第248話 お味はいかが?

 亜空間収納内で、時間経過をいじって蛇酒を造ってるそうなので、すぐに飲めるように出来てるって。


 なので、瓶に詰め替えてフォックさんに届けようかと。


「何か、デンセットに来るのも久しぶりー」

「本当だよ。今まで砦に籠もりっきりだったのか?」

「そうでもないんだけど……籠もりっきりは、そうかも」


 籠もっていたのは、温泉別荘の方だけどねー。顔見知りの門番さんとそんなやり取りをしてから、街中に入る。


 春もそろそろ終わって、短い北の夏が来る頃。街も活気づいているみたい。


「あ! サーリ!!」


 大通りを組合目指して歩いていたら、通りの向こうから名前を呼ばれた。ローメニカさんだー。


「あー、何かお久しぶりですー」

「久しぶりじゃないわよ! さ、早く来て!」


 有無をも言わさず、ローメニカさんは私の手を取ると、通りを駆け出す。もちろん、行き先は組合だ。


 いつものように上階のフォックさんのところへ。


「ん? サーリか?」

「ちょ! フォックさん!? どうしたの? そんなにやつれて」


 人相まで変わってるよ! 全体にくたびれた様子が隠せないでいる。


「ちょいと、ここ最近仕事が立て込んでいてな……」

「あー……なんか、ごめんなさい?」


 まず間違いなく、金山だったり銀山だったりダイヤモンド鉱山だったりの関係だよね? でも、何で離れたところの鉱山の仕事まで、フォックさんに関わってくるんだろう?


「デンセットてのは、そういう街なんだよ」

「領主様関連の土木関連、冒険者関連の仕事は、デンセットに集中するようになってるの」


 ああ、だからフォックさんの仕事が増えてるんだ。もちろん、下の人達の仕事も増えてるんだろうけど。


 それぞれの山の周囲で魔獣を狩っておかないと危険だから、その人員確保やら派遣やら、採掘場所までの道を作る為の人足選びやら何やら、他にも物資の調達なんかも請け負ってるらしい。


「……領都では、そういう業務を行わないの?」

「あっちは商業中心だ。で、こっちは手工業が中心。職人やら人足は、こっちに集中してるから、こっちで諸々引き受けた方が効率がいいんだよ」


 あー、重ね重ねお疲れ様です。では、そんなお疲れのフォックさんに、検索先生お勧めの蛇酒を送りましょう!


「これ、良かったらどうぞ」

「何だこりゃ?」

「随分綺麗な入れ物ねえ……どこで手に入れたの?」


 しまった、瓶に食いつかれてしまったよ。なんの変哲もない、普通のガラス瓶のはずなのに。


 ガラスの材料に関しては、邪神再封印の旅の時に頑張って集めたもの。自分用に、いくつかガラスの器が欲しくてさ。


 食器も何もかも、大体木製、あっても素焼きの入れ物ばっかりなんだもん。面白みがないったら。


 で、検索先生に問い合わせたら、珪砂やら何やら集めればガラスが作れるって教えてもらったので、作ったさ。


 思えばあの頃から、なければ作ればいいじゃない、の精神だったんだなあ。


「えーと、入れ物に関しては黙秘します。偶然手に入れたものなので」

「どこで?」

「……向こうの大陸で」


 便利なワードだなあ、「向こうの大陸」って。これを出しておけば、追求から逃れられるよ。


 ローメニカさんも、これ以上言っても無駄だと思ったらしく、それ以上聞いてこないし。


「で? 中身は何だ?」

「えーと、お酒なんですけど」

「酒え?」

「あ、ただのお酒じゃなくて、えーと、疲れによく効くらしいです」


 ……で、あってるよね? その為にあんな馬鹿でかい蛇を捕まえてまで、造ったんだから。


 フォックさんとローメニカさんは半信半疑らしい。まあ、いきなりこんな事言われても、「何だそれ?」だよねえ。


「少し味見してみましょうか」


 ローメニカさんがそんな事を言って、器を三つ持ってきた。何故三つ?


「あら? サーリも飲むんじゃないの?」

「いや、私お酒は苦手だから……あ、それとこのお酒、飲むときはそのままでなく、お湯とかで割った方がいいそうです」


 度数が高いんだって。検索先生、本当に何造ってくれてんですか……


「そうなのね。じゃあ、下でお湯をもらってきます」


 ローメニカさんは、すっかり呑む気満々だ。フォックさんは、そんな彼女を停める気力もないみたい。本当に疲れてるんだね。


 お湯をもらってきたローメニカさんが、瓶からお酒を少しずつ器に注いで、その後お湯を注ぐ。


 器をそれぞれ持って、フォックさんとローメニカさんが口を付けた。味は、どうなんだろう?


 ドキドキしながら見ていたら、飲み終わった二人が目を見開く。え? もしかして、変な味だったとか?


「何だこれ……」

「すっごいおいしい」


 あ、そっちか。何だか、気が抜けた。


 結局、ローメニカさんも一本欲しいと言い出したので、彼女にも一本進呈する事にしましたー。いつも何かとお世話になってるからね。


 あれ? これ、賄賂とかにならないよね?

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