第255話 聖地ってヤバくない?

 大聖堂が放火された事、放火した連中は、教皇庁から派遣されてきた聖職者三人だった事、放火犯には既に神罰が下った事などを説明。


「幸い、大聖堂はまだ基礎工事が始まったばかりでしたから、大きな影響はないかと思いますが……」

「でも、建築資材が焼けたのよね?」

「はい……」

「そう。困った事だわ」


 そう言うと、ユゼおばあちゃんとジデジルは、揃って俯いてしまった。もしかして、大聖堂の建築資材って特別なもの?


「木材が燃えたのは、そんなに大きな事なのかのう?」

「ああ、あなたは知らなかったのですね。大聖堂を建てる建材は、全て祝福を受けたものでなくてはなりません。特に木材は、木の種類も決まっていて、この山の中腹にしかない木なのですよ」


 そうなの!? 何でも、大聖堂を作る為に、何年もかけて木材を貯めておくんだって。


 うわあ……


「それ、他の木材じゃダメなの?」

「残念ながら……」


 ジデジルが、力なく答える。うわー、木材なら何でもいいんだと思ってた。いっそ、妖霊樹を大量に狩ってこようかとも思ったのに。


『大聖堂建設に使う木は、聖針樹という特別な木で、聖なる気を持つ樹木と言われています』


 せいしんじゅ? 精神の樹じゃなく、聖なる針の樹なんだ。参ったね、こりゃ。


『手はあります』


 マジで!?


『この山は、神気が漂うからこそ聖地に選ばれた場所です。現在、ここと同等かそれ以上に神気が濃い場所がありますので、そこに苗を植えて成長を促進すれば、木材として使えるまでに育てる事が可能です』


 え? そんな場所あるの? どこどこ?


『砦です』


 マジでー!? ……って、そうか、私、一応神子だっけ。だからなの?


『そうです。神子は神の力を直接受ける存在。その場にいるだけで、神気を周囲に振りまき、穢れを取り除き土地も水も人も浄化します』


 おおう……今更ながら、自分が凄い存在な気がしてきた。日本にいた頃と、何にも変わっていないと思ったのに。


『神子本人が変わる必要はありません。神も、それを望みません』


 そうなの? じゃあ、これからも好きにやっていっていいのかな?


『大筋で、問題ありません』


 大筋じゃないところでは、問題あるんだ……それはともかく。


「えーと、ちょっといいかな? 解決策があるって」

「は?」


 ユゼおばあちゃんとジデジルが、同時に驚いた顔でこちらを見る。じいちゃんは慣れているせいか、またかという顔だ。


「聖針樹……でいいんだよね? その木、私の砦でなら育てる事が出来るって」

「ほ、本当ですか!?」

「うん」


 ジデジルが、感極まって泣き出しそう。


「検索結果かの?」

「そう」


 さすがじいちゃん、鋭い。


「あなたはまた……本当に、いつも驚かされますね」


 えーと、何かごめんなさい?


「そういえば、再会の挨拶もまだでしたね。お久しぶりです、ユーリカ。ああ、今はサーリと名乗っているのでしたか?」

「うん、久しぶり。名前の事、ジデジルから聞いたの?」

「ええ、律儀に手紙を書き送ってきましたから。そうそう、私からの手紙は、ちゃんと読んでもらえたかしら?」


 そういや、ユゼおばあちゃんからの手紙には、ジデジルの事を使い潰せとか書いてあったっけ……


「読んだけど……まだ、使い潰せてはいないかな?」

「では、これからしっかりと使い潰しなさいな」


 待ってユゼおばあちゃん。使い潰す事は前提なの?


「現在建設中の大聖堂が出来上がれば、ジデジルは北方総大主教区を治める地位に就きます。それこそ、聖地に帰る時間などないくらいに忙しくなるはずですよ」

「……ユゼおばあちゃん、ジデジルの事、嫌い?」

「いいえ? 困った人だとは、常々思っておりますけどね」


 にこやかなユゼおばあちゃんの笑顔が、ちょっと怖いっす。




「では、今回の放火犯は、そちらの国で裁いてもらうという事でいいですね?」

「それが良かろう。領主殿も国王も、文句は言うまい」


 本当なら、聖職者の罪は教会で裁かれるべきなんだけど、このまま教会に戻すと、放火犯は口封じされちゃう危険があるらしい。


 そして、あいつらを大聖堂建設にねじ込んできたのは、あの濃い顔だそうだ。という事は、放火は奴の仕業?


「ネトイン司教が黒幕ではありませんが、彼は実行部隊を指揮する立場のようです」


 本当の黒幕、中心人物は別にいるというのが、ユゼおばあちゃんの見立てだ。


 そして厄介な事に、その人物は次期教皇候補の一人だという。


「大聖堂を焼くよう指示するような人間が、次期教皇とか大丈夫か? 教皇庁」


 本当、心配になるよ。そのうち聖地まるごと神罰が下るんじゃないかって。


『可能性はあります』


 あるの!? ……さすがに、これはこの場では言えないわ。


「何とか、ネトインだけでも悪事を暴く事が出来れば……」


 悔しそうなジデジルの声に、ちょっと思い出した。あの放火犯達、神罰で強制改心させられてるんだよね?


「あの放火犯達、神罰が下って改心したみたいだから、今頃命令を下した奴の名前をべらべら喋ってるかも」

「では、ネトインの名前も出てくるという事ですね!?」


 かどうかはわからないけど、少なくとも聞かれた事には正直に答えるんじゃないかな。尋問とかは、フォックさん達がしてくれるっていうし。


「今は、デンセットという街の牢屋にいるんですよね? 黒幕連中の手が伸びないといいけど……」


 ユゼおばあちゃん、神罰のところはスルーですか。


「放火犯については、大丈夫だと思う」

「あら、サーリが何かやらかしたのかしら?」

「やらかしてませんー。ちょっと牢屋に細工しただけですー」


 検索先生にアドバイスをもらったので、護くん達の一部を牢屋においてきたんだ。不審者は近づけないようにって言いつけて。


 フォックさんにも、その辺りは説明済みだから、牢屋には近づかないよう指示が出てるはず。


 でも、黒幕に関わる人間なら、そんな事お構いなしに牢屋の放火犯に接触するよね?


「戻ったら、何か引っかかってるかもー」


 そう考えると、帰るのが楽しみだなあ。

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