第249話 群れ、再び
とりあえず、すぐにやらなきゃいけない事は終わった……はず。あれこれ依頼受けてる分に関しては、まだ日数に余裕があるから。
「えーと、亜空間収納内で磁器は作ってあるから渡すだけだし、ジジ様達からの依頼品は絶賛制作中だし、フォックさんにはちゃんとお酒渡したし」
お? これはまた温泉に入り浸ってもいいって事かな?
『新しい温泉を堀りに行きましょう』
あー、それもあったねえ。とりあえず、検索先生に出してもらった地図を見たところ、コーキアン領からはずれてるところばかりなんだよなあ。
一応国内ではあるんだけど、余所の領となると、温泉掘るにしても建物建てるにしても、取らなきゃいけない許可が面倒というね。
領主様の領内なら、最悪事後報告でもなんとかなるそうな。だって本人からそう言われているし。
あ、蛇を狩った山の事、まだ報告してないや。
「ついでに、他の領で温泉掘っても大丈夫か、許可が取れそうか、相談してこよう」
朝食後に研究室に向かったじいちゃんに、出かけてくる事を伝えて砦を出る。
はて、今日は領主様、どこにいるんだろう?
『王宮です』
ありがとー、先生。じゃあ、王宮へ……奥宮でいいか。
奥宮と領主様に、奥宮の中庭に下りる事を伝えておく。来る時には必ず報せろって言われてるからね。
で、中庭に来たら……なんでまたお嬢様の群れがいるの? 群れは総勢十二人。カラフルなドレスの花が咲いております。見てるだけなら綺麗だけどね。
何せギャーギャー喚いてるから、色々台無しな感じ。面倒だなあ、もう。
最初の時はびっくりしたし怖かったけど、考えたら群れを沈静化させる方法なんて、たくさん持っていたんだった。
お嬢様の群れ、恐るるに足らず。とはいえ、あの中に下りる気にはなれないよねえ……
どうしたものか、と困っていたら、中庭に侍女さんの一人、シーナさんが来た。
「あなた方! ここをどこだと心得ているのですか!!」
怖い顔で怒鳴った彼女に、群れも一旦おとなしくなる。でも、またすぐかしましくなった。
「あなたこそ、わたくし達を誰だとお思い?」
「いやねえ、宮廷でも落ち目の人は」
「私達、お父様の許可をきちんと得ているのよ!」
群れを統率している集団は、バカだったらしい。シーナ様が青筋立てて怒ってるのが、見えないのかな。
ひとしきり群れのボスっぽいのがきゃんきゃん喚いた後、何も返さずじっとしているシーナ様に、悪態を吐く。
「何を黙っているのよ。何とか仰い!」
「ここは、太王太后陛下であらせられるジゼディーラ様のおわす宮。太王太后陛下、並びに国王陛下の許可なき者が気安く立ち入れる場所ではありません。あなた方の『お父様』とやらは、両陛下よりも上の存在だとでも仰りたいのかしら?」
シーナ様は淡々と事実を告げている。その内容に、さすがの群れも怯んだ。そこへ、新たな人物登場。
「何の騒ぎだ?」
銀髪陛下だった。群れから黄色い悲鳴が上がる。シーナ様はさすがに落ち着いてらして、すぐに銀髪陛下に淑女の礼を執った。
でも、群れは銀髪陛下にまとわりつく方を選んだらしい。
「カイド陛下! まあ、このような場所でお会い出来るなんて、夢のようですわ」
「陛下、お聞きください。あの方、酷いんですのよ」
「そうですわ。前回も今回も、私達の事を邪魔者扱いして。本当に、何様なのかしら」
おいおいおい。前回の件で、ジジ様から各家に何かあったんじゃなかったっけ? あの時の笑みを思い出しても、ただで済ませたとは思えないんだけど。
そして、群れに群がられた銀髪陛下は、眉間に皺を寄せて深ーい溜息を吐いた。
「パエシナ、報告を」
「はい陛下。過日の件につきましては、既にご報告いたしている通りにございます。本日は……あちらにおります者より手紙が届きまして、本日こちらに参るとの事でした。それで出迎えましたら、この有様にございます」
「そうか……あの件に関しては、こちらからも厳重注意をしておいたと思ったが……」
そう言って、銀髪陛下は周囲の群れを一睨み。さすがの群れも、怯んだみたい。
その様子を見てから、銀髪陛下がこちらを見上げた。
「下りてこい」
ちぇー。何で銀髪陛下が命令するのさー。まあ、しょうがない。王様だもんね。
ゆっくり中庭に下りると、群れから抜け出て銀髪陛下がこっちに来た。後ろにはシーナ様。
「相変わらず便利だな、それは」
銀髪陛下、目が「欲しい」と言ってますよ。
「これ、魔力がそれなりにないと使いこなせませんよ?」
「そうか……」
やっぱり、よこせというつもりだったか、もしくは同じものを作れというつもりだったか。
こんなの銀髪陛下が手に入れたら、周囲の人達が困るのが目に見えてるからね。まあ、魔力ないと使えないってのは、本当だけど。
「今日は何をしに来たんだ?」
「領主様にご報告と、ちょっとご相談が」
「領主? ……ああ、ジンドか。ジンドに会うのなら、表の中庭の方が早いだろうに」
「それは……そのう……」
はっきり言っちゃっていいんだろうか? 群れが邪魔くさいって。
言い淀んでいたら、シーナ様が凄くいい笑顔で銀髪陛下に声をかけた。
「カイド陛下。周囲をご覧くださいまし。このような状況では、下りたくとも下りられませんでしょうよ」
ええ、全くもってその通りでございます……
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