第250話 事後ですが
銀髪陛下が、お嬢様の群れを一睨みしたちょうどその時、建物の方から声が聞こえた。
「これは何の騒ぎです?」
あ。ジジ様だ。お、領主様もいるー。
ジジ様、庭に出てこられた途端、群れに向かって一言。
「あなた達、誰の許しを得てここにいるのかしら?」
それはそれは冷たーい声でした。おお、さすがの群れも、震え上がってるよ。
「先日も、似たような事があったと聞いているけれど」
じろり、と音がしそうな目線で群れを見ると、虚勢をはる個体やその個体に隠れる個体、お互い身を寄せ合う個体と様々。
「ともかく、ここは私の宮です。私が出入りを許していない者は即刻出てお行き」
扇でしっしっと追い払うような仕草をすると、群れが一丸となって憤慨したらしい。
で、そこに笑顔の領主様。
「君達、反逆罪で極刑になりたくなければ、すぐに立ち去りなさい。ここは太王太后陛下の住まう、奥宮だよ?」
領主様、今日も笑顔が黒いです。さすがに迫力に押されたのか、群れは一部銀髪陛下をちらちら見つつも、のろのろとその場を去った。
銀髪陛下、群れからの視線は完全無視しましたね? まあ、鬱陶しそうだもんなあ。
「まったく、私的とはいえ、それぞれの家に抗議文を送ったというのに」
「俺も送りましたよ」
「これがどういう事か、わかっていますね?」
「もちろんです」
「では、どうするべきかも、心得ていますね」
「当然です」
……ジジ様と銀髪陛下のやり取りが、ちょっと怖いんですが。二人とも、声が冷たいよ。思わず一歩、また一歩と離れちゃった。
「サーリ、大丈夫だったかい?」
「あ、はい」
領主様が、ちょっと心配そうな顔でこちらに来た。先程の黒さは、もうどこにもない。
でも、油断してるとすぐあの黒さが顔を出すんだよなあ。
「私に用があったのだったね? 表の執務室でいいかな?」
「あら、場所なら奥宮で用意しますよ。少し、先程の事も聞きたいから。それとも、ジンドとの話は私達に聞かせられないものかしら?」
「いえ! ただの事後報告なので」
ええ、何もやましい事は……ある、かな? 何せ事後報告だから。でも、いい話もあるし、プラマイゼロって事で!
奥宮の庭園が見渡せる部屋は、窓が大きくて明るくて綺麗。その部屋に、ジジ様と領主様、それに銀髪陛下と剣持ちさんがいる。
何故、この二人も?
「カイドは先程の中庭での一件を聞きたいそうよ」
「ああ、そうですか」
さっき、銀髪陛下も前回の群れ騒動の件で抗議文を送ったって言っていたもんね。
……それでも、あの群れは奥宮の中庭に来たんだ。本来なら、許可なく立ち入っちゃいけない場所に、王族からの抗議文も無視して。
それは、大分ヤバいのではなかろうか。
「さて、事後報告とは何かな?」
「お前、今度は何をやらかしたんだ?」
失礼だな、銀髪陛下は。領主様が言うように、事後報告ではあるけれど。
「旧ウーズベル領にある山で、鉄鉱石の鉱脈と銅鉱脈を見つけました」
「何?」
「本当か?」
「間違いありません。で、その山で、ちょっと大きな蛇を狩りました……」
「蛇?」
三人に聞かれて、言葉に詰まる。剣持ちさんまで興味津々な顔で見てこないで。
結局、視線による事情説明要求に耐えきれず、渋々話した。
「フォックさんが疲れてるって聞いたから、何か疲労に効くものはないかと思って探したんです。そうしたら、魔獣の蛇を漬けたお酒がいいってあって、それで……」
「山へ蛇を狩りに行った、と?」
「で、その次いでに鉄鉱石と銅の鉱脈を見つけたんだな?」
領主様と銀髪陛下の言葉に、無言で頷く。ジジ様も加えた三人で、何やら話し込んでるんだけど。もう報告は終わったのになあ。
「その、蛇はどのくらいの大きさだった?」
「えーと、このくらいです」
多分。両手を広げたよりも大きかったよね、あの胴体。多分、私が三人か四人はいないと囲めないと思う。
大きさが伝わったのか、三人とも驚いた顔をしてるよ。
「そんな大きな蛇を狩ったの?」
「確かに君は、色々な魔獣を狩ってるけどねえ」
「それにしても、普通、女は蛇を見たら悲鳴を上げて逃げるんじゃないのか?」
そりゃ、私も蛇は嫌いだよ? でも、触れなければなんとかなる。見るのも嫌なのは虫だから。
でも、あまり喋るといらない事を言いそうだから、黙っておく。
「とにかく、蛇の件と鉱脈の件はわかった。報告ありがとう。後で、どこの山かだけ、地図に記しておいてくれ」
「わかりました」
「さて、ではこちらの話を進めましょうか? あの小娘共は、あなたに何を言ったのかしら?」
わー、領主様が引っ込んだと思ったら、次はジジ様がずいと前に出てらしたー。
私、いつになったら王宮を出られるんでしょうね?
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