第241話 イチゴミルク
さすがにこんな凝ったドレスを脱がせるの、私じゃ出来ませんよ? 領主様や銀髪陛下は、剣持ちさんが手伝うんだろうけど。
二人はとっとともう一つのお風呂場に向かう脱衣所に行ってる。そっちはじいちゃんが案内してくれてるみたい。
そして、こっちの脱衣所に残されたのは、太王太后陛下と私だけ……じゃない!?
なんか、わらわらとかなり年季の入った侍女さん達が……え? 本当にいつの間にいたの!?
慌てる私に、太王太后陛下がにっこりと微笑んだ。
「表の道に馬車を停めてるの。そこに待機させておいたのよ。あなた達、靴はきちんと脱いできているわね?」
「はい、フェリファー殿に話を聞きました」
「そう。では、お願い」
そう言うと、脱衣所で侍女さん達三人が太王太后陛下を剥いていく。うん、あれは脱がせるというより、剥くだわ。
しっかし、あれは確かに一人では脱げないし、着れないよなあ。そんな太王太后陛下を横目に、そろーっと脱衣所を出ようとしたら、捕まった。
「何をしているのです? あなたも一緒に入りますよ」
うわーん、やっぱりー?
ダガードって、他人と一緒にお風呂に入る習慣、あるのかな?
「私と一緒では不服ですか?」
「いえ! とんでもないです!」
「そう。てっきりカイドと一緒がいいのかと――」
「やめてくださいおねがいします」
速攻遮っておいた。本当、銀髪陛下と一緒とか、勘弁してくださいよ、もう。
「あの……ダガードって、他人と一緒にお風呂に入る習慣とか、あるんですか?」
とりあえず、気になった事を確かめておこうっと。今なら、何か答えてくれそう。
「庶民はどうかはわかりませんが、王侯貴族なら侍女は入浴の手伝いをしますから、一緒に入りますよ」
「え? じゃあ、脱衣所にいる侍女さん達は……」
「彼女達はお互いにドレスを脱がせなくてはなりませんからね。もうじき入ってくるでしょう。ああ、でもこの露天……だったかしら? こちらには来たがらないかもしれないわねえ。こんなに気持ちいいのに」
おおう、太王太后陛下はもう露天風呂の魅力に取り憑かれているらしい。気持ちいいからね、露天風呂。
『ええ、本当に最高です~』
検索先生も喜んでくれてるし、良かった良かった。広く作った露天風呂の湯船で手足を伸ばしてリラックスしていたら、内風呂からこちらに出てくる扉辺りで、声がした。
「ジジ様。そちらに参りましても、問題ございませんか?」
「ええ。とても気分がいいわよ。覗きの心配もないそうだし、あなた達も早くいらっしゃい」
「まあ、ほほほ。私共のようなおばあちゃんを覗きたがる好き者など、いないでしょうよ」
侍女さん達は、笑いながら露天風呂に入ってきた。あ、こっちにもちゃんと会釈してくれる。私もにこやかに会釈を返した。
……にしても、ジジ様? 太王太后陛下の名前って、そんな名前だったっけ? もうちょっと違ったような気が。
「どうかしましたか?」
「え? あ、いえ。先程皆さんが、太王太后陛下の事をジジ様と呼んでらしたような気が」
私の疑問に、太王太后だけでなく、侍女さん達も何故か笑う。侍女さんの一人が、笑いを押さえながら教えてくれた。
「太王太后陛下のお名前は、ジゼディーラ様と仰るでしょう? ですから、ジジ様は陛下の愛称なのです。わたくし達側仕えには、愛称で呼ぶようにとお達しがあったのですよ」
「いつまでも堅苦しい呼び方をされたくなかったのですよ。あなた達だって、お互いに愛称で呼び合うでしょう?」
「そうですわね」
そう言って笑い合う四人は、きっと身分とかを飛び越えた関係なんだろうなあ。いいなあ、そういうの。
私にもそういう友達がいればなあ……あ、ジデジルは却下で。あのストーカー気質はちょっとねえ。
ひとりしきり温泉を楽しんだ後は、湯上がりに浴衣とイチゴミルク。もちろん、全員分出しましたよ。
「まあ、何ておいしいの!」
やっぱり、太王太后陛下はお気に召した様子。甘い物がお好きのようだから、きっとこれも気に入ると思ったんだよねえ。
侍女さん達にも好評のよう。しまいには「作り方をぜひ!」と迫られたけど、ダガードにはイチゴがないしなあ。
「申し訳ありませんが、使っているフルーツは私の手元にしかないんです」
「まあ……」
「では、王宮で楽しむ訳にもいかないのかしら?」
「毎日飲むのは……どうでしょうね? 結構砂糖が入ってますから、飲み過ぎると太るかも」
その前に、糖尿病かな? でも、太るというワードは、さすがに女性には効き目がありすぎたみたい。諦めてくれました。
その代わり、この別荘に来た時だけは出すと約束させられました。……頻繁に来ない事を祈るよ。
浴衣も、何だか好評のよう。
「軽くて脱ぎ着もしやすいわね」
「体を締め付けないのが、こんなに楽だとは!」
「ぜひ! 奥宮だけででも、使いましょう!」
太王太后陛下よりも、侍女さん達の目がマジでした。
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