第253話 帰る?
「あなた達……」
ジデジルが、怒りを露わにしてゆっくりと三人に近づく。
「自分達が、何をやったか、わかっているのですか?」
爆発しそうな感情を抑えてるからか、ジデジルはゆっくりと、区切りを付けて問いただす。
「これは天罰だ!」
「そうだ! 神聖な教会に女の身で出しゃばりおって!」
「これは女教皇に対する、神の罰なのだ!」
はいアウトー。自分達が火を付けた癖に、それを神様のせいにしちゃいかんよ。
『これは神罰が適応されてもいい案件ですね』
ですよねー。検索先生もそう思いますよねー。ただ、人への神罰って、執行が遅いって――
「あが!」
……あれ? 放火犯達が、短い悲鳴を上げた途端倒れたよ?
『神子がここにいますので、神罰執行の速度が飛躍的に上がっています』
マジですかー!? あー、でも放火犯だし、ジデジルの事バカにしたし、ユゼおばあちゃんの事も悪し様に言ってたから、別にいいか。
倒れた三人の放火犯達は、口から泡を吹いてる。
『意識が戻ったら、神への真なる信仰に目覚める事でしょう』
え……この神罰って、どういうものなの? 神馬とか、島ドラゴンに対しては痛みって形で下っていたけど。
『意識を失わせたのは、前段階に過ぎません。意識を奪い、しかる後に彼等の意識に神への敬いの心を植え付けました。強制的な改心とも言います』
こわ。神罰こわ。いやまあ、神罰が下るような真似しなければ問題ないんだから、いいのか。
今回は不信心者共が罰食らったって事で。ジデジルが嬉しそうな顔でこちらを見ているけど、今回は私、放火犯をさらし者にしただけだからね。
肝心なところは、神様が直接手を下したらしいよ?
とりあえず、砦に戻って一服。もう時間も時間だから、現場の片付けとか諸々の事は、明日以降って事に決まった。
あ、放火犯達はデンセットで引き取ってくれたよ。牢屋があるから、そこにぶち込んでおくんだって。
フォックさんを筆頭に、現場に駆けつけた人達も凄い怒ってたっけ。大聖堂って、やっぱりみんなの心の拠り所なんだね。
街の普通の教会も大事にしているけど、大聖堂はそれとはまた違うんだってさ。
ジデジル曰く、「街の教会は街の人達のものですが、大聖堂はその地域、国のものでもあるんです」だそうだ。
で、その大聖堂……まだ建築の初期だけど、そこに火を付けた連中は、ジデジルの部下に当たる聖職者だそうな。
「といっても、教皇庁のうるさ方に押しつけられた者達でしたけど……まさか、彼等があんな事をするなんて……」
ジデジルにとっても、建築初期とはいえ聖職者が大聖堂に火を付けたって事が、大分ショックみたい。
彼女はこう見えて、神への信仰は厚い人だから。その信仰心だけで、今の地位に上り詰めたようなもんだからね。
「教皇庁内での権力闘争は知っていましたが、聖職者として神への信仰は当然持っているものと思っていたんですけどね……」
「元々、たいした信仰心も持たずに教会に入ったのじゃろうよ。そうでなくば、いくら目障りな敵を追い落とす為とはいえ、大聖堂建設を妨害しようとは思わんじゃろ」
じいちゃんの言う通りだと思う。それにしても、教皇庁ってそんな事になってたのかー。
ユゼおばあちゃん、一人で大丈夫かな?
「聖下の御身が心配です」
「だよね。一度、教皇庁へ戻る?」
「ですが……」
「あ、じいちゃんの絨毯使えば、街道使うより何倍も早く着くよ?」
「え?」
「そうじゃな。わしも、ちょっと本気を出そうかのう」
「えと……では、お願いしてもいいでしょうか?」
「オッケー!」
という訳で、いきなりですが明日、教皇庁に突撃する事になりました。
空の旅は快適だねえ。
「ピイイピイ」
「気持チイイネ」
今日はブランシュとノワールも一緒だよ。いやあ、いつの間にか二匹の飛ぶスピードが速い事速い事。気を抜いていると、私のほうきも抜かれるよ。
今日はじいちゃんとジデジルを乗せた絨毯も一緒だから、本気で飛んでる訳じゃなさそうだけどね。
二匹が本気で飛んだら、音速超えるかも。
「凄い……下の景色があんなに……」
「下ばかり見ていると、落ちてしまうぞい?」
「ええ? それは困ります」
ジデジル、ちゃんと転落防止の結界が張ってあるから大丈夫だよ。じいちゃんも、知らないからってジデジルをからかわないの。
教皇庁は、北ラウェニア大陸と南ラウェニア大陸を結ぶくびれの北よりに存在する。
標高二千メートルくらいの山の頂上に建っていて、毎日のように巡礼者が訪れる場所なんだ。
その為、山にはもの凄く広くてなだらかな道が作られている。
「あ、そろそろ見えてきたね」
「朝出発して、その日のお昼前に到着するとか……何なんですか、この絨毯……」
空飛ぶ絨毯です。大丈夫、さすがに音速は出ないから。
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