第256話 大きな木の下で

 話は終わったので、砦にとんぼ返り。ユゼおばあちゃんに表の方まで見送ってもらって、ちょっとびっくりしたな。


 ええ、周囲の目が痛い事痛い事。なんと言っても、現教皇ですからねえ。


 あと、ユゼおばあちゃんとジデジルが何かこっそり話し込んでた。やっぱり、大聖堂の件かなあ。


 聖地、荒れないといいけど。


『聖針樹の苗をお忘れなく』


 あ、そうだった。


「ユゼおばあちゃん、聖針樹の苗って、どこでもらえるの?」

「ああ、それはジデジルに教えました。彼女がいけば、苗ももらえるでしょう」

「わかったー。ありがとう、おばあちゃん」

「次に会う時まで、元気でね」


 ユゼおばあちゃんは、ふっくらしていていい匂いがする。そのおばあちゃんにぎゅっと抱きしめられて、お別れの挨拶は終了。


「では、行きましょうか」


 うん、苗をもらったら、速攻砦に帰って木を育てよう。




 聖針樹の苗は、木の管理をしている部署が山の中腹にあるらしく、そこでもらえた。


「ここ以外では育たないんですが……」


 困ったような顔をした担当の人が言っていたけど、大丈夫。検索先生のお墨付きがあるから。


『この場より、砦の神気の方が濃いので問題ありません』


 そうなんだ……本当、私の周囲はどうなってるんだろう?


 ま、まあ、気を取り直して、これで聖地でやるべき事は全部終わったから、砦に帰ろう。


 懐からブランシュとノワールも出てくる。


「苦しくなかった?」

「ピイイピイ」

「ダイジョウブー」


 そう、良かった。山の中腹は人が少ないので、ここから飛び上がっても問題ないみたい。結界も張るしね。


 行きとは違う速度で砦に戻る。うん、時間短縮成功だね。


「……あの、速すぎませんか?」


 絨毯から下りたジデジルが、ぐったりしながら聞いてきた。


「えー? 大丈夫だよ。落ちないし」

「そ……そうですか……」


 あれ? ジデジルって、高いところ苦手だったっけ? まあ、乗っていれば慣れるから大丈夫でしょ。


 それより、木を植えなきゃ。苗は少し多めにもらってきたけど、これ、どこに植えればいいんだろう?


『畑の脇で大丈夫です。聖針樹の成長は気温や湿度などではなく、土地の神気に左右されます』


 そうなんだ。じゃあ、畑の脇に間隔を広げて植えて……っと。畑、まだ実験段階中だから、植えるスペースはたくさんあるんだよね。


 いっそここで聖針樹をたくさん栽培しようか。


『それも可能です。では、成長促進の術式を使いましょう。神気をたっぷり込めて使ってください』


 了解でーす。では。


 意識して力を込め、成長促進の術式を使う。これは割とポピュラーな術式で、急いで収穫しなくてはならない時に使う術式なんだって。


 ただ、いい作物を収穫しようとすると、術式を使う前に本来の倍以上の肥料を使わないといけなかったり、術式を使った土地は向こう二年使い物にならなかったりするので、注意が必要だけど。


 でも私が使うと神気のせいか、肥料もいらないし土地も翌日から普通に使えるんだよねえ。


 ローデンで一度使って驚かれたけど、あそこは通年豊作の国だからか、あまりありがたがられなかったなあ。


 そんな成長促進の術式ですが、さすがにこんなのは私も見た事がない。


 術式を使った途端、苗だったものがぐんぐん伸びていって、あっという間に大木なるとか。


 前に使った時は農作物が対象だったけど、収穫出来るようになったのは術を使ってから三日後だったよ。


「こりゃまた……」

「凄いですねえ……」


 じいちゃんもジデジルも、呆気にとられてる。うん、まあ、そうだよね……


 幸いな事に、木の高さは一番外側の壁の高さを超えなかった事かな。


 いきなり緑が増えていたら、またデンセットからフォックさんかローメニカさんが飛んできそう。


 ともかく、これを伐採して木材にすれば、大聖堂建設も遅れが出ないんじゃないかな。


 ジデジルも、ちょっと嬉しそう。

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