第244話 試作品
毛織物を作る為、材料のオオツノヒツジの毛を狩りに来た。間違えてない。狩りです。
その証拠に、私の周囲には殺気立って電撃を放ちまくるオオツノヒツジの群れが。
「うひいいい、バチバチいってるううう」
『結界内は電撃が通りませんし、物理攻撃も通りません。安全です』
「そうは言っても……お、このヒツジ、なかなかいい毛をしてるよ」
『刈り時ですね』
もっこもこのヒツジは、遠くから見ただけならぬいぐるみっぽく見えるけど、角がしっかり見える範囲で見ると、かなり凶悪。
そのヒツジたち、縄張りを荒らす生物は殲滅するタイプらしく、この草原に来た途端、四方八方からの電撃攻撃。
検索先生にアドバイスされた通り、草原一歩手前から結界を張っておいて良かったー。
オオツノヒツジは殺さずに、毛だけ刈り取るので面倒と言えば面倒。これ、結界がない状態では、厳しかっただろうなあ。
普通は薬を使ってヒツジを眠らせ、その間に毛を刈り取るらしいよ。しかも、軍隊で周囲を警戒しながら。
電撃も厄介だけど、あの角を使って突進もしてくるそうなので、専用の大盾が必要なんだとか。
南ラウェニア産で、結構お高いらしい。その分、オオツノヒツジの毛は高値で売れるし、何より貴族が自分の分を狩るのに私兵を使うんだって。
「あ、電撃が少し弱くなってきた」
『オオツノヒツジの電力の元は、体毛を使った静電気ですから、毛が刈り取られると電撃も弱くなるんです』
丸刈りしているからね。毛を刈り取られたオオツノヒツジは、体の大きさが半分以下になってるよ。どんだけもこもこだったんだ。
私の周囲に集まっていたヒツジの毛は、全部刈り取らせてもらいました。大量にゲット出来たので、いい毛織物が作れそう。
刈り取った毛から毛糸を作るには、色々な工程が必要らしいよ。ここで何度目かの雄叫びを。
魔法って、素晴らしい!
毛と脂分、ゴミなんかを完全分離、繊維の方向を揃えて糸紡ぎまでを流れ作業で亜空間収納内で行う。
そして出来上がったのが、とても質のいい毛糸。
「おお……」
出来上がった毛糸の束を、砦の居間で眺めていたら、研究室から出て来たじいちゃんが来た。
「それで、毛織物を作るんかのう?」
「うん」
「……もう少し、品質を落とす事をお薦めしておくわい」
……品質良すぎて、危険らしい。この毛糸はお試しで作った一巻きなので、これから先作るのは、ちょっと糸の太さにばらつきがあったりするのを用意するかな。
そして、糸が出来上がると言う事は、織物への加工も必要という事。
「じいちゃん、織りの工程も魔法を使うつもりなんだけど、これも少し品質落とした方がいいかな?」
「その方が無難じゃな」
やっぱそうか。面倒だなあ、もう。でも、「神子である」事を隠す為だから、仕方ないか。
糸にばらつきを入れたので、織りもちょっと不格好になるよう調整。この辺りは、検索先生が手を加えてくれている。
ありがとう、先生。また温泉を堪能しに行きましょうね。
『絶対ですよ?』
……珍しく主張されました。ええ、もちろん、ちゃんと堪能しに何度も行きますとも。
『……実は、ダガードには他にも温泉が出る場所があるようなのですが』
え? 本当に?
『しかも、場所によって効能が違います』
えー、それ、他のところのお湯にも入りたいなー。
『ですよね!? という事で、場所をしっかり調べておきます。温泉用の建物を作る準備をしてください。あ、妖霊樹は在庫が減っていますので、近々狩りに行きましょう。他の素材も、多めに採取しますよ』
検索先生が、大変にやる気です……
試作品の毛織物が出来上がった。今回は本当に試作なので、色も生成りで染めていないし、模様もいれていない。
こんな感じに仕上がりますよーというのを見せるだけなので。
「という訳で、王都まで行ってきます」
お届けに行くだけだから、一人でちゃちゃっと行ってちゃちゃっと帰ってこようと思う。
「気をつけての」
「サーリ様お一人で大丈夫でしょうか?」
じいちゃんはあっさりしたものだけど、やっぱりジデジルの心配性が出た。
「大丈夫だって。何度も行ってる場所だから、迷ったりしないって」
「いえ、そういう訳ではなく……」
そういう訳じゃないなら、どういう意味なんだろね? まあいいや。大聖堂建設も忙しいみたいだし、そっちはそっちの仕事を頑張って。
何かね、基礎工事が遅れてるらしいよ。教皇庁の方から技術者を何人か派遣してもらってるみたいだけど、トラブルが発生してるみたい。
じいちゃんからの情報だから、多分間違いはないんだろうと思う。でも、ジデジルが協力を要請してこない限り、私達は動けないからね。
ジデジルも有能な人だから、大丈夫でしょ、多分。
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