第258話 一件落着だと思うよ

 ひとしきり神様への愛を叫んだ後、三人は唐突に床に頭を打ち付け始めた。え……なにこれ。


「尊き神に!」

「神の栄光を称えるべき我々が!」

「神と人とを繋ぐべき場所となる大聖堂に!」

「「「何たる非礼を!!」」」


 もうね、私だけでなく、じいちゃんもジデジルも網で吊された聖職者も、なんならフォックさんとローメニカさん、牢屋の番人さんまで呆気にとられたさ。


 あー、でも今なら聞けば素直に答えるかも? 何をって、誰に命令されて大聖堂建設現場に火を付けたのかって事。


 ちらりとジデジルを見ると、彼女も気づいているみたい。さっきまでのぽかん状態はどこへやらだ。


「神への非礼を詫びるのなら、あなた方にそのような大罪を押しつけた者の名前を言えますね?」

「おい! 何を言って――」

「「「もちろんですとも!」」」


 吊り下げられた男が遮ろうとしたけど、それより早く牢屋の連中がきらきらした目でこっちを見てる。


「私にあのような無体を命じたのは、ムカロス司教です!」

「ムカロス司教は、聖地のネトイン司教からの指示だと言っていました!」

「あと、ムカロス司教はネトイン司教の事をムカつく奴だ、とも言っていました」


 さらっと濃い顔の悪口までチクってるー。吊られた男が目を剥いているね。そりゃそうだ。彼はそのムカつく司教のところから来たって言ってたから。


「さて、あなたの名前は知りませんが、彼等はこう言っていますよ? ムカロス司教の部下さん?」

「し、知らん! 私は何も知らん!」


 当然ながら、男はしらばっくれる。でも、牢屋の連中はここでもチクり体質を発揮した!


「あ、この人はムカロス司教と我々との連絡役です」

「夕べ、この牢屋に入ってきて、お前達を始末しに来たと言っていました」

「多分、ムカロス司教と我々との繋がりを知られたら、困るからです」

「お前らいい加減黙れえええ!!」


 べらべら喋られたからか、吊られた男が癇癪起こしたよ。


「大体! この網はなんだ! 何故私がこんな目に遭わされるんだ!!」

「それはね、あなたが勝手に牢屋に忍び込んだりするからだよ?」

「何だと!? 貴様、何者だ!?」


 聖職者にこれを言われるとは思わなかったなあ。でもまあ、聖地でも濃い顔は私の事、気づかなかったみたいだしねえ。


 あれか、ジデジルが特別なのか。あれ? でもユゼおばあちゃんもすぐわかったよね? じゃあ、やっぱりこいつがぼんくら聖職者だから?


 まあいいや。


「私はこいつらを捕まえた者。で、こいつらの口封じに来る奴がいるかもしれないって事で、この牢屋に罠を張ったの。それに引っかかったのが、あなた」


 これならわかりやすかろう。吊られた男は、顔を真っ赤にしている。恥ずかしいから、じゃなくて、怒ってるからかな?


「と、ともかく、ここから下ろせ!」

「それは私が決められる事じゃないしー」


 あれ? こいつを下ろしていいかどうかって、誰が決めるの?


 ついフォックさんを見ちゃったら、何だか渋い顔をしている。


「下ろすのはいいが、こいつも牢屋行きだから、もうちょっと手勢が集まるまで待ってくれ」

「牢屋にぶち込むだけなら、簡単に出来るよ?」

「何?」

「あの網ごと、牢屋に入れてから網を回収すればいいんだもん。護くん、お願い」

「承知シマシタ」


 当然だけど、網を吊しているのは護くんだ。だから、一旦護くんごと牢屋に入れて、後で網と護くんを取り出せばいいだけ。


 番人さんが鍵を開けてくれたので、空いていた牢屋に吊られていた男を収容。網をしまった護くんが牢屋の鉄格子をすり抜けて戻ってきた。


「……そいつは、鉄格子をすり抜けられるのか?」

「うん、今見た通り」

「そうか……」


 フォックさんが目元を押さえてるけど、疲れ目かな? 仕事のしすぎだと思うよ。少しは休んでね。




 これで大聖堂放火の件は一件落着……かな? 後のムカつく司教とか濃い顔とかのあれこれは、私は関わりないし。


 ジデジル本人か、ユゼおばあちゃんが大変なのかもね。


「さて、もうお昼も大分回っちゃったね。砦戻って作るの面倒だから、何か買って帰ろうか?」

「そうじゃな」


 ここで、デンセットで食事という選択肢が出ないのは、街の臭いにある。相変わらず、臭いんだよね。


 下水道がないから、生活排水とかは割と垂れ流し状態。そのうち、領主様に浄化機能付きの魔法のトイレを売り込もうかな……


 井戸の水も、浄化機能を付ければいいのになあ、と思わなくもないけど、何でも清潔にしすぎるのも良くないっていうしね。


 あ、でも宿屋で食べたり屋台で買ったりした場合、こっそり浄化をかけて殺菌と異物の除去を行ってる。食中毒は怖いから。


 じゃあ、屋台の出ている広場まで行って、何か買って帰ろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る