第252話 燃えてる
結局、ローメニカさんにねだられるまま、お酒を渡した。
「飲み過ぎないでくださいね!」
「はあい」
何か語尾にハートマークがついてそうだよ。大丈夫かな。フォックさんなんか、溜息吐いてるし。
蛇酒、作らない方が良かったかね?
砦に戻ってお昼の仕度をしていると、ジデジルが帰ってきた。何か浮かない顔。
「お帰り、ジデジル。お疲れ様」
「ただいま戻りました、サーリ様。あ、いい匂いですねえ」
こういう時、ぱっと切り替えられるのは、さすが教皇庁のお偉いさんって感じだよなあ。私には出来ないです。
ジデジルが問題を抱えているのは、じいちゃんも気づいている。でも、本人が何も言わないのを、私達がどうこう出来ないんだよね。
だから、ジデジルが助けを求めてきたら、すぐに動けるようにしておこうとは話し合ってる。
だから、遠出するような依頼はしばらく受けないでおくんだ。
お昼を食べた後は、またそれぞれのやる事に戻っていく。ジデジルは大聖堂建設予定地へ。じいちゃんは研究室へ。
私はどうしようね。
「たまには温室見に行くか」
現在、畑も温室もほぼほぼじいちゃんの土人形任せ。最近は、土人形を検索先生が操ってるらしい。
そんな事も出来たんだ……
『拡張機能が解放されましたので』
あったの!? 拡張機能。検索先生がどんどんアップグレードされていく……
まあ、恩恵を受けるのは私だから、いっか。
さて温室。ここはエリアごとに最適な温度になるよう調節されてるらしい。いや、作ったのは私だけど、管理は先生に丸投げだから。
作った意味あるのか、って言われたら……どうだろうね? でも、この温室でしか手に入らない果物とかもあるから!
それに、砂糖の木もここで栽培しているし。砂糖に関しては、交易が始まったら今より安く手に入れられるようになるんじゃないかなあ。
イチゴとバイナップルを収穫して、今夜のデザートにしよう。スイーツにしてもおいしいけど、今日は生で食べるんだー。
夕飯も、全員揃っていただきます。今夜のメニューは猪肉と根菜の炒め煮。肉からいい味が出てるなあ。
それにスープと、デザートにイチゴとパイナップル。ちゃんとへたを取ってるし、皮も剥いて一口大に切っておいた。
そしてよく冷やしてある。ここ大事。
「このぱいなっぷるー……ですか? おいしいですねえ」
「言いにくければパインでもいいよ」
ふっふっふ。しっかり熟したパイナップルはおいしいのだ。
そんな和やかな夕飯時が終わりを迎えようとした頃、外から凄い音が響いた。
「何!?」
護くんが、外の様子を映像で伝えてくれる。砦の周辺じゃなかったよね? もうちょっと離れたところだったと思う。
映像の中で、デンセットは変わりがなかった。そのまま映像がパンされていくと、湖の対岸が移る。
あそこ、大聖堂の建設予定地だったんじゃ……
「火が!」
ジデジルが叫んで、外へと飛び出していった。映像の中の建設予定地は、真っ赤な炎が上っていた。
ほうきで上空に駆けつけて、まず火を止める為に人がいない事を確認する。よし、いないな。
じゃあ、まずは範囲で囲って、中の酸素を抜いていこう。こうすれば、火は消えるから。
酸素を抜いた後は、火元の温度を下げておく。これで再燃はしないでしょ。火事場の上空に到着して、全部終えるまで約五分。本当、魔法って便利。
火が消える頃に、じいちゃんの空飛ぶ絨毯に乗ってジデジルが到着した。
「こんな……」
燃えていたのは、大聖堂の基礎部分として掘った地下。そこに積んであった木材が燃えたみたい。
てっきり大聖堂って全部石材で作るんだと思っていたけど、木材も多く使うらしいよ。
その木材が、全部燃えてしまったんだって。
「って事で、放火犯を捕まえようか!」
「え?」
呆然とした顔のジデジルをじいちゃんに預けて、私はぐるりと周囲を見回した。
「そことそことそこにいるあなた達ー。逃げられないからねー」
指差した先にいたのは、ジデジルが着ているのと似た服を着た男性三人。
つまり、同じ聖職者って事だ。
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