第245話 群れは怖い
砦を出たところで、前に王宮に行った時に剣持ちさんに言われた事を思い出す。確か、行く前に連絡をよこせ、だったよね?
「でも、こっちにはスマホとかないからなー」
『手紙なら、届ける術式があります』
「え? 本当?」
『送る相手を明確に思い描けないといけませんが、そこはアシストします。まずは、文面を考えましょう』
なんでも、魔法で飛ばすので、手紙そのものもそう見えるように魔力を見せかけるんだって。
そうか、魔力そのものを飛ばすから、相手を思い浮かべられれば、どこにいても送れるんだー。
さて、送る相手は誰にしよう? 剣持ちさん……は、イメージがぼんやりしてるなあ。本人よりも、剣のイメージの方が強い気がする。
銀髪陛下は却下。いきなり一国の王様に魔力飛ばすってどうよ? 後で文句つけられても困るし。
領主様……は、この試作品にはあんまり関わっていないしなあ。いや、素材を教えてもらいましたけど。
それも結局用意してもらったものじゃなく、自分で狩りにいったしね。ヒツジこわ。
んー、となるとやっぱり、送る当人になるかー。
「いきなり太王太后陛下に魔力送って、大丈夫かな?」
『では、女性好みになるよう、仕掛けを施しましょう』
「仕掛け?」
『手紙を開封した時に、花と香りが飛び出すようにします』
「おお、仕掛け手紙かー。何か面白そう」
あの太王太后陛下なら、多分喜んでくれると思う。手紙の文面は……ローデンでならった手紙の挨拶文を使うか。
さすがに拝啓とか前略とか使う訳にもいかないしね。
「うーんと、こんな感じで」
脳内に思い浮かべた紙に、イメージで文字を綴っていく。ダガードの文字は、検索先生が教えてくれた。というか、情報ごと頭に焼き付けられた感じ。
ま、まあ、便利だからいいよね。まずは簡単なご挨拶、いきなり手紙を送る事の非礼をわびて、試作品が出来上がったからお届けに上がります、王宮の中庭に下りる予定です、と。
「よし、こんな感じでどうでしょう?」
『到着予定時刻も記入しておきましょう。では、送りますね』
よろしく。あ、返事をもらわずに行っちゃっていいのかな? いいか。手渡してささっと帰ってくればいいんだから。
手紙を送って、ほうきでのんびり王都を目指す。空を使うっていっても、砦から王都までだと片道三時間くらいかかるからね。
それも計算に入れて、検索先生が手紙に到着予定時刻を書き加えてくれたらしい。本当、先生には毎度お世話になっております。
『温泉でのお返しを期待しています』
そ……そっすか……。いや、温泉は、ほら、私も好きだし、じいちゃんも好きだし。
それに、新しい温泉と聞いたら、私も気になるし。お互いに利があるからいいんですよ!
さて、王宮に到着して中庭……って、何かたくさん人がいるんだけど!?
「これ、下りていいのかな? ……あ! 陛下の侍女さんめっけ!」
若い女性が群がる中、一人だけ異色に見える太王太后陛下の侍女さん。いや、周囲との年齢差が……ね。
ほうきで中庭に下りると、何故かドレス姿のお嬢さん方に取り囲まれた。
「ちょっと! フェリファー様にちょっかいかけてる女って、あなたの事!?」
フェリファー? 誰の事? それ。
「ちょっとお待ちなさい。フェリファー様なら問題ありませんわ。問題なのは、カイド陛下に近づいているという事よ!」
カイド? ……陛下ってくらいだから、銀髪陛下の事だよね? 太王太后陛下はジジ様だから。あれ? 正式には違うんだっけ?
こっちの人の名前って、憶えづらいんだよ……
「聞いてるの!?」
「はえ?」
お嬢様軍団から一斉に言われて、変な声が出た。お嬢様も群れになると怖い生き物に変わるんだよなあ。
「あなた方、そのくらいになさい」
群れの外から、落ち着いて声が響いた。
「その者は、太王太后陛下の客人ですよ。お下がりなさい」
「ふ、ふん! 伯爵家……それも落ちぶれた家の者が、私にたてつこうというの?」
「ええそうですね。あなたは侯爵家の娘という身分で、官位も持たない存在ですから」
「んまあ!」
「王宮官位第三位の私に、もの申したいのなら私と同等の官位を手に入れてからになさい。ああ、ちなみに、あなたの父君は私より二つ程官位が下ですよ」
侍女さんの言葉に、蔑んだ目を向けていたお嬢様が驚きか怒りか、目を剥いた。あーあ、折角綺麗にしてるのに、そんな顔したら色々台無し。
「さあ、ジジ様のもとへ参りましょう」
「あ、はい」
周囲のお嬢様の視線が痛いけど、このままここにいるより太王太后がいらっしゃる奥宮に行く方がいいや。
いやー、それにしても。どこのお嬢様も戦闘力高そうだねえ。楚々とした可憐なお嬢様って、絶滅してるのかしら?
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