第257話 釣れてる

 あっという間に育った聖針樹をぱぱっと伐採し、木材に加工しておく。乾燥させて枝を落とし、皮を剥いでおかないとね。


『枝と皮は取っておきましょう。使えます』


 何かの素材になるのかな? まあいいや。妖霊樹も無駄のない魔獣だから、似たような聖針樹もきっと無駄がないんだろう。


 伐採後の切り株にも、成長促進を使う。すると、あっという間に芽が出て来た。


 ここで一旦成長を止めて、切り株は掘り起こし、芽は切り取って新しく植える。これを、植えた聖針樹の数の分だけ繰り返す。


 もちろん、魔法を使うので労力は少ないけど、やっぱり繰り返すのは大変だね。魔法なしだったらと思うと、やりたくないわー。


 そんな感じで何度も聖針樹を伐採した結果、大聖堂いくつ建てられるんだか、って量の木材が手に入った。


「……相変わらず、とんでもない力ですね」

「今回はほら、大聖堂の建設って理由があるから!」


 魔法の大盤振る舞いをしても、きっと神様も許してくれるって。多分。




 木材を建設現場に持っていく前に、三人でデンセットに向かう。ブランシュとノワールはお留守番。砦で遊んでるってさー。


 デンセットに行くのは、例の放火犯につけた護くんが何か釣り上げてないかなーって思って。


 砦から街まで、歩いて行くんだけど、途中からでも街の門が見えるんだよね。


 で、門番さんが私達を見た途端、どこかに報せを走らせたのが見えた。多分、フォックさんのとこだな。


 フォックさんは街の治安維持関連の責任者でもあるらしい。あの人、肩書きいくつ持ってるんだろうね?


 そんなんだから、ブラック企業も真っ青な働き方になるんだと思うけど。私が言うことじゃないからいいか。


「こんちはー。放火犯がどうしてるか、見に来ましたー」

「ああああ、ちょっと待ってくれ!」


 門に到着したら、門番さんに止められた。と思ったら、通りの向こうからこっちに向かって猛スピードでローメニカさんが走ってくる。


 女性でスカートなのに、そんなに走ったらダメでしょうよ。


「サーリ! ちょっと来てちょうだい!」

「はーい」


 うん、とりあえず、ローメニカさんに見つかったら連れて行かれるっていうのは、デフォなんだな。


 いつものようにフォックさんのいる部屋に三人で連れてこられた。フォックさん、お疲れ様です。また目の下に隈が出来てるよ。


 あとで蛇酒もう一本いっとこうね。


「サーリ……牢屋に入れておいた連中の事なんだが」

「何か釣れた?」

「……そう言うって事は、今の状況がわかっていたって事だよなあ?」


 フォックさん、そんな怖い顔で怖い声を出さないでほしいな。


「フォック殿。誰が釣れたんじゃ?」

「じいさんまで……はあ……総大主教猊下、一体教皇庁はどうなっているんですかな?」


 フォックさんがジデジルにそう聞くって事は、やっぱり聖職者が釣れたんだな?


「お恥ずかしながら、現在の教皇庁……聖地は、とてもそうは言えない場所になっています。志もなく、権力欲に取り憑かれた者達の巣窟と成り果てているのです」


 ジデジルが本当に悲しそうに伝えると、フォックさんはまた深い溜息を吐く。


「サーリに言われて、牢屋には誰も近づかないように指示を出しておいたんだが、夕べ、近づいた者がいたんだ」

「で、護くんに釣り上げられた、と」

「そうだな。それが……王都の司教様の直属の部下だったんだよ」


 あらー。ダガードの教会組織も、結構教皇庁の影響を受けてるんだねえ。




 一旦護くんに捕まると、私以外は手出し出来ない状態になるので、そのまま牢屋に放置しているらしい。


 という訳で、私達三人に加えてフォックさんとローメニカさんの計五人で牢屋まで行った。


 わー、古い西部劇映画に出てくるような牢屋だなー。まず入り口に鉄の格子戸があって、そこに入ると左右に二つずつの牢屋。


 で、放火犯達は一人ずつ牢屋に入れられていたんだけど、護くんは一つ目の格子戸の中に設置していたので、釣り上げられた王都の聖職者はそこにいた。


 中空から網に入ったまま、文字通り吊り下げられて。


「いい加減にしろ! 私を誰だと思っているんだ!」

「ダガード王都、ジュニセック教会のムカロス司教の配下の者だそうですね。彼は確か、聖地のネトイン司教と懇意だったはず」


 冷静なジデジルの言葉に、捕まっている男は何故か青くなっている。


 司教の手下なら、総大主教のジデジルは雲の上の人だろうに。なんでこんなに偉そうなんだろう。


「あなたこそ、ここに何をしに来たのですか?」

「わ、私は! 司教に頼まれて彼等の身柄を引き受けに――」

「彼等はこの国の法で裁かれると、聖地で決定されました」

「な……」

「あなたは、教皇聖下のお決めになった事に逆らうというのですか? ああ、あなたの上司のムカロス司教がそう言ったのですか?」

「ち……ちが――」

「では、聖地のネトインが、大聖堂の建材に火を付けろと命令したのですか?」


 おお、久しぶりにジデジルが本気モードを出している。そして、彼女の言葉に反応したのは、捕まっている王都から来た男ではなく、放火犯達だった。


「お許しを! 総大主教猊下! 我々が間違っていたのです!!」

「ああ、神に仕えるべき我等が、なんという事を!」

「聖地にいるネトイン司教や、王都のムカロス司教も悔い改めるべきなのです!!」

「「「神は尊い!!」」」


 ……神様、何か変なもの注入していませんか?

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