第259話 納品でーす

 大聖堂放火事件から三日後。領主様が砦にやってきた。銀髪陛下と剣持ちさんを連れて。


「総大主教猊下には、心よりのお詫びを申し上げます」

「いいえ、どちらかというと、我等のいざこざに貴国を巻き込んだ形です。大変申し訳なく思っております。どうか、頭をお上げください」


 銀髪陛下と領主様がジデジルに謝罪し、彼女がその必要はない事、かえって教会組織のあれこれに巻き込んだ事を謝罪して、今回の件は終了。


 国とかでかい組織になると、あれこれあるから面倒だよね。


「サーリにも、面倒をかけたな」

「私? いえいえ、どうって事ないです」


 さすがに、ジデジルが関わってる大聖堂への放火は見過ごせないしね。聖地に行ったのも、半分はユゼおばあちゃんの顔を見たかったからだし。


 ユゼおばあちゃん、元気そうだったけど、ちょっといつもと違った気がする。気のせいかな……


「それで、建設の遅れはどの程度になりそうですかな?」

「それが、何とか計画通りに行きそうです」

「ほう?」


 領主様、ジデジルと話していたのに、どうしてこっちを見るのかな?


 いや、木材調達は砦内でやりましたけど。これ、外には漏れていないはずなのに。


「サーリ、大聖堂に使う木材は特別なものだと、知っていたかい?」

「へ? あー、そう、聞きました」

「そうか」


 ……そんだけ? 構えたこっちが恥ずかしい。


 領主様は、放火犯と指示を出したムカつく司教とその配下の男、彼等への処罰の事なんかを語った。


 司教は額に焼きごてを押した後に、国外追放。この焼きごてで犯罪者と一目でわかる為、どこへ行っても大変な目に遭うらしい。


 配下の男は終身刑。口封じしに牢屋に勝手に入ったのが明らかだからだって。あの牢屋、夜は無人になるらしい……不用心だなあ。


 で、実行犯の三人なんだけど。なんと国内でも一番戒律が厳しい修道院に送られる事になったんだって。


 本人達は神の御許へ送りたまえって叫んでいたそうだけど、修道院の院長が来て「厳しい修行こそ神への道」とか説いたら、あっさり修道院行きを受け入れたんだってさ。大丈夫なのかね?


 ともかく、これで大聖堂建設が滞る事なく進むから、良かった良かった。




 そんな事件があった事を忘れそうな程、温泉でだらけていたら、何かを忘れていたような気がする……何だっけ?


『注文を受けた服と、磁器を届け忘れています』


 しまったあああ!


 どっちも亜空間収納内にて魔法で作ったから、とっくの昔に出来上がってるんだよね。


 あれだ。群れとか放火犯とかでバタバタしていたから、忘れていたんだよ、うん。


 ……ジジ様とか銀髪陛下、怒ってないかな?


 温泉から上がって、イチゴミルクを飲んでから、身支度を調えて一路王都へ。


 飛び立つ前に、手紙を侍女のヤーニ様宛で送る。これから伺います、とかいておけば、いつ中庭に下りてもいいようになってるから。


 いつも通り空をほうきで飛んで、王宮へ。奥宮の中庭は……よし、今日は群れ、いないな。


 てか、いないのがデフォだよね? この奥宮は、ジジ様の宮なんだから。


「いらっしゃい、サーリ」

「ご無沙汰してます、ヤーニ様」

「ジジ様が首を長くしてお待ちよ」


 ほほほと笑うヤーニ様の後ろを歩きながら、内心冷や汗。あー、検索先生に教えてもらって助かったー。


 私だけなら、確実に忘れたまんまだったわ。


『新しい温泉、期待しています』


 あ、はい。国内に散らばってるんだっけな……




 ジジ様は、本当に首を長くしてお待ちだったようです。


「やっと出来たのね!? 待っていたのよ」

「お、お待たせしました……」


 言えない。実は亜空間収納でとっくの昔に出来上がっていたなんて。


 服と磁器を一度に出す。おお、ヤーニ様達も目の色が変わっていますよ。体を締め付けない服は、やっぱり楽だもんねー。


 一通り納品が終わり、一服中。話題はやはり、直近であった例の事件ですよ。


「大聖堂が放火されて、巻き込まれたのですってね。怖いわ」


 いやあ、巻き込まれたというか、放火犯自ら捕縛しちゃいました。腹立ったので。


 だって、ジデジルが大変な思いをしていたの、間近で見ていたから。それに、大聖堂建設には聖地、教皇庁も絡んでる。


 当然、ユゼおばあちゃんも関係者だ。だから、その邪魔をする連中が許せなかったんだ……


 結果、あれこれ出て来ちゃったけど、面倒な事はきっとそういうのが得意な人がやってくれるはず! 領主様とか銀髪陛下とか。


 聖地の方はどうだろうね? いっそ黒幕に神罰が落ちればいいのに。


『落ちたようです』


 マジでー!?


『少なくとも、ネトイン司教に神罰が下ったのは、確実です』


 あの濃い顔かー……それにしても、神様も仕事が早いね。


『神子の目を借りて、下界を直接見られますから』


 ……マジで? それって、私がおかしなフィルタかけて見たら、神罰対象になるって事?


『そこまで節操なしではありませんよ。基本的に、神に対する不敬と、神子に対する不敬を行った場合、確実に下ります。ちなみに、神子の場合は相手を神子と認識した上で不敬を行った場合に下ります』


 そうなんだ……大聖堂は神の家。確か、祈りの数が増えれば増える程、その土地の穢れを払い人と神を結びつける……だっけ。


『よく憶えていましたね』


 へへへ。邪神封印の旅に出る前の、ユゼおばあちゃんとジデジルによる神様講座の話は、結構憶えてるんだー。


 で、今回の濃い顔は神への不敬により、神罰が下った、と。やっぱり、今の聖地はろくなもんじゃないね。


 ユゼおばあちゃん、大丈夫かな?

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