第243話 布地の山

 温泉別荘にお三方が突撃かましてくれた翌日、早速領主様にお屋敷まで呼び出されました。


「フォックさんがげっそりしてましたよ?」

「はっはっは。あいつは少し働き過ぎなのかもな。今度休暇をやろう」


 うん……働き過ぎの原因の一つは、領主様からの依頼が多いってのもあると思うんだ。


 ただ、その依頼ってのが、例の金山だったり銀山やダイヤモンド鉱山関連なので、遠く私にも関わってきそうなのが……ね。


 ごめん、フォックさん。今度いいお肉奢ります。あ、お酒の方がいいのかな?


「それで、服の布地が欲しいという事だったな? 太王太后陛下に、服を仕立てると」

「ええ、そうです。服と言っても、完全に室内着ですから」


 つまり、公式の場に着ていくようなものではなく、プライベートな品ですと強調しておく。


「ふうむ……君、太王太后陛下とは、随分と親しくなったんだねえ?」

「ええと……」


 最初に王宮の奥宮で出会った時は、緊張しかなかったはずなんだけどねえ。やっぱり、別荘に押しかけられたから?


 何か、あれから王族って目じゃなくて、仲のいい友達とわいわいするのが好きなおばあちゃん、って感じで見るようになっちゃった。


 そして、私は自他共に認めるおばあちゃんっ子です。おじいちゃんっ子にならなかったのは、どっちのおじいちゃんも、私が生まれる前に亡くなってるから。


 じいちゃんはいるけどね。血は繋がっていないけど、私は「家族」だと勝手に思ってるから。うん。


 でも、こんな事を説明する訳にもいかないしなあ。あ、そうだ。


「そのー、別荘で、ドレスだと着脱が面倒という話を聞きまして、だったら体を締め付けない、着脱が比較的簡単な服はどうかと提案したんです」

「それで、仕立てる話までいったと?」

「ええ、まあ……」


 ……嘘は言っていないよね? 見せたのがサロペットスカートだってだけで。あの形は、さすがにこっちの国にはないよなあ。向こうの大陸にもないと思うけど。


「まあいい。太王太后陛下がお望みなら、私としても全力で協力しよう」


 領主様の全力か……ちょっと怖い。




 そして、その予想は大当たりでしたー。目の前に、服の布地の山、山、山。


「何でこんなにたくさん!?」

「いや、陛下のお好みがわからなかったのでねえ」


 なんとなく、嘘っぽい。領主様ほどのやり手なら、絶対に太王太后陛下の好みくらい、把握してるはず。


 うーん、しかしこれだけ布地があると、迷うねえ。プリント系は少ないのは、後で刺繍とか入れるからかな?


 ドレスって、柄が全て刺繍だったりするんだよ。凄いよね。あれに一体どれだけの人手をかけてるんだろう……


 あと、毛織物の場合はそもそも柄や模様を織る際に入れてる事が多い。こちらも職人が手作業でやるので、一枚織り上がるのにすごい時間がかかるんだって。


 あ、毛糸もある。


『オオツノヒツジの毛から作られた毛糸ですね。保温力が高く、耐久性にも優れ、染色にも適応しています』


 ほほう、何気にスペック高いな。あれ? でも、角羊っていなかったっけ?


『あれとは別種です。巻いた角以外に、額に大きなねじれた角を持つのが特徴です』


 こわ。刺す気満々ってやつですね。うーん、手触りもいいし、これを使うのも手かなあ。でも、毛糸だと織物じゃなくて、編み物になっちゃう?


『もう少し量があれば、織物に加工可能です』


 そうなんだ。


「領主様、この毛糸、もう少し量、揃えられませんか?」

「どれかね? ああ、オオツノヒツジの毛糸か……何なら、毛糸狩りに行ってはどうかな?」

「けいとがり?」


 なにそのネーミング。領主様の話によると、このオオツノヒツジは人が飼い慣らす事が出来ず、毛が欲しい場合は文字通り狩りに行くんだって。


 でも、殺しちゃうと数が少なくなるから、殺さず気絶させて毛を刈り取ってくるそうな。


「気をつけなくてはいけなのは、額の角から魔法攻撃をしかけてくるんだよ。だから、毛糸狩りに行く場合は、軍隊を仕立てる事もある」

「ぐんたい……」


 どんだけ危険動物なんだ、オオツノヒツジ。


『額の角から高圧の電流を放ってくるので、文字通り命がけです』


 こわ! ヒツジこわ! でも、丈夫でいい毛糸を手に入れる為には、仕方ないか。


 あ、コビトヒツジの毛じゃだめなのかな?


『あれには安眠効果がついていますから、布地には向きません』


 そっか……服着た途端寝ちゃったら、問題だもんね。それに、飛行船の時にたくさん使ったから、在庫が心元ないし。


 よし、じゃあオオツノヒツジの毛を刈りにいこうか!

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