーリは、王宮の裏道は知らなかったか」

「裏道?」

「壁の内部を縦横無尽に走っていてね。使用人達が使っているんだよ」


 何でも、高貴な方々の目に触れないように仕事をする為、作られているんだって。へー。


 ちなみに、使用人と侍女、侍従は全く違う仕事らしいよ。王家に仕える侍女や侍従は、高位貴族の当主や夫人が就く事が多いんだって。


 侍女や侍従を持つのは伯爵家までで、子爵家や男爵家、騎士爵家の子女がなる事が殆ど。


 じゃあ、子爵家や男爵家、騎士爵家は侍女がいなくてどうするのかって話だけど、庶民を使用人として雇い入れるそうな。


 よくわかんない。ローデンの時は、付けられた侍女達もすぐに私の元から離れたからなあ。


 そんな事を考えていたら、さっきの女性使用人さんがワゴンを押して入ってきた。彼女の後ろに、同じようにしてもう二人いる。


 ワゴン、三台注文してたもんね。


「さて、ではこの上に出してもらおうか」

「わかりました」


 一台は領主様の注文品。花は深紅の薔薇にしました。皿の中央にどどん、と薔薇の花が描かれているのも、迫力あるよね。


「ほう。これはまた見事な」

「大きな花が中央にあるのって、ちょっと下品かと思ったんですけど……」

「いや、これはこれでいいものだよ。ありがとう」

「お気に召して良かったです」


 いやー、これで気に入らん、って言われたらどうしようかと思ったよ。あれか、検索先生が言っていたように、余所に売り飛ばせばいいのか。


 次は銀髪陛下の分。こっちは二十四人分と数が多いから、出すのも大変。

ワゴンの上に積み上げられていく磁器に、みんなの視線が集まる。


「これは……馬か?」

「神馬ですよー」

「神馬!? 伝説上の幻獣ではないか」


 伝説なの? よく砦に果実を食べに来ていたけど。今は島ドラゴンのところに定期的に持っていくので、そっちに行って食べてるみたい。


 ちゃんと二頭分持って行ってるからね。


「ちゃんと額のところに、特徴的な紋様が入ってるでしょ?」

「額? ……ああ、本当だ」

「なるほど。サーリは、神馬を見た事があるのかい?」

「ありますよ」

「「「「え!?」」」」


 領主様や銀髪陛下だけでなく、剣持ちさんとヤーニ様まで驚いている。あ、さっき伝説上の生き物って、言っていたっけ。


「うちのじいちゃんと、仲がいいらしいです」

「バム殿か……」

「お前の祖父は、底知れぬ人物だな」


 そうかな? 確かに魔法の腕は凄いけど。私にとっては、一緒にあれこれやってくれる、気のいいじいちゃんだ。


 さて、これで納品も全部終わったし、後は帰るだけだね。


『温泉の掘削許可の事を忘れています!』


 あ!

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